第28話 ひろってください

海陽みはると過ごす週末は、リリアの帰宅で終りを告げた。海陽の意外な一面も知れたし、リリアがいなくても寂しくない週末を過ごすことが出来た。


「ただいま戻りました、成生さん――って、海陽さん?」


 リリアも成生が一人だと思っていたのだろう。表情は変わらないが、少し驚いているのは分かった。


「ああ、リリアが入院だって言ったら、来てくれたんだよ」

「それはそれは。ありがとうございます」


 リリアは深々と頭を下げる。綺麗な所作は検査前と変わっていないし、やっぱりアンドロイドだとは思えない。


「リリア。検査入院で悪いトコはなかったの?」

「そうですね。パーツも異常は見つかりませんでした」

「ん? そう。よかったね」


 成生はリリアが「パーツ」だとか言いだして焦ったが、海陽はそこに大きな疑問を抱かなかったようで、ホッとした。リリアもメンテナンスで異常がなかったようで、なにより。




 成生は週末を一緒にすごした海陽を駅まで送ることにした。リリアは帰ってきたばっかりで疲れていると思うので、家でお留守番である。


「海陽さん。来てくれて、ありがとう」

「いいよ。さびしくなったら、いつでも言って。すぐに行くから」

「頼もしいなぁ。ねえ、海陽さん」

「ん?」

「なんかさ、来た時と今で雰囲気違う感じがするんだけど、なんでだろう」

「き、気のせいじゃない? わたしはわたしだよ」


 なんだか慌てていたような感じがあるが、成生は理由が分からない。


「そっか。一緒にいたせいかな? 海陽さんとこんなに長い時間一緒にいたの、初めてだし」

「ずっと一緒にいても……」

「ん? なんて?」

「な、なんでもない! あ、駅見えてきたよ」

「ホントだ」

「ナリオくんと一緒だと、すぐに感じちゃうね」


 駅から成生の家まではそこそこの距離がある。いつも「遠いなぁ」と思っているが、今回はあっという間だった。早足だから、なんて理由じゃ無いとは思うが、なんでだろう……。

 成生は疑問に思いつつ、改札口前で海陽を見送った。


「じゃ、また明日学校でね」

 海陽は小さく手を振ってホームへ向かった。


「……やっぱ雰囲気変わってない?」

 その理由を成生が知るのは、まだまだ先の話。


   ☆


 それから数日後。

 その日は雨がしとしと降っていた。これで気温は少し高めだから、たまったものじゃない。


 そんな不快な環境の中で成生がリリアと学校から帰ってくると、玄関前にしゃがみ込んでいる人影があった。


「誰?」


 姉ちゃんなら仁王立ちで待っていると思う。

 不審者じゃないかと身構えながら見ると、それは髪を青いリボンでツインテールにした女の子だった。

 女の子は大きなダンボールの中に入っていて、手に何か持っていると思ったらちぎったダンボール。そこにはペンで『ひろってください』と書いている。


「リリアお姉さま!!」


 少女はそう叫んで立ち上がる。

 背丈は小さな海陽よりも小さいぐらいだった。150センチも無いのは確実だ。そのあどけない顔と相まって、小学校高学年ぐらいにしか見えなかった。


 多分、というか間違いなく知ってる子ではない。

 だが、彼女はリリアの名前を叫んだ。

 ということは、


「知ってる?」

 リリアに訊いてみたが、首を横に振った。


「誰なの? キミは」

「わたしだよ、わたし。るーだよ」


 かわいらしい声でそう言われても、分からない。


「新手のオレオレ詐欺、かな?」

「オレオレ詐欺ってなんですか? 成生さん」

「説明すると長くなるから、あとで」

 まずは、この少女の正体を明かさないと。


「俺たちはキミを知らないんだけど」

「あのね。るーはね、リリアお姉さまと同じラボ、同じ開発者から生まれたんだよ」


 成生は一旦リリアと顔を見合わせてから、再び少女を見た。

 リリアとは似ても似つかない少女。リリアと同じラボ、同じ開発者。ということは……。


「キミも彼女型アンドロイド!?」


 少女は小さくうなずいた。

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