第49話 同じ想いを持った五人と一人
成生と
成生が海陽と走る練習をすると言うと、
「成生さんも一人二脚ですか? あまりお薦めは出来ないです」
とリリアが言いだした。
ちょっと何言ってるか分かんない。
まぁ、これから海陽さんと二人三脚で特訓なのだが。
そしてここから数日、海陽先生による熱血指導特訓が始まった。相変わらず口頭だと擬音が多く、分かりづらい。だが、伝わりづらい部分は手取り足取り教えてくれる。さすがに他の人の目、しかも同じ学校の生徒や先生の目があるからなのか、プールの時ほど接触は無い。
リリアは、そんな二人の特訓を黙って見つめていた。
海陽が手取り足取り教えてくれるお陰で、毎日少しずつ速くはなっていた。
練習終了時間が近付くと三人四脚の練習をするが、最初よりも安定感が増していっている気がする。
「いい感じじゃない?」
「海陽さんの教え方がいいんだよ」
「いやいや、ナリオくんの飲み込みが早いんだよ」
「いやいやいやいや、そんなこと無い。やっぱ海陽さんが丁寧に教えてくれるから、俺も速くなってるんだ。水泳だってそうだったし」
「いやいやいやいやいやいや、ナリオくんが素直になったからだよ。ナリオくんだったら、いつまでも教えていたいなぁ」
「え? 俺、永遠に上達しないの?」
「特訓に終わりはないよ」
「えー……」
(なんだか、二人の時間が増しているような気がします)
練習終わり、笑顔で話している成生と海陽を見てリリアは思った。以前よりも、二人の距離感が近い。
そして成生とリリアとは、少し距離感が出てきたように感じる。
「私は……成生さんといつまでも一緒にいたいです。成生さんの気持ちが私から離れてしまえば、成生さんとは……どうなるのでしょう」
不安になるリリア。
成生を手放したくは無い。その想いはますます強まっていった。
その後の駅から家までの帰り道。
「成生さん。海陽さんを追いかけた日、何か有りましたか?」
リリアは成生に訊いた。やっぱり気になる。
「あの日? 全力で海陽さんに頭を下げたぐらい、かな?」
「以前より成生さんと海陽さんの距離感が近くなっているような気がして……」
「まぁ、海陽さんは元々距離感近いしね。男女でも友達って、あんな距離感なのかなぁ。弟みたい、とは言われたけどさ」
(成生さん、鈍すぎです……)
さすがのリリアも、これには呆れる。
(でも、この様子だと、体育祭のあとに成生さんは……)
海陽は体育祭のあとに告白すると宣言していた。
結果は成生次第。成生の海陽への印象は悪くない。
今の状況だと、どうなるか分からなくなってきた。
少し不安になったリリアは、成生の腕に自分の腕を絡ませて身体を密着させた。
「ど、どうしたの!? リリアさん」
急に腕にリリアのふんわりボディを感じた成生は、思わず声がうわずってしまう。
「こうしたかったんです。私は成生さんのそばにいたいので」
もしそうなってもいいように、少しでも多く成生との思い出を残しておきたかった。
「そう」
何も知らない成生は、
(くっつくなんて珍しい、嫉妬してるのかな?)
と思うだけだった。
本番三日前の通し練習。
今日は本番と同じような流れで練習を行う。
今日の練習は、前の走者であるムカデ組からバトンを受け取り、次の100m走のこいぬへと繋ぐ。今日の練習で問題が出た場合は、明後日までに修正して本番に備えなければならないだろう。
バトンを受け取って、こいぬへと渡すのは海陽の役目。真ん中の成生は受け取りにくいし、リリアはバトンの受け取りをやったことがない。海陽しか出来ないことだった。
「はやくはやくぅ!」
海陽が前走のムカデ組に手を振る。ここまでは青ブロックと競っている状態。点数的にも大差は無く、恐らく本番もこのブロック対抗大リレーが優勝を決める競技になるだろう。
精一杯手を伸ばしたムカデ組から海陽がバトンを受け取ると、
「せーのっ!」
海陽のかけ声で一歩目を出した。後は流れに任せる。
特訓と練習を重ねた三人四脚は、順調に進んでいった。
そしてこいぬの姿が近付いてくる。
「みんなー!」
「トカちゃん!」
海陽がこいぬにバトンを渡そうとしたが、こいぬの手に当たって地面に落ち、転がっていってしまった。
「あっ!」
こいぬは転がったバトンを拾いに行く。その間に青ブロックの走者が先に行ってしまい、かなりの差が付いてしまった。
「大丈夫。追いつけるから」
こいぬはそう言ったが、結局最後の男子がギリギリ追いつけないという結果になってしまう。
通し練習は青ブロックの勝利で終わってしまった。
次の日。
「トカちゃん。バトンの練習しようよ」
「いいよ。私の走りはもう完璧だし、バトンの受け渡しの方が重要だと思うし」
確かに昨日の練習、大差があったが圧倒的早さで差を縮めた。
追いつけはしなかったが。
この足の速さで部活をしていないが、本人曰く「ラジオがリアルタイムで聞けないから」だそうだ。もったいないような気がする。
「わたしたちも、今は足並みそろってると思う」
「今は、ねぇ……」
「だからバトン渡しが重要。昨日失敗したしね。やろうよ、走りの仕上げ!」
明日は本番準備であまり練習が出来ないので、ほぼ今日が最後の練習になる。
成生たちはコーナーを走る練習をしつつ、海陽とこいぬでバトン受け渡しの練習をする。
ラストに何本か本気で走りつつバトン渡しの練習をして、体育祭本番に備えることになった。
その日の帰り道。
今日は成生、リリア、照日、海陽、こいぬ、有の六人で駅へ向かう。普段は成生組と海陽組別々で帰るので、六人揃うのは珍しい。
そもそも、海陽は家が学校の近くなので電車にも乗る必要が無いが、いつもこいぬや有と駅まで行って、家に帰ってるという。
「練習終わっちゃったね。走りも、トカちゃんへのバトン渡しもまだ不安があるけど」
「私はまだ練習あるよぉ」
「るーも、明日最終練習があるってー」
と、有と照日。この二人は応援合戦に出る。
「いいなぁ。準備よりそっちの方がよくない?」
「準備してくれる人がいるから、体育祭が開ける訳でぇ」
「そっかぁ。モンちゃんがそう言うなら、明日の準備がんばるね」
さすが、海陽と仲のいい有だ。扱い方がよく分かってる。
「多分、大リレーが優勝決める勝負になるだろうから、がんばろうね。ナリオくん、リリア」
「ああ、勝とうな」
「はい。勝ちましょう。赤ブロック優勝です」
「えー、青ブロックはー?」
そう不機嫌そうに言う照日。照日は隣のクラスで、この中で一人だけ青ブロック所属だ。
「ブロック関係無く、照日ちゃんのかわいさは優勝だから」
「やったー!」
こいぬも照日の扱いが分かってきているようだ。こいぬの言葉で、照日の機嫌はすぐに良くなった。
練習は青ブロックに勝利を持って行かれたが、本番はなんとしても赤ブロック優勝で終わらせたい。
成生は中学まで体育祭はどうでもいいと思っていたが、今年は違う。それは、ここにいるみんなのお陰だろう。
赤が勝つという同じ想いを持った五人。と、青ブロックだけど成生やリリアと一緒に住む照日。照日は色違いで青が勝つと思っているだろう。
そして六人は、体育祭本番を迎えることになる。
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