第50話 気になるから!
そして体育祭本番の日がやってきた。
この日は快晴で、頭上には青空が広がる。体育祭には最高の天気となった。天気がいいと、気分も良くなる。
本番も赤ブロックと青ブロックが競うような展開が続く。
昼休み前の応援合戦は、アツい男子と華やかな女子で行われる。有も照日も集団の中で目立つと思ったが、多分他の人をよく知らないから、注目してみているだけだったかもしれない。
いや、やっぱ目立ってるよな? みんな見てる気がする。
お陰で二人を注目して見ていても、不自然さは無かった。
そして昼休み。
「なっちゃん……また女の子が増えてるぞ」
桜音姉ちゃんがこいぬや有に会うのは初めてだ。
「この調子だと、卒業する頃には全校の女子生徒を引き連れているんじゃないか?」
「ねえよ」
「よかったなぁ。今まで、なっちゃんはどっちかというと一人だっただろ? だから、あたしがいてやったんだが、もう大丈夫そうだな」
「そうなの!?」
小さい時から姉ちゃんがそばにいたような気がするけど、小さい時からそうだったっけ? 記憶が改竄されたかな? むしろ、姉ちゃんのせいで一人になった?
真相は分からない。
「で、なっちゃんは誰が好みなんだ? この中で」
「ここで訊くことじゃあ無いだろう」
「あぁ、目の前で言えないか。あとであたしにこっそり教えてくれよ」
「言わないよ!」
好みって……。みんないい人だよ。
「おっと、あたしは時間が無い。じゃあな!」
そういうと、桜音はさっさ帰っていった。
「何しに来たんだよ、姉ちゃん……」
やっぱり姉ちゃんの考えていることは、よく分からない。
「で、誰が好みなの? 私?」
「私も選択肢に入ってるぅ?」
それぞれ肩に手を置いてきて、こいぬと有が訊いてくる。二人は無い。完全に自分をイジってくる姉ちゃんタイプだ。
「私ですか?」
「わ、わたしだったりする?」
「るーは?」
リリアと海陽と照日も、成生の方を見ながら訊いてくる。
「――いや、なんで俺問い詰められてんの?」
「「「「「気になるから!」」」」」
五人の気持ちが一つになった。
今日の体育祭で、その団結力を発揮してくれよ。一人ブロック違うけどさぁ。
午後も体育祭は進んでいく。流れは午前と変わらず、赤ブロックと青ブロックの争いが続く。
そして最後の競技、ブロック対抗大リレーがやってきた。点数的には赤ブロックと青ブロックが飛び出している状態。このブロック対抗大リレーを制した方が、優勝になるだろう。
「あぁ……」
成生から溜め息交じりの声が漏れる。
もう、この一回で結果が出る。やり直しは無い。
今までの体育祭は勝っても負けてもいいやと思ってきたが、今日は違う。
今回は勝ちたい!
そう思うと、緊張してきた。
「大丈夫だよ」
左にいる海陽が、腰の辺りにあった手をそっと背中に添えてきた。
「ナリオくんはわたしと走る特訓したし、リリアとも三人でコーナーの練習をした。いい結果が出るよ、間違いなく」
「……ありがとう。海陽さんはいつでも前向きだな」
「今日は勝ちたいもん。だって……」
「だって?」
「――あとで分かるよ。あっ、来たよ」
前走のムカデ組が近付いてきた。青ブロックの走者と並んでいる。成生たちが大きく遅れなければ、こいぬのスピードで赤ブロックが勝てるだろう。
いよいよ本番だ!
「さ、行くよ! みんな」
「ああ!」
「はい」
海陽が前走のムカデ組からバトンをしっかりと受け取った。
「せーのっ!!」
海陽の気合いが入ったかけ声に合わせて、海陽とリリアが右足、成生が左足を出した。
かけ声は最初だけでいい。だって、三人は心で繋がっているから。
直線区間が終わろうという頃、チラッと横を見ると青ブロックの方は少し遅れていた。このまま行けば、こいぬが引き離して勝てるだろう。
成生たちはコーナー区間に入る。
ここからは外側の人が距離が長くなる。リリアが外側だ。リリアはその距離感や感覚をセンサーで感じ取って、上手くやっている。アンドロイドだから、そういうのは得意だ。ちょっと反則かもしれないが、ここにいる人間でそれを知っているのは成生だけ。他の人はリリアを人間だと思っている。問題は無い。
内側は海陽が歩幅をやや短くし、成生の左足をリードする。成生がリリアと繋がる右脚の歩幅を変えるより、内側で海陽が変えた方が安定していたからだ。特訓でスピードが上がった成生は、海陽のペースについて行けている。
コーナーを半分過ぎたあたりで、
「海陽ー! 元口くーん! 東尾さーん!」
こいぬの声が聞こえてきた。
成生の足がもつれそうだったが、あそこまで持ってくれればいい。あとはどうなってもいい。
「トカちゃん!」
テイクオーバーゾーンが近付いて、海陽がバトンを持つ左手を伸ばした。
「うわっ!」
と同時に成生がバランスを崩す。
「大丈夫です」
その状態を感じ取ったリリアが左脚のバランスを調整し、成生はギリギリ踏ん張れた。
「あとは任せて。トドメ刺してくるから」
こいぬが海陽からバトンを確実に受け取る。同時に成生たちは崩れて地面に倒れてしまった。
バトンを受け取ったこいぬはロケットスタート。一気に加速して、小さくなっていった。
その時、青ブロックの女子100m走者が走り出した。しかしこいぬとの差はぐんぐん開いていく一方。
最後の男子200mの人も、余裕で最後まで走り抜く。
「やった!」
その行方を見守って足のヒモもほどくのも忘れていた三人は、地面に座ったまま肩を抱き合って優勝を喜んだ。
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