第14話 ミハル セト
そう。彼女は瀬戸
小柄で明るくかわいらしい彼女は、クラスの中でも目立っている方、だと思う。
目立ってはいるが、クラスの中心ということもない。
いつもは仲のいい三人組グループで、他の二人からよく相談を受けている。すぐに答えが出る訳じゃないが、みんなで悩みつつもなんとなーく答えを導き出しては、それで解決している。その三人組グループの中心人物。
――というイメージ。
イメージで語るのは、成生は一回も海陽と話したことがないからである。三人が話をしているのが聞こえてきたのが、頭の片隅に有ったのだ。
「……同じクラスの人に突然フルネームで呼ばれたの、初めてなんだけど? ちょっと不自然すぎない?」
「ごめん。同じクラスの人なのは覚えてたけど、名前がちょっと
「ごめん。わたしもちょっとあいまいだったんだよねぇ。ナリオくんって、目立たない存在だし」
「ひどい……。目立ってない自覚はあるけど」
ずっと陰で生きてきた。今のところ表に出る予定はない。
「で、なんでナリオくんは転校生といるの? もう目を付けた? 早いね」
「違う違う。リリアさんとは元々知り合いだったんだよ」
「ふぅーん……」
海陽のその目つきは、完全に怪しんでいる。本当のことなのに。
「あの……成生さん。この方は……同じクラスの方ですか?」
成生と海陽が話していると、リリアが成生のシャツの袖を数回引っ張って割り込んできた。
「そう。同じクラスの瀬戸海陽さん」
「ん……」
リリアの頭の中で、最初に教室へ入ってきた時の風景が甦ってくる。
それぞれ自分の席に座る生徒たち。
あの時に記録した顔を照合――。
「――確か、教室の廊下側に座っている……」
「お、よく覚えてたねぇ」
「これから宜しくお願いします。海陽さん」
そう言って、リリアは深く頭を下げた。
「よろしくぅ、リリア」
「はい。海陽さん」
と、リリアが頭を上げたところで、
「おっと」
成生は海陽の腕をつかんで引っ張った。
「ふぉっ?」
突然引っ張られて驚く海陽。
その直後、海陽がいたところを、トイレから出てきた女子生徒が通っていった。
「邪魔になってた」
「あぁー、ありがとぉ」
「いいよ。リリアさん、行こうか」
成生はそう言って、教室の方へ歩き出した。休み時間の終わりが近付いている。
「はい、成生さん。それでは、海陽さん。また教室で」
リリアは海陽に向かって軽く頭を下げると、すぐに歩き出した成生を早足で追いかける。
小さくなっていく成生とリリアを、海陽はジッと眺めていた。
「ふぅーん。ナリオくんかぁ。うん。おぼえとこ」
そう呟きながら、海陽は腕の成生につかまれた部分をそっとさすっていた。その表情はどこか嬉しそうだった。
これがキッカケで、リリアと海陽は仲が良くなった。
ついでに成生も。
あくまで、リリアのついでである。それでも嬉しいが。
海陽は他の女の子よりも接しやすそうな雰囲気だけはあるし、初めて話してあんなにスムーズに会話が出来た。少しずつ慣れていきたいと思う。
次の休み時間。
海陽がリリアの席までやってきた。
リリアが何を言うか分からないのが少し心配なので、成生もリリアの席へ向かう。
海陽は机を挟んで反対側に立ち、机に両手をついた。
「リリア、分からないことがあったらなんでもきいて! ……まぁ、勉強以外だったら、多分こたえられると思うよ?」
「瀬戸さん、勉強はダメなのか……」
高校三年生までの知識を詰め込んでいるリリアが勉強について聞くことはないと思うが。
「うっさいなぁ。わたしだって分からないことはあるんだよ。ま、解決できるかは分かんないけど、リリアが困ってたら助けるよ!」
(瀬戸さんって、基本的に面倒見のいい人なんだろうな)
成生は思う。だからみんな相談したりするんだろう。多分、悩みも解決もしている。そうでなければ、何度も相談したりはしない。
「で、なにか分からないことある?」
「分からないこと、ですか?」
「リリアさんは何が分からないか、分かんなかったりして」
「外野は黙ってて!」
「ひどい……」
やっぱり女の子は苦手だ。
「うーん……」
リリアは少し考えて、
「人間の考えていることが、分からない時があります」
と言った。
成生は、
(変わったこと訊くなぁ)
と思ったが、リリアは人間じゃない。そういう疑問を持ってもおかしくはない。
だが、ここで訊くことでは無いと思う。
「勉強より難しいことをきいてきたなぁ!」
訊かれた海陽は、こんな無理難題でもなんとかしようとしている。
基本、いい人なんだな。
「まぁ、でも、わたしだってなに考えてるか分かんない時あるしね。ナリオくんもそうでしょ?」
「んー……どうだろう」
「じゃあさ、わたしが今なに考えてるか、あててみて?」
「は?」
(また、無理難題を振ってきたなぁ)
成生はそう思いながら、海陽をジッと見つめる。
「んー……?」
改めて海陽を見ると、凄く小さい。成生が海陽を見下ろす形になる。
そして肩下ぐらいまでの髪を二つ結びにして、ゆるく巻いていた。
キレイな顔立ちのリリアと違い、海陽はその身長もあってか可愛らしい雰囲気がある。
(こんなにかわいかったっけ?)
思わず見とれてしまった成生を、海陽はクリッとした大きな目で見上げていた。
そこからの「当てられないだろう」と言わんばかりの得意顔。
なんだか悔しい。
これは絶対に当てたい。
当てられない――。
ということは、普通に考えていたらダメなのだ。
目の前にいる海陽が考えそうにもないこと。それが答えなのかもしれない。
つまり……。
「――えっちなこと?」
「なんでだよっ!!」
成生は海陽に思いっきり腕をはたかれた。不意だったので、かなり痛い。
改めて女の子は苦手だと思う。
「どうしてそうなった!?」
「いやぁ、絶対に当たらないみたいな顔してるから、俺の想像をはるかに超えたナニかを考えてるんだろうと。えっちなことだったら当てられないな、って思っただけで……」
「おかしいおかしい」
「なるほど。人間はえっちなことを考える……」
それを聞いていたリリアは、真剣な顔をしてメモしていた。
「リリアさん、メモしなくていいよ」
「リリア、メモんなくていいよ!」
重なる成生と海陽の声。
成生と海陽、意外と気が合うのかもしれない。
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