第27話 判断が早い! 早すぎる!!
「ん……」
部屋に差し込む光で、成生は目が覚めた。
少し重いまぶたをこすり、部屋を見回した。
昨日は確実に海陽がいたはずだが……。
「あれ? まぼろし? まぼろしぃぃぃ!?」
そうかと思ったが、ベッドに近付いて触ってみると、まだそこにはほんのり温もりがあった。
「そっか……海陽さんは現実にいたんだな」
成生は呟いてから部屋を見回したが、どこにもいる気配は無い。
どこへ?
「トイレ……かな?」
一階に降りると、キッチンに海陽の姿が見えた。
「あ。おはよう、ナリオくん」
振り向いて元気な声を発した海陽は、エプロンをしていた。
キッチンでエプロン姿……。つまり、
「朝ご飯作ってる?」
「お世話になってるからね。これぐらいはやるよ」
「手伝おうか?」
「いいよいいよ。座って待ってて。大丈夫だから」
海陽が朝食を作っているのは、お世話になっているということ以外にも理由が有る。海陽が自分で作りたかった。海陽の手料理を、成生に食べてもらいたかったのだ。
「そういうなら……」
そんな気持ちも気付かず、成生はイスに座る。
御飯は昨日、自分で炊飯器にセットした。それ以外、何が出てくるのだろう。
しばらくして出てきたのは、サラダとオムレツと野菜スープ、そしてライスだった。
「洋食か」
朝は御飯派な成生は御飯とみそ汁を作っていたが、ファミレスのモーニングだってパンかライスが選べる。ライスに洋食としても、問題は無かった。
キッチンから戻ってきた海陽はエプロンを外す。
「うおっ!!」
海陽は膝上丈のハーフパンツとキャミソールというスタイルだった。ボトムスは昨日より露出が減ったが、その分トップスの露出が増えている。
その姿に、成生はつい声が出てしまったのだ。
「どうしたの?」
「な、なんでもない。それより、それ」
露出が増えているなんて話は出来ない。成生は話題を変えようとする。
海陽は手にケチャップを持っていた。そっちに気を向かせる。
「これ? ケチャップをただかけるだけなのもおもしろくないから、オムレツに絵をかいてあげようか」
「オムレツに絵って、あの伝説の? オムライスにも描いちゃったりするあの? 描けるの? 海陽さん」
「任せてよ!」
自信たっぷりだった海陽。
しばらくして出来上がったのは……。
「えっとぉ……クリーチャー?」
「――――ネコなんだけど」
「え!?」
残念なことに、海陽には絵心が無かった。
残念な絵で一部が残念な見た目になった朝食だったが、味に関しては、
「うん。おいしい」
成生がテキトーに作ってる物よりもおいしいと思った。何が違うんだろう。ちょっと分からない。
「弟たちのために作ることもあるからね。料理はちょっと自信あるんだ」
「これなら毎日食べたいぐらいだ」
「それって……」
海陽は鼓動が加速していくのを感じた。
こんなの、
(もうプロポー……)
判断が早い!
天にも昇るような気持ちの海陽だったが、成生の次の一言が地に叩き落とした。
「リリアさんにも食べさせてあげたい」
「なんでそこでリリアの名前が出るんだよぉ!!」
成生は海陽に腕をはたかれる。
「え? 何かヘンなこと言った?」
「知らないっ!!」
「?」
成生は海陽が不機嫌になった理由が本気で分からなかったのだった。
ちょっと空気が悪くなったところで、インターホンが鳴った。
「誰だ? 朝から。勧誘?」
勧誘の方がまだ良かった。
「なっちゃぁん!! 近くに来たから寄ってみたよぉぉぉぉぉぉぉい!?」
桜音はすぐに成生を捕まえて首をロックすると、
「なっちゃぁん、どうしたんだい? このすげえかわいコちゃん」
尋問が始まった。
「というか、リリアはどうしたんだ? 実家に帰った?」
「リリアさんは検査入院だよ」
実家に帰ったのは間違いないんだけど。
「いないのか……。ん? ということは、リリアがいない間に女を連れ込んだのか?」
「違う違う。その……寂しくて来てもらった……」
成生は一瞬口ごもったが、他の言い訳も見つからなかったので素直に話した。理由が少し恥ずかしいし、この後言われることは、予測出来る。
「なんだぁ? 寂しかったのかぁ? ん?」
姉ちゃんはニヤニヤ。だから言いたくなかった。
「言えば、あたしが来てやったのに」
「姉ちゃんはいらない」
「照れるなって。お、そうだ」
桜音は海陽を見ると、
「嬢ちゃん。名前はなんてぇんだい?」
「あ、瀬戸海陽と言います。ナリオくんとは、同じクラスです」
「同じクラスのかわいコちゃんか。いいねえ。こんな時間にいるって、海陽は朝早くから来てるのかい?」
「いいえ。昨日から」
「ん? てこたぁ……」
成生の首をロックする桜音の腕に力が入る。
「
「姉ちゃんの期待するような展開は無いから!!」
一緒に住んでるリリアとも、そんなイベント起きてないのに。
「またまたぁ。これは海陽と一緒に風呂入ってゆっくり語り合いたいところだが、今日はそんな時間ねえんだよなぁ」
「じゃあ帰れよ」
海陽は二人の会話を聞きながら思っていた。
(成生くんのお姉さんにそう思われたり、一緒にお風呂入ろうとしたり……これってもう家族公認!? そんなの、もう結婚も同ぜ――)
だから判断が早すぎる!!
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