第40話 みはお姉ちゃんのためのコスチューム
買い物も終わって帰る――のは帰るのだが、
「おかえりなさいませ! ご主人様! お嬢様! 村瀬カフェへようこそ!」
成生たちの家に帰ると、出迎えてくれたのはメイド姿の照日。照日はメイド服を気に入っている。彼女たちはメイドロボを作るための彼女型アンドロイドなのだから、当然と言えば当然かもしれない。
「あ、みはお姉ちゃんいらっしゃい!」
「ねえ、ナリオくん。この家はコスプレ必須なの? 前、リリアもしてたけど」
「そうじゃない。これは照日ちゃんの趣味だよ」
「そうなんだ。じゃあ、リリアは……?」
そこは疑問が残る。
「なに? みはお姉ちゃんコスプレに興味あるの?」
「いや、ちょっとは気になってるけど……」
「るーとみはお姉ちゃんは背が近いから、るーのコスチュームも入るんじゃないかなぁ。着てみる?」
「え? じゃあ……」
成生はいつもと違う姿だと反応がある。コスプレで見た目が変われば、何か反応があるんじゃないかと、海陽は思っていた。
「みはお姉ちゃん、どれがいい?」
照日(とリリアと成生)の部屋にやってきた照日と海陽。成生とリリアは一階で待たせている。
照日の衣装ケースは、リリアの数倍大きい。持っているコスチュームの数が多すぎた。歴代のお兄ちゃんたちの血と涙が詰まっている。
「コスプレ衣装がいっぱい……。照日ちゃんが買ったの?」
「ううん。お兄ちゃんたちがプレゼントしてくれたの」
「そうなんだ」
海陽は『お兄ちゃん』という言葉をそのままの意味でとらえた。なので、全く疑問には思わなかった。
「どんなコスチュームがいっかなぁー……これは?」
照日が出したのは、白のバニースーツだった。小さなサイズで、海陽でも着られそうな気がする。
が、
「前にリリアが黒バニー着てたんだよねぇ」
「あ、じゃあダメだ。リリアお姉さまにセクシーさで勝てない」
「うん。着てみたい気持ちはあるけど……」
「スレンダーはスレンダーで需要はあるんだけどねー」
「需要?」
「みんながみんな、おっきい方が好きじゃないんだよ」
「そうなんだ。ナリオくんはどっちなんだろう……」
海陽の口から意識せずにポロッと出た一言だったが、照日はそれを聞き逃さなかった。
「この前のプールの時から思ってたけど、みはお姉ちゃんってなりお兄ちゃんのことが好きなの?」
「え? いや、そんなことはない、よ?」
明らかな動揺を見せて顔を真っ赤にし、目が泳いでいる海陽。これはもう正解だと言っているようなものである。
「ふぅーん……」
照日は海陽を見つめたまま、にまーっと笑ってコスチューム探しを始めた。
「それだったら、みはお姉ちゃんが、なりお兄ちゃんを誘惑するようなコスじゃないとねー」
「ナリオくんの好み、分かるの?」
「んとねぇ……なりお兄ちゃんは少しえっちだよ?」
「えっちなんだ……」
その情報には失望どころか、
(プールで身体を当てていたのは、間違ってなかったのでは?)
