第29話 るーはトゥギャザーしたい
成生は少女を家の中へ入れた。リリアの正体を知っているのだから、ヘンな怪しい人ではないだろう。
いや、リリアと同じ彼女型アンドロイドなら、この少女は人じゃないんだけど。
そして、リビングに集まる三人。
成生とリリアが並んで座り、テーブルを挟んで少女が座る。
「えっと……」
そう言えば、少女の名前を知らない。最初に自分のことを『るー』と言っていたが、あれは名前だろうか。違うかもしれない。
「まずは自己紹介しようか」
その方が固いと思った。
「俺は元口成生だ」
「私は東尾リリアです」
「るーはね、
るーという名前じゃなかった。大柴とかだったらどうしようかと考えてた。
「照日ちゃんは、リリアさんと同じラボ、同じ開発者で生まれたって言ってたよね?」
「うん。リリアお姉さまよりあとに生まれたよ」
「リリアさんとはかなり違うみたいだけど。見た目とか」
「るーはね、軽量型として造られたんだよー」
「……やはり、私は重いのでしょうか」
「違う違う! リリアさんは重くないから!」
「るーの場合、軽量の限界を目指して造られたみたい」
「だって! リリアさんは普通の型だから!! 照日ちゃん、ちょっと立ってみて」
「はいっ!!」
元気よく返事してイスを飛び降り、元気よく立ち上がった照日。やはり小学生ぐらいにしか見えない。そしてスレンダーな身体にスラッとした細身の手脚。
(リリアさんとは真逆だ)
これは口に出して言わない。言ったらまた落ち込むのは目に見えてる。
「照日ちゃんは、どうしてここに来たの?」
「はい。それはね」
そう言いながら、照日はイスに座った。
そして真剣な表情で、こう語る。
「実は、お兄ちゃんが捕まってしまいました」
「ん?」
穏やかじゃない言葉が聞こえてきたが、話が見えてこない。
「お兄ちゃんって、二人の?」
「そうじゃなくて、るーを迎え入れてくれた人だよ」
彼氏、ってことでいいんだよな?
「で、そのお兄ちゃんが捕まったの?」
「うん。闇バイトに手を出して……」
「なんでまた」
「いっぱいまわしてくれたから」
パッと頭に浮かんだ意味は二つあったが、もう片方は違うだろう。絶対。
闇バイトに手を出すほど、何にお金使う? 精力剤か?
「……ガチャ?」
「せいかい! だからね、るー、いっぱいコスチュームあるんだ!」
照日は嬉しそうに言うけど、やっぱり課金怖い。
「それでね、るーの存在がバレたらいけないから逃げたんだけど、どこ行こうか悩んでいたら近くにリリアお姉さまがいるって分かったんだ。で、きてみた」
「これから、どうするの?」
「なりお兄ちゃん、るーをおかしてください!!」
「!?」
いやいやいや。
待て待て待て。
違う違う違う。
そもそも俺、そんな趣味無いし!
ここで勘違いしたら、人生が終わる! 完全に終わる!
――成生は一旦深呼吸。
「――どうすればいいの? 俺は」
「るーはまだラボに帰れないの。だから、ここにいさせて!! なんでもするから!!」
なんでも……。
いや、このままじゃ
「……って言ってるけど、どうする? リリアさん」
リリアに話を振った。このまま照日と話していると、どうにかなりそうだ。リリアに気を向ければ、少しは紛れそうな気がした。
「成生さんの中では、答えが決まっているのではないですか?」
「え?」
「帰られなくて困っている照日さんを、成生さんはほっとけますか?」
「そりゃあ……ほっとけない」
「でしたら、もうそれが答えです」
こうして、新たに小さな住人が増えた。
照日は軽量型のアンドロイドだと言うが、どう見ても小さな女の子にしか見えない。まるで子どもが出来たみたいだ。
リリアとの子どもにしては、大きすぎるのだが。
リリアよりもあとに生まれたとあってか、他のアンドロイドが得た知識などが照日には反映されているようだ。
これには、リリアも驚いていた。
その日の夜の話。
「成生さん。照日さんは知識が豊富ですね」
「どうして?」
「さっき成生さんが話していたオレオレ詐欺のことを、照日さんに聞きました」
「分かった?」
「はい。オレオレ詐欺って、なりすましてオレオレと言うんですね。私、てっきり堺すすむさんが来ると騙すのかと思いました」
「なぁーんでかっ! せめて松平健にしてよ」
「私のメモリには同じような意味の『母さん助けて詐欺』というのが記録されていますが、何が違うのでしょう」
「それは……忘れてあげて。
その『母さん助けて詐欺』が生まれる二年前から、現在も使われている『特殊詐欺』という言葉を使っている。勝てるはずがなかった。
リリアがまた一つ賢くなったところで、給湯器のリモコンが「お風呂が沸きました」と告げた。
「お風呂沸いたな。照日ちゃん、先に入りなよ」
「うん。なりお兄ちゃん、いっしょにはいろー!」
「はいぃ!?」
この最新型なアンドロイド、刺激が強すぎるのだが。
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