第52話 おかえりなさいませ
こうして、成生は
人造じゃない、本当の人間の彼女が出来てしまった。
こんなことになるとは全く思ってなかったが、リリアがいてくれたから、こうなったのかもしれない。
校門のところまで行くと、有とこいぬがいた。
「セトちゃんも元口ちゃんもスッキリした顔ぉ。結果は……訊かなくてもいいねぇ」
「うん!」
「私のプランBのお陰かもね、海陽」
「うん。ありがとう、トカちゃん」
成生は周囲を見渡す。そばにいつもいた人物がいない
「あの……リリアさんと照日ちゃんは……」
「なんかねぇ、二人とも用事が出来たから先に帰るってぇ」
「そう……」
リリアがどうなったか知りたかったが、先に帰ったってことは、上手く行ったのだろうか。好きが行き過ぎたリリアが身を引く作戦が。
――これでリリアとお別れってことないよな?
それだと、照日まで帰っているのがおかしいもんな。いや、これで照日ともお別れかもしれないし。
でも、家に帰ればきっと……まだ同居生活は続くのかな?
リリアたちとの今後が、少し気になる。
「どうしたの? なにか考えごとして」
海陽が心配そうに訊いてきた。
「いや、今後のことを考えてた」
「今後って……わたしとの?」
「海陽との結婚?」
「それとも、セトちゃんとの初夜ぁ?」
「早い早い! 展開早いな、おい」
リリアのそばには、そういう経験も豊富な照日がいる……はず。どちらかと言えばお兄ちゃんに彼女が出来たと言うより、突然の別ればかりだが。
今日は照日に任せよう。
今後については、二人に会わないと分からないだろう。
「この後どうする? 駅で解散? それとも海陽のウチに行く?」
「セトちゃんのおうちで打ち上げ?」
「わたしはいいけど……」
「いやぁ、今日はさすがに体育祭で疲れたから、帰って休みたいな。今後は海陽さんのウチに行くチャンスなんて、いくらでも有るだろうし」
「セトちゃんの弟ちゃんたち、かわいいのにぃ」
「小さい方の弟は有になついてて、大きい方の弟は有を意識して見てるよね」
上の弟、有が好きだろ、間違いなく。
ま、本人は意外と気付かないことも多いのだが。それを体験したからこそ、分かる。
「気になるけど……今日は帰るよ」
やっぱり、リリアたちがどうなったかの方が気になる。今日は帰りたい。
海陽は今日も駅まで来てくれた。
「バイバーイ! また週明けねー!」
「ああ」
行き先の違うこいぬと有とは、改札内で分かれる。
ホームへ向かう成生の背中に向かって、海陽は大きく手を振っていた。
小さく手を振ってた時もあったけど、
(やっぱ元気に振ってる方が海陽さんらしいや)
成生はそう思いながら、家路に付いた。
☆
次の週末。
海陽が成生の家に来ることになった。海陽は成生の家に何度も来ているが、成生は海陽の家に行ったことが無い。付き合い始めたとはいえ、まだ家には行きにくい。なので、海陽が成生の家に行くことになった。
海陽が成生の家に行きたい理由は、他にも有るのだが。
成生は駅まで海陽を迎えに行き、二人で成生の家に向かう。リリアと何度も歩いたこの道を、海陽と手を繋いで。
海陽の手は凄く小さい。ちょっと力を入れると、前にリリアに手を握られた自分の手のように壊れてしまいそうになるんじゃないかと思う。だから優しく、そっと手を繋ぐ。
「この道は何度もナリオくんと通ってるけど、今日は全然違う感じがする」
「帰りはよく二人で歩いたけど、行きはほとんど無いもんな」
「二人っきりになれたから、嬉しかったんだよ? あの帰り道の時間」
「そっか。いっつもリリアが俺のそばにいたもんな……」
「いないとさびしい?」
「いや。今は海陽さんがいるから、寂しくは無いよ」
「リリアがいない時に、泊まりにも行ったしね。さびしがってたから」
「思えば、あの時から少しずつ海陽さんに惹かれてたんだと思う。海陽さんといると落ち着けるというか、癒されるというか、元気になれるというか」
「えへへ……。ねえ、ナリオくん」
海陽が改まって訊いてきた。
「なに?」
「わたしで……よかったの? だって、ナリオくんのそばには、キレイで頭良くてスタイルのいいリリアがずっといたわけじゃない? ナリオくんが選んだの、全然違うわたしだよ?」
「リリアさんは違う世界の人だからね。それに、俺にはいつもそばにいて、普段は助けてあげる側だけど、こっちが困ったら助けてくれて、気弱な俺の背中を押して勇気付けてくれる、そんな海陽さんみたいな人が必要だったんだ」
「んもう……そういうことをさらっと言うのがずるいんだよなぁ」
「なにが?」
「わたしを必要としてくれるナリオくんが好きってこと」
「改めて好きって言われると照れるんだけど……」
「そういうトコも、かわいいから好き!」
「まぁ、リリアさんには感謝してるよ。リリアさんがいなかったら、海陽さんともこうやって話すことすら無かったんだし」
「リリアが転校生だからって声かけて、そのそばにいたのがナリオくんだもんね」
「そこから、よくここまで来たよ」
「ホントホント」
二人で話していると、駅と家の間はあっという間だ。もう着いてしまった。
成生がドアを開ける。
「ただいまー」
「おかえりなさいませ。ご主人様。お嬢様」
そこにいたのは……。
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