第53話 彼女は人造○○
玄関で深々と頭を下げるリリア。
彼女はメイドの姿をしていた。そのキレイな所作は、まるでベテランメイドのような雰囲気を出している。
「おかえりー! なりお兄ちゃん、みはお姉ちゃん」
そばにはメイド姿の照日もいた。
成生に
それでも成生と居たいという願いを叶えるため、照日はリリアを成生の家でメイド修行させることにしたのである。本来、彼女たちの最終目標がメイドロボだったので、メイドとして残ることには、なんの問題も無かった。
指導はメイドの知識経験も豊富な照日が行っていて、リリアは照日から多くを学ぼうとしている。
リリアのメイド服は、成生が頑張ってガチャで出した。
あのあと家に帰って話を聞いた成生がやれる唯一のことだった。
溜まっていた石を使い切ってしまい、課金までして出した。なんとか致命傷で済んだ。
ガチャで出したとあって、リリアにぴったりのサイズで、リリアに似合っている。リリアが喜んでいたので後悔は無い。
照日の前のお兄ちゃんがガチャを回すために闇バイトに手を出した気持ちが、少し理解出来た。
分かりたくも無かった。
そんな訳でリリアがメイド見習いになっても生活は今までと大きく変わっていないが、他に変わったこと、変わらなかったことがある。
まず、彼氏の好きが行きすぎたリリア。ラボで好き好きリミッターを後付して、ご主人様として成生が好きという設定に書き換えられた。
彼氏からご主人様になったのだから当然なのだろうが、ちょっと残念だ。好感度は最高値を振り切っていた状態にリミッターを付けたので、最初からマックスとなっているという話だ。
照日はリリアの先生であり、元々が彼女でも無かったので設定は変わらないそうだ。
「リリアお姉さまはご主人様大好きモードだからー、メイドさんにえっちな命令するなら今のうちだよー? るーはいつでも歓迎だけどねー」
と照日が言っていたが、するつもりは無い。
特に照日には。手を出したら終わる。
そしてリリアたちの正体は、リノさんの許可を取って海陽に話をすることにした。リリアが突然家でメイド姿になっていたら、びっくりするだろうし。
いや、前に突然バニーの姿になったことはあったけど。
リノさんは「どうせ将来は家族になるんだろう? なら身内だな。いいぞ」と軽く許可を出した。
そして海陽に話をすると、
「リリアが彼女型アンドロイドって……リリアと彼氏彼女らしいこと、したの? その……アレとか、ソレとか」
と訊いてきた。アレとかソレが何を指しているかはよく分からないが、
「いや、ほとんどしてないね。ハミガキとか、手を繋いだとか、そんなレベル」
成生は正直に答えた。改めて考えてみても、小学生でももうちょっと何かするだろうと思う。
「よかったぁ。それじゃあナリオくんとわたしがしたら、初めてのことばかりになっちゃうんだね」
海陽はすごく前向きだった。海陽のそういう前向きなところに惹かれたんだと思う。
でも、その初めてってどこまで想定して言ってるんだろう……。それはさすがに訊けない。
あと、メイドになっても、リリアたちは学校に継続して通っている。開発者のリノさんが「貴重な経験だから」と、そのまま通わせることにした。
なので学校のある平日は帰宅してから。週末は家に居る時にずっとメイドの修行をしている。
学校でリリアに「ご主人様」と呼ばれたこともあった。海陽と付き合いだしたのもあって、しばらくクラスで話題になってしまった。
そのあと海陽に、
「ご主人様っ! って呼んだほうがいい?」
と訊かれたので、断っておいた。ちょっと嬉しかったけど、人前で呼ばれるのは恥ずかしい。
しかしメイドには興味あるみたいで、そのメイドをしているリリアを見たいということで、今日は海陽が成生の家に来ているのである。
「わぁ……リリアのメイド姿初めて見るけど、キレイ」
「ありがとうございます」
「いいなぁ。やっぱわたしもメイド服着てみたい」
「みはお姉ちゃん用に用意しよっかー。なりお兄ちゃん向けな胸元がすっごい開いてて、スカートが短いえっちなの」
「いや、なんで海陽さんにそういうの着せるんだよ!」
「だってー、なりお兄ちゃん、そういうの好きでしょー?」
「…………」
はい。
照日はよく分かってる。
「ナリオくんが着て欲しいって言うなら、着るよ?」
「え?」
まさかの発言に、思わず成生は海陽を見てしまう。
「前に師匠がナリオくん喜ぶって言ってたし、ナリオくんが望むなら……いいよ」
照日は海陽の彼氏彼女の師匠となっている。知識経験豊富な彼女型アンドロイドと知って、何もかも初めてな海陽は照日に色々聞いているらしい。
衣装も豊富な照日なので、コスプレにも興味を持っているようだ。前にチャイナドレスを着て、どうもハマったらしい。
だけど、知識経験豊富な照日の意見を参考にすると、どうしてもえっちな方向に行きガチになってしまう。それでいいのだろうか。
(俺は一向に構わないんだけどね!)
