第37話 海陽と有とこいぬと大五郎
プールでの水泳指導が終わった。
照日はこいぬの指導でクロールで泳げるように。
リリアは
成生は
「最初より良くなった?」
「うん。教える前の状態から、よりカッコよくなったよ」
「ありがとう。海陽さんのお陰だ」
「いや、別にこれぐらい……」
お礼を言うと、海陽は凄く照れた様子だった。こんな海陽は珍しい。
帰りもまたアイマスクをして、来た時と同じ女性の運転するハイエースで送られる。
成生は疲れから眠ってしまったようで、目が覚めると最初の集合場所だった駅の前に着いていた。
「それでは、失礼します」
深々と頭を下げた案内の女性は、ハイエースで帰って行った。
結局、彼女が人間なのかアンドロイドなのか、確信は持てなかった。だが、あの頭を下げる深さはリリアに似ている気がする。やっぱりアンドロイドなのだろうか。また会えたらいいな。
そして成生、リリア、照日は帰る為に改札を抜けた。
「ナリオくん、夏休みはどっか遊びに行こうね!」
「ああ」
成生たちの姿がホームに続く階段へと消えると、
「それにしてもセトちゃん、大胆だったねぇ」
有が話を切り出した。
「え? なにが」
「元口ちゃんに『わたしのお尻触ってぇ!!』とか。そんなに元口ちゃんに触られたかったのぉ?」
「な、ちがっ! アレはわたしがナリオくんのおしりをさわってたから、代わりにと思って言っただけで、さわられたいとかじゃなくて……」
「元口ちゃんの身体を触るなんてぇ。だいたぁーん」
「前が見えなかったから手を伸ばしたら、そこにナリオくんのおしりがあっただけで、さわろうとは――でも」
「でもぉ?」
「意外とガッシリしたおしりだった……」
「元口くんの身体をしっかり堪能してるじゃない、海陽」
「いや、まぁ、結果的に。あと、そのお詫び的に泳ぎを身体で教えているときにナリオくんが緊張してたから、きいたら『身体があたってる』って言っててかわいかったから、そこからワザとあたるようにはしたけど……」
「まぁ、セトちゃん大胆」
「それなら海陽の尻を触らせておいた方がよかったんじゃあないの? 元口くんも忘れられない思い出になったかもね」
「いやぁ、それはさすがに恥ずかしいよぉ」
「もうプールで元口ちゃんを押し倒しちゃえばよかったのにぃ」
「それ、ナリオくん溺れるって!」
「そうしたら、元口くんに人口呼吸。念願の口づけ」
「それは……ちゃーん――」
「ちゃん?」
「ちゃん?」
「その……ちゃんと、したいしぃ……」
海陽は顔を赤くしつつ、目線を逸らした。
「ふぅーん……」
「へぇー……」
そんな海陽を、有とこいぬはニヤニヤと見つめる。
「それにしても、セトちゃんが電話で元口ちゃんと東尾ちゃんや照日ちゃんにプールで泳ぎを教えるってことになっちゃったんだけど、どうしたらいい? 二人も一緒に行くことになったけど! なぁんて言ってきた時は『また人を巻き込んでぇ。仕方無いなぁ』ぐらいにしか思ってなかったけど、セトちゃんは元口ちゃんに本気なんだねぇ」
「海陽は、何がキッカケで元口くんを好きになったの?」
「最初は……リリアの知り合い、一緒にいる人、ぐらいだったんだけど、わたしのこともすっごく見てくれてて、注意してくれたり、気づかってくれたりして、すっごく優しいところとか、わたしがバカすぎて二人があきらめた勉強も、最後まで付き合ってくれたりとか……」
語る時に目の泳いでいた海陽だったが、ふと有とこいぬの顔を見ると、さっきよりニヤニヤ度が増していた。
「セトちゃん、かわいいぃ」
「でもさぁ、海陽のことも見てるなら、元口くんはずっとそばにいる東尾さんのことも見てるんじゃない?」
「うん。その可能性はあるよね」
「東尾さんも、元口くんのことが好きだったりして」
「うん……可能性はあるね……」
「実は付き合ってたりは」
「うん…………ちょっと怪しいときはあった…………けど…………」
海陽の声が段々小さくなっていく。成生のそばには美人でスタイルのよく、頭のいいリリアがいつもいる。海陽はリリアの真反対。自信も無くなるというものだ。
「ほらほらぁ、セトちゃんが落ち込んじゃってるぅ」
有は海陽をそっと抱きしめて後頭部を撫でる。有はいつも優しく見守ってくれていて、まれに落ち込んだ時もなぐさめてくれる。
大好きだ。
「海陽には私たちがいるよ。三人で力を合わせて、元口くんを攻略しようよ」
こいぬは有よりも口数は少ないが、細かいところに気が付く。そして、海陽が悩んだ時は案を出してくれる。今回、海陽が成生に泳ぎを教えようと提案したのも、こいぬだ。お陰で二人の時間を過ごせた。距離が少しは縮まった気がする。
大好きだ! 有もこいぬも。
成生はそれ以上に……。
「そう言えば海陽、さっき元口くんと遊びに行く約束してたよね? デート?」
その『デート』という言葉に反応したのか、海陽の身体がビクッとなった。当然、海陽にそんな経験は無い。
「……いやぁ、そこまで考えてなかったんだよなぁ。ただナリオくんと遊びに行けたらいいな、と思っただけで……」
有に抱きしめられたままの海陽が言う。いつも通り何も考えてはいない、素直な気持ちを言っただけだった。
「それなら、元口ちゃんとのデートにしないとねぇ」
「海陽はもっとガンガン攻めないと、東尾さんに元口くん取られるよ?」
「そだね。モンちゃん、トカちゃん、協力して」
「任せてぇ」
「プランBもシッカリ考えよっか」
「うんっ! ありがとう!」
そう海陽をサポートしようとする有とこいぬだが、二人とも恋人がいたことの無い、恋愛初心者だった。
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