と海陽に思わせた。今思えば、少し大胆だったとは思うが。
「おしりが好きかも?」
照日は成生の素直な部分が照日のお尻に反応していたのを、ふと思い出した。
「おしりかぁ……」
海陽は成生にどうお尻をアピールすればいいのか、真剣に悩む。
そう言えば、今日の海陽はデニムのサロペット。どちらかと言えばお尻が目立つコーデだ。密かに成生が海陽のお尻を見ていたかもしれないと思うと、恥ずかしさが増してくるが、逆に成生へのアピールにになっているのではないかと、続けようか迷う。
「んー……でも、照日ちゃんみたいなメイド服も着てみたいかも」
「なに? みはお姉ちゃんは『ご主人様につくしたいですー! ご主人様のためならなんでもしますー!』とか思ってるの? みはお姉ちゃんはえっちだなぁ……」
「ちがっ! 別に、そんな……いや、でもナリオくんだったら……」
「しようがないなぁ……。そんなえっちなみはお姉ちゃんのために、特別なコスチュームを出すね」
照日が衣装ケースから取り出したのは、真っ白なワンピースだった。スカートの丈は短く、ポケットも無くて本来必要とされる機能性を取り払ったその正体は……、
「じゃーん!! えっちなコンテンツで人気のナースコス~」
そう。コスプレ用のナース服だった。今でもワンピースタイプのナース服は存在するが、可動性や機能性に優れたツーピースのパンツスタイルが主流になっている。
だが、コスプレ衣装となると、ワンピースタイプがまだまだ多い。実際の病院で使用する時とは違う機能性が求められている為、胸元の開いたナース服も有ったりする。
照日が持っているのはスタンダードなかわいさを求めたナース服。着るだけなら、恥ずかしくないかもしれない。
「男の人って制服好きだもんねー。るーも、制服着るのは好きだけどね」
「そうなんだ。ナリオくんも?」
「そりゃあ、定番コスだからね。これで『お注射されたいですか? それとも、お注射したい?』ってせまれば、なりお兄ちゃんも即オチだよ」
「ナリオくんがわたしにお注射……? っ!?」
その意味に気付いたのか、海陽は耳まで真っ赤になってしまった。
「ふっふっふっー。そこにきづくとは、お主もえろよのう」
「な!? ちがっ、そんなんじゃ……」
「なぁに。隠さなくてもよい。ま、でもナースコスは看病イベントにとっておいたほうがよかろう」
「看病イベントって……あるの?」
「カゼで寝こんで、おかゆ作ってあげてからのフーフーしてあーんは鉄板ネタだからねー。より好感度が上がる」
「そうなんだ」
成生は海陽の料理を「毎日食べたい」と言ってくれたぐらいだし、そっちの方がいい気がしてきた。
「ということで、別のコスチューム……これは?」
次に照日が取り出したのは、黒いネコミミとしっぽのあるネココスチューム。トップスは黒のベアトップで、ボトムスはとてつもなく短い黒のプリーツスカートだった。短いスカートはかわいいとは思う。
が、
「かわいいけど……動いたら見えちゃいそう」
「もう見せちゃったら?」
「恥ずかしいよ! さすがに」
「だってー、これでせまるんでしょ? なりお兄ちゃんに」
「どんな感じで?」
「ナリオくぅん……ぺろぺろしてあげるー」
照日は精一杯の猫なで声。ネコだから?
「ねえ、ナリオくんのどこをぺろぺろするの?」
海陽は恐る恐る訊いてみる。
「そりゃあ、なりお兄ちゃんがキモチヨクなる場所だよー」
「……」
海陽はなんとなく想像は出来るが、それを口に出すのははばかられる。
話題を変えることにした。
「ところで照日ちゃん。これはどこにつけるの?」
海陽が手に取って訊いたのは、しっぽだった。しっぽの根元の部分は涙型のものが付いている。こんなの、今まで見たことは無い。
「これ? さすんだよ。知らない?」
「……どこに?」
「みはお姉ちゃんが目覚めちゃいそうな場所だよー」
「どこにぃ!?」
――怖いのでパス。
「これはどう?」
照日が次に出したのは、水色のスモックだった。園児が着ているアレである。桜型の名札や黄色い通園帽も付いているが、ボトムスは無い。
「園児なの!? ナリオくん反応する?」
「これで甘えちゃうんだ。おにいちゃーん……ミルクのませてー……ばぶぅ」
「それ、園児通り越して赤ちゃんになってない?」
「じゃあ、なりお兄ちゃんに甘えてもらうとか」
「どうやって?」
「そりゃあ、おっぱいあげるの。授乳プレイ」
「出ないよ!!」
「出なくてもやるものだよ? るーはムリだけど」
「それは……」
――恥ずかしすぎるので、パス。
「注文が多いなぁ。そんなんじゃあ、なりお兄ちゃんに逃げられちゃうよ?」
「ダイレクトアタック的なのはダメぇ!」
プールで散々しておいて、こんなこと言うのもなんだが。
「しようがないなぁ。じゃあ、まともにみはお姉ちゃんに合いそうなのを出すよ」
「今までふざけてたの!?」
「いやぁ、本当にやったら面白いかなって」
「そこまで積極的になれないよ!」
「で、るーのおすすめ、なりお兄ちゃんの記憶に残りそうなコスチュームがこれなんだけどー……」
「これは……」
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