だから、あまり口出しはしないけど、海陽が行きすぎないようには注意している。
「で、これからお兄ちゃんたちは部屋でえっちなことするの?」
「しないよ!」
「大丈夫大丈夫。声が聞こえてきても気にしないからー」
「そういうことじゃない」
「実技が分からないなら、るーも混じって三人でもいいんだよ?」
「それなら、今後の参考の為に私もいいですか? 照日先生」
「わっ、なりお兄ちゃん、チャンスだよ! 四人って! やったね!」
「おかしいおかしい。リリアさんも、こういう時は止めて。常識的な人が俺だけだと、ツラいから」
「止めた方が良かったのですか?」
「当たり前だよ!」
「いいよ、止めなくて。今日はみはお姉ちゃんも来たし、朝まで寝かせないぞー!! まずは身も心もキレイに。リリアお姉さま、お風呂の準備してー」
「はい。照日先生」
そう言ってお風呂のお湯張り準備に行くリリア。
「お風呂でも色々できちゃうからねー」
「え? 本当にするの!?」
「さぁ、どうだろうねー。にっしっしー」
戸惑う成生に向かって、照日の悪い顔。この時の照日は本気か冗談か分からない。
これはもう、照日に言っても止められないだろう。
「いいの? それで。海陽さんは」
「師匠が言うなら……やる。ナリオくんと色々体験してみたいしね」
「いや、師匠だからって、なんでも言うこと聞いちゃダメだからね?」
ダメだ。好奇心旺盛な海陽に言っても止められそうにない。
うーん……いいんだけど、いいのか? 本当に。
「おうおう、騒がしいなぁ」
背後から
いつの間にか、玄関ドアを開けて背後に立っていたようだ。照日たちに気を取られていて、気が付かなかった。
だけど、桜音姉ちゃんが来たってことは、そういうことは出来ないな。さすが姉ちゃん。いざという時は頼りになる。
「お、今日も女の子いっぱいだな、なっちゃん。賑やかでいいぞ」
「あ、桜音姉さん」
海陽は桜音の方を向いて頭を下げた。
「お久しぶりです。わたし、ナリオくんとお付き合いさせてもらってます」
「ん? いつの間に彼女が出来たんだ?」
「体育祭の後に、わたしから告白しました」
「なぁにぃ!? 海陽……だっけ? 前に泊まりに来てたコだよな? そっかぁ……なっちゃんに彼女かぁ……。よかったなぁ……。涙が出てくらぁ」
ホントか? おい。どう見ても出てないぞ。
「よし、今日は時間が有るから、詳しく話を聞こうか。風呂で」
「お風呂なら準備中ですよ」
リリアが戻ってきて告げる。
「お、準備いいな。メイド姿もかわいいし。よぉし、今日はたっぷり話を聞くからなぁ。その前に、リビングで準備が出来るまで軽く話を聞くか。来いよ!」
「はい。桜音姉さん!」
桜音と海陽がリビングの方へ向かうと、
「るーも話聞きたーい!」
照日も追っかけていく。
そして玄関に残された、成生とリリア。
「ご主人様は、どうしますか?」
「俺は話には入らない。多分、そこに加わったら俺が恥ずかしい思いをするだけだ」
「そうですか。でしたら、私は皆さんのお茶を準備しますので」
「それだったら、俺も手伝う」
「ご主人様はいいです。ゆっくりしていて下さい」
「いや、手伝う。そうしないと、俺の気が紛れないから」
「……相変わらず、ご主人様は優しいのですね」
「普通だよ。それじゃあ行こうか。もたもたしてると、お茶淹れ終わる前にお湯張り終わっちゃう」
「はい。ご主人様」
成生とリリアも、リビングへと向かった。
リリアは彼女じゃなくなったけど、お別れせずにそばにいてくれる。
人間じゃない女の子とのちょっと奇妙な生活は、まだまだ続きそうだ。
そう。彼女は人造女中だから。
人造彼女 龍軒治政墫 @kbtmrkk
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