第22話 コスプレ好き?
「え? リリア? なにその姿……」
「まま、まさか、ナリオくんに命令されて……?」
海陽は成生に軽蔑の目を向ける。
表情豊かな海陽だが、これは成生が今までに見たことの無い表情だ。
全くの誤解だし、例え命令だとしても人前ではさせない。そんなの、嫌われるに決まってる。
もしここで成生がクラスで唯一繋がりの有る海陽に嫌われようものなら、ちょっとは光が見えていた今後の学校生活は、最悪なモノになるだろう。それに、海陽のお陰で少しずつ女に対する苦手意識が和らいでいる。ここで嫌われたら、多分人生も最悪なモノになってしまうだろう。
海陽はちゃんと説明すれば納得してくれる人だ。例えそれがウソでも、海陽は信じる。
だがウソはつかず、ここは誠実に説明するのが一番だろう。
「これはね――」
「すみません。この衣装が手に入ったのが嬉しくて、早く見せようと着たのです」
あれ? リリアが説明始めた。
どう説明しようか、イロイロ考えていたのに。
「あ、そうなんだ」
海陽の表情が元の柔らかいモノに戻った。どう説明するか、色々考える必要も無かったみたいだ。
と言うか、疑われている人間より、着ている本人が言った方が説得力は有るよな。普通に考えて。
「駄目、でしたか?」
「いやぁ、いきなりそんな姿だからビックリしたよ。それにしても」
そう言って海陽はリリアの周りをぐるり。バニーガール姿のリリアを、上から下まで隅々まで眺めている。
「バニーってこうなってるんだ」
海陽の興味はバニースーツに移ったようだ。もう疑うことは無いだろうと、成生は一安心。
「学校で先生っぽくしてた時も思ったけど、リリアってコスプレ好きなの?」
「コスプレ?」
リリアは首をかしげる。コスプレという言葉は知らないようだ。先生プレイという言葉は知っているのに。
「コスプレって、なりきるために色んなコスチュームを着ることだよ、リリアさん」
「なるほど。様々なコスチュームを着るのは好きですよ。違う自分になれる気がします」
「リリア、ギャップがあっていい!」
(紆余曲折有ったけど、予想通りかーい!)
成生は心の中で叫ぶ。
海陽は単純――いや読みやすい――いや純粋で素直だ。だから接しやすいのかもしれない。最初に仲良くなれたのが海陽で良かったと思う。
「ナリオくんは、コスプレ好き?」
「それ、どういう意味で訊いてる? 俺がするのが好き的なのか、女の子がするのが好き的なのか」
「ナリオくんがするのが好きかってきいたんだけど……してもらうのも好きだった? ひょっとして、わたしもコスプレした方がよかった?」
「それ、どういう……」
意図で訊いている?
と訊こうかと思ったが、海陽のことだ。きっと何も考えていないのだろう。
よかった、と言ったらコスプレしてくれるのだろうか。
いいよ! と二つ返事で引き受けそうな気はするが。
どうなるか気になった。
本人が言い出したことだ。ヘンに思われはしないだろう。
「海陽さんのコスプレも見たい、って言ったら?」
「いいよ!」
と、間の無い返事。ここまでは予想通り。
「あ、でもわたしコスプレ用の衣装持ってないや」
普通はそうだろうな。
「リリアに借りても……ぶかぶかだよね? 身長差あるし」
ぶかぶかが別の部分に捉えてしまうのは、なぜだろう。『身長』だってハッキリ言っているのに。
「ということで、機会があったら見せてあげるね」
嬉しそうにそう言うってことは、海陽からの好感度は悪くなって無いってことだよな?
そう考えていいんだよな?
な?
と思うけど、やっぱりなんにも考えてはいないんだろうな。
だって海陽だし。
この約束を覚えているかどうかも怪しいので、期待はしないでおこう。
「それでは、勉強を始めましょうか」
リリアが言う。
「待って、リリアさん。その格好で?」
「駄目でしたか?」
「ダメ……では無い」
否定する理由は無いんだよなぁ。成生が勉強に集中出来ないだけで。
「バニー先生! よろしくおねがいします!」
海陽はリリアに深々と頭を下げている。
海陽はそれでいいらしい。ここはなんとか耐えることにしよう。
見た目は勉強とほど遠いが、比較的真面目な勉強会が始まった。
ただし、成生は机に向かっていて、必要な時だけ教える形で。
やっぱりリリアのバニーガール姿を見ると、何もかもが吹き飛んでしまって集中が出来ない。
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