第30話 急におしりが来たので

「え? 俺とお風呂入るの?」


 成生はリリアと一緒にお風呂へ入ったことは無い。それどころか、幼少期にさかのぼっても、女の子と一緒に入った記憶が無い。

 そうなると、照日と入れば女の子と入るのが初めてのことになるが、最初がこんな見た目小さな女の子でいいのだろうか。いや、よくない。

 そもそも、なぜ?


「だってー、るー一人で入るの怖いし、いままでのお兄ちゃんたちはいっしょに入ってくれてたよ?」

「だとしても、例えばリリアさんと入るとかは?」

「えー、るーはなりお兄ちゃんとはいりたーい」

 照日は口を尖らせた。


 そんな不満そうな顔されても困るんだけど。

 一緒に入るということは、当然照日の裸を見るわけで……。


 そんな趣味はないので、照日の裸を見て正直な身体がうっかり反応することは無いと思う。多分……多分ね。

 そっちよりも、心配なことが一つある。


「って言ってるんだけど、いいの? 俺が照日ちゃんと入っちゃって」

 リリアに嫉妬されても困る。念のために訊いてみた。


 訊く前から、なんとなく答えは見えていた。

「成生さんが望むなら」

 やっぱりね。

 望んで入る訳じゃないんだけどな。流れでこうなっちゃっただけで……。




 そんな訳で、脱衣所。

 成生は今日会ったばかりの照日と脱衣所にいる。


「ん、しょっと」


 照日はためらいも無く服を脱いで、白で縁取られた赤い肌着と、赤と白のしまパン姿になっていた。

 しまパンなんて、実物は初めて見た。実在してたんだな。想像上のモノだと思っていたが。


 こうして見ると、やっぱり照日って小さい子だと思う。本当に軽量化を目指して小さく造ったのだろう。

 子どもな見た目はどうかと思うが。

 これで人間じゃないなんて信じられないけど、もし人間だったら色々とアウトだ。人間じゃなくて良かったと思う。


 色々考えつつ照日を見ていると、目が合ってしまった。


「なに? なりお兄ちゃん、るーによくじょーした?」

「してないしてない」

 まだ。

 でも、この調子だと分からない。この風呂イベントはなんとか切り抜けないと。



 風呂場では成生が先に身体を洗い、湯船に浸かった。これなら、うっかり身体に何か変化があっても簡単にバレないだろう。


 そして髪や身体を洗う照日を見ていると普通に洗えているようで、

(これなら一人でも入れたのではないか?)

 と思う。


 だけど、怖いと言ってたから一人じゃムリなのだろう。もしくは、男と入るのが普通だと思っているか……。どっちにしても困るのだが、今後照日が居続けるなら、これが毎日続く。

 いけないことをしているようで、ちょっと複雑な気持ちだ。



 洗い終わった照日が湯船に入ってこようとする。

「照日ちゃん。向こう側向いて入ってもらっていい? 向かい合わせだと狭いと思うから」

「わかった」

 とは言ったが、本当は前を向いて入られると、非常にマズいと思ったから。前を向いて入るということは、フラットな胸とか色々見えてしまう。同じフラットでも背中に興奮する性癖は無いし、後ろ向いて入ってもらった方が安全な気がした。


「それじゃあ、はいるね」


 成生が先に入っている湯船に、向こうに身体を向けた照日が脚を上げて入ってくる。

 成生の目の前に、小さくてぷりっとしたお尻がやってきた。

「…………」


「ふぅ……」

 ゆっくりお湯に浸かっていった照日だったが、

「……ん?」

 何か違和感を覚えた。


「なりお兄ちゃぁん……」

 照日の少し低い声。完全に怪しんでいる。

「おしりのあたりに固いものがあたってるんだけど」

「ごめん。急におしりが来たので」

 背中は大丈夫と思っていたが、おしりは不意打ち過ぎて、耐えられなかった。


「なりお兄ちゃんのえっちぃ……」

「その……女の人の裸、生で見るのは初めてだったから……」

「え? リリアお姉さまのは?」

「見たこと無いよ。初期の下着姿ぐらい」


 それでも破壊力は高かったのだが。


「えー。リリアお姉さまとはどこまで進んでるの? キスぐらいはした?」

「ききき、キスぅ!?」


 平然と訊いてくる照日に、成生は動揺を隠せない。


「その反応は……ないんだね。もしものために、るーと練習する?」

「ブホッ!!」


 顔をギリギリで横に向けたが、危うく照日の後頭部に色々ぶちまけるところだった。


「大丈夫。合法だよ? それに、るーはリリアお姉さまより知識経験豊富だから、鬼ヨワなお兄ちゃんの練習には、よろこんでつきあってあげる」

「待って! 照日ちゃんって、リリアさんよりあとに生まれたんだよね?」

「ん? そうだよ?」

「知識は分かるとして、なんで経験も豊富なの?」

「前のお兄ちゃんのところへ行くとき、リリアお姉さまはまだどこにも行ったことがないってきいたよ? るーは何回かあるのに」

「相性のいい人と選ばれるってリリアさんが言ってたな。どうやって選ばれるの?」

「んー、センター長のカン?」

「センター長? 誰?」

「あわなかった? ラボにはいったとき」


 あのラボで会った人間は一人。


「あのスポーツ新聞読んでたおじいさん?」

「そう。前はマッチング長、略してマッチョって呼んでたんだけど『やめて』って言われちゃったー」


 マッチョはヤだな。成生自身がそう呼ばれても、変更を希望するだろう。


「だから、なりお兄ちゃんはリリアお姉さまにとって初めての人なんだよ。たいせつにしてね」

「そうだね……」


 ちょっと上の空で聞いていた成生。

 今、成生が気になっているのは、照日が候補に選ばれる人がどんな人かというところだ。


 照日は何回か有ると言っていたが、

(全員捕まったんじゃないだろうな?)

 と思ってしまう。


 こうやって一緒にお風呂入ってるだけでも、ものすごい背徳感を感じているのに。


 あと、照日のおしりで反応しちゃったことにも。


 照日と風呂なんて、自宅だから出来ること。外だったら通報されて、歴代のお兄ちゃんたちの仲間入りだろう。それは困る。

 ひょっとして、そういう趣味の人を捕まえるために、照日は生まれたんじゃ――無いか。無いよな?


「で、なりお兄ちゃん。リリアお姉さまとはキス以前になにかした? デートとか」

「してないなぁ……。リリアさんとは一緒にいるだけで安心というか、落ち着くというか……」

「せっかくだから、デートぐらいしたら? 経験なくてこわいなら、るーが練習に付き合ってあげる。るーとなら、最後ホテルまでいいよ」

「いや、照日ちゃんとホテルは……」

 見た目が小学生な照日とホテルなんて、それこそ確実に通報される。


 だが、リリアとデートは悪く無い案だ。成生もリリアも、どちらも一度も経験は無いし。


「デートかぁ……してみたいな」

「だったら、この知識経験豊富なるーに任せてよっ!!」

「いや、俺がプランを組み立てる。でも、アドバイス貰うようにする」

 照日に任せたら、どうなるか分からない。最後はベッドが有る場所になる可能性が高い。干渉は最小限にする。


 こうして、この日から成生のデート作戦が始まることになった。

 実行までが、かなり時間かかったのだが。

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