第9話 パジャマじょうすかな
リリアとの初日が終わろうとしている。
何かあったと言えば寝床騒動ぐらいで、それは無事解決している。
夕食はリリアの分も用意した。
食べなくてもいいけど、食べる機能は付いている。
リリアの分は用意しなくても、問題は無い。だが、それで一人だけ食べているのを見せつけるなんて、リリアがかわいそうにしか思えなかった。
それで二人分作ったのは、成生がいつも作るような簡単なモノだった。しかし、リリアは「おいしい」と言ってくれたのが、嬉しかった。
お風呂は当然、別々。リリアが「家主が先に入るべき」と言って譲らないので、成生が先に入った。リリアはヘンなところで頑固だと思う。
そして成生が入って部屋へ戻ってきたあと、リリアがお風呂へ行く。
戻ってきたリリアは、パジャマ姿で現れた。これは成生の予備パジャマを貸した。リリアには大きすぎないサイズで、丁度よかったかもしれない。
「思った以上に合ってる。かわいい」
「ありがとう……ございます」
頬が赤いのは、照れているのか、風呂上がりなせいか。
そして成生は床に敷いた布団に、リリアはベッドに入った。
「明日は、どんな日になるんでしょうね」
ベッドの中のリリアが言った。
生まれて初めての日常。日々が楽しみで仕方無い。
「明日は……昼間は留守番だね、リリアは。俺は学校があるから」
「学校……どういう所でしょう」
「楽しい人には楽しい、そうでない人にはそれなりの場所、かな?」
「成生さんはどうですか?」
「んー……どっちでもないと思う。友だちはいないけど、今のところは学校がつまらないってことも無いし」
「そうですか」
「ま、帰りを待ってて」
「はい。成生さん」
なんか、リリアが彼女というよりも妻のような気がして来つつ、成生は眠りについた。
翌日、成生は学校へと行った。
リリアにはどっちでもないと言ったが、リリアの存在は予想以上に大きかった。学校に着いたあとは、時間が経つにつれ早く家に帰りたいと思ってしまった。
リリアのいない学校は、なんだか退屈な場所に思える。
成生は学校が終わると、すぐに帰宅した。
「ただい……ま?」
玄関にはタンクトップにショーパン姿のリリアがいた。タンクトップはリリアの豊満なボディラインを浮きだたせていて、ちょっと――いや、かなり目のやり場に困る。
だが、そこが問題ではない。
リリアが手にハブラシを持っていたのである。
「えっと……今日のガチャで出たの? そのハブラシ」
「そうではありません。今日は西暦のメガネが出ました」
「年末年始にしか見ないヤツッッ!」
フレームが西暦の形になっているメガネやサングラスだが、毎年出続けてるってことは、なにかしら需要があるってことだろう。
どう使うのかは、よく分からないが。
見たことはあっても、買ったことは無い。
「で、なに? そのハブラシは」
「テレビで見たのです。女の人が小さな男の人にハミガキをしてあげている姿を」
「あるね、そういう番組。親子だけどさ」
「私も、成生さんにしてあげたくなりました!」
「いや、俺ひとりでできるもん!」
「では、パジャマに着替えますか? 肌着とパンツ姿から。用意しますので、脱いで下さい」
「それも一人で出来るよ……」
これはもう、リリアは彼女、妻を通り越して母親になってしまってる。
リリアは出世魚かなんかなの? にしては名前だけ成長が早すぎるが。中身は全然伴っていない。
「ハミガキ、ダメ……ですか?」
うっすら涙を浮かべ、うつむき加減から見上げてくるリリア。
「――分かった。いいよ」
こんなん、断れる訳がない。
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