第44話 あなたならどうする?
成生がトイレを済ませて部屋に戻ると、こいぬと
「――いやいや、何やってんの?」
一瞬お尻で許しそうになったが、人の部屋でとんでもないことをされている。
「どっかに元口くんのえっちな本が有るかなーと思って」
「照日ちゃんも有るって言ってたしぃ、気になるじゃない?」
「なりお兄ちゃん秘蔵の、優しくてえっちなお姉ちゃんとラブラブな本があると思ったんだけどなぁー……」
「無いよ!!」
話を聞いて、そんなお姉ちゃんだったらべたべたされても即許す! と思ったけども。桜音姉ちゃんは優しいとは思うんだけど、方向性が違うんだよなぁ。
「あっ! 東尾ちゃんや照日ちゃんがいるから、いらないのかなぁ?」
立ち上がった有がにまーっと笑みを浮かべながら、成生を見てきた。
「無いよ!! そんなことしてないし」
「なりお兄ちゃんを誘ってるんだけど、鬼ヨワだからノってこないんだよねー」
「まあ。それは大変そうねぇ」
(セトちゃんが)
「案外、照日ちゃん以外の誘いだと、あっさりオチたりして」
(例えば
「るー以外って誰?」
(みはお姉ちゃん?)
三人とも、その気持ちを知っている海陽の姿が頭に浮かぶ。
当の本人は、宿題に集中していた。
こいぬは海陽の前にしゃがみ込むと、
「海陽はどう思う?」
と訊いてみたが、返事が無い。宿題に集中している。
「おーい、海陽ーっ」
呼びかけに気付いていないようなので、デコピンをすると、
「いったーっ!!」
海陽はおでこを押さえながら顔を上げた。
「なにすんのさ!!」
「だって、呼んでも返事しないし」
「呼んでた? ごめん」
「なんで、そんな集中できるのに、海陽は宿題終わってないの?」
「家だと、弟たちにジャマされるからね」
「私たちがウロウロしたり、話したりしてても集中できるのに? 変なの」
「で、なに? 呼んでたって」
「ああ、元口くんがえっちな本持ってるって話」
「そんな話はしてない!!」
「いやぁ、前にナリオくんにも話したんだけど、男の子がえっちでもいいんだよ。弟たちだってえっちだし」
「もし、海陽がえっちな元口くんに襲われたら、海陽ならどうするの?」
「なんか勝手にえっちな俺になってるし!!」
だけど、それは否定も出来ない。
「それは……」
海陽は黙ってしまった。そんなの、言いにくいだろう。大体、女の子に「襲われたら?」とか訊くか? 普通。
「ほら、海陽さんが困ってるじゃないか」
「それじゃあ、逆にえっちな元口ちゃんがセトちゃんに襲われたらぁ、元口ちゃんはどうするぅ?」
「え?」
有に訊かれて固まる成生。
否定したら、なんだか海陽を拒否しているみたいな感じになるだろう。
かといって肯定していいものか。それは海陽を受け入れることになる。そもそも顔見知りを襲うとか、好意が無ければやらないだろう、多分。
(海陽さんが俺に好意…………?)
無い無い! 有り得ない。
最近は『友達の友達』から『友達』ぐらいにはレベルアップしている気がするけど、その先は無い。勘違いして下手に踏み込めば、嫌われるヤツだ。
本当に好意を寄せてくれているのは、この場に居ないリリアぐらいだと思う。
多分。
照日はどうなんだろう。好意的では有るが、からかわれているだけのような気もする。
海陽を見ると、耳まで真っ赤になっていた。顔どころか、耳の先からも火が出そうなほどに赤い。
完全に巻き込まれ事故の海陽が、かわいそうに思えてきた。なんとかしてあげたい。
ここは誰も傷付かない回答を……。
「海陽さんは……そういうことする人じゃないと思うから……」
仮定の話だとしても、海陽はそんなことしない。好奇心旺盛だけど、どちらかと言えば真面目な方だと思うし。そうでなければ、宿題したいからってここに来ないだろう。
面白くない回答かもしれないが、これなら海陽も救われ……
……顔を真っ赤にしたまま渋い顔をしている。どういう感情なの? それ。
何か回答間違った?
「だってぇ。信頼されてるねぇ、セトちゃん」
少しの間黙ったままだった海陽は、
「あーっ、もうこの話ヤメ! わたし、宿題終わらせるから」
さらに顔を真っ赤にして叫び、宿題に取りかかった。
が、すぐに手が止まる。
「海陽……ひょっとして分かんないんじゃないの?」
こいぬに訊かれて、海陽は身体をビクッとさせた。どうも図星らしい。
「元口ちゃんに教えてもらったらぁ? それぐらいはいいでしょ? 写すんじゃないんだからぁ」
「仕方無いなぁ……」
成生はこいぬと入れ替わるように海陽の前に座ると、宿題を覗き込む。海陽が詰まっている部分は、成生には簡単な問題だった。
「ああ、この問題は――」
教えながらふと海陽を見る。凄く距離が近い気がした。
このテーブル自体が小さいから、距離が近くなるのはどうしようもない。
前にリリアからバニー姿で勉強を教えてもらった時も、それは感じた。あれは目と鼻が非常にヤバかった。
しかし、海陽がますます赤くなっていってるのはなんなんだ。さっき真っ赤なのに叫んじゃった影響でも出ているのかな? だったら、そのうち収まるだろう。
そんな中でも、成生が教えているのをしっかり聞いている。やっぱり海陽は根が真面目なんだと思う。
「――となる訳。分かった?」
「う、うん。これで宿題進められそう」
海陽の顔は少し赤い。まだ収まらないらしい。
「それはよかった……」
これで海陽の宿題が進みそうだと安心した成生。ふとドアの方を見ると、少し開いた状態だった。
「ん?」
その隙間から、リリアがこっちを見ている。
まっすぐ成生の方を、黙って見ている。
その光を失ったリリアの目に、身体の奥底からゾクッと震えが来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます