第25話 海陽は濡れている
成生に力強く引っ張られて家の中へと連れ込まれた
背中には玄関扉。
目の前には、成生が迫る。その距離、30cmも無いだろう。
小さめな海陽が見上げると、目の前には成生の顔がある。息が感じられそうなほどに近い。
成生と扉に挟まれた上、その手で海陽の肩をガッシリとつかまれていて、身体は全く動かなかった。だが、さっきから小刻みに震えている。動かなかったと言うより、動かせなかった。
「海陽さん……」
「な、に……?」
海陽は声はなんとか出せた。
まっすぐ見てくる成生の目から、海陽は逸らすことすら出来ないでいる。
成生がこれからナニかをしようとしているが、逃れられる気がしない。
ガマンできないと言っていた。つまり……。
さびしがってて困ってるから、と軽い気持ちで成生の家にやってきたが、こんなことになるとは思っていなかった。
もはや、流れに任せるしかない状態。
海陽は覚悟を決めた。
「濡れてる……」
「ふぁっ!?」
海陽はヘンな声が出てしまった。
どこが濡れてると? 確かに、ナニかを期待しちゃった自分はいるが……。
「すっごい濡れてる」
「え? なにが?」
「これ、汗じゃないでしょ。冷たいし。慌てて来たから、傘振り回すみたいな形になってたんじゃない? それに、こんな震えてる。寒いの? 寒いでしょ。今、お風呂準備するから、先に温まってよ。そんなびしょびしょな状態の海陽さんなんて、ほっとけないよ」
早口でそう言うと、成生は家の奥へと進んで行って途中の部屋に入った。恐らく、そこが風呂場なのだろう。
「――ビックリしたぁ……」
さっきまで成生がつかんでいた肩の部分を触ると、確かに濡れていた。
道に迷ってから走ったりしていた瞬間はあるが、汗をかいた時のような熱さは感じない。
成生の家を探すことに夢中になっていたのであまり覚えてはいないが、走った時に傘が揺れていたような気はする。
成生はショルダーストラップが濡れていたところから、雨に濡れたと感じたんだろう。そして実際に触って、その冷たさから雨で濡れたのだと確信した。
そして、今に至る。
「――ちょっとびっくりしたぁ」
鼓動はまだ早い。
「ナリオくんってやさしいんだね」
海陽は足が濡れてないか確認してから、家に上がった。
「ふぅ……」
元口家のお風呂に入る海陽。脚も伸ばせる大きめなお風呂。
湯船に張られたお湯で、身も心も温まる。
「――まだドキドキしてる……」
いや、心は温かいどころか、すでに熱かった。
「おっきかったなぁ。ナリオくんの……」
海陽は成生につかまれていた肩のところに、自分の手を重ねてみた。さっき感じた成生の手は海陽の手より一回り、いや二回りは大きかった。
「それに、あのナリオくんの目……」
海陽を見つめる成生の真剣な目は、吸い込まれそうなほどの引力を持っていた。あんな目で見られたのは、初めてである。海陽は、その目に一瞬で引き込まれた。
「わたし、もしかして……」
そうつぶやいたところで、今日来た目的を思い出した。
気持ちを切り替えるために、両手でお湯をすくってバシャッと顔を洗う。
「ダメダメ。今日はリリアの代わりとして来たんだから」
顔に付いた水滴がぴちょんと
(わたしで、リリアの代わりになれるのだろうか……)
リリアは頭がよくて、美人で、スタイルがいい。
海陽はまるで正反対だ。
頭はよくない。
美人とは言えない。
スタイルは……背は高くないけど、他はまあまあ……。
「かてっこないす」
これからリリアのようになるなんて、ムリだろう。
(そんな人がいつもそばにいるんじゃあ、ナリオくんは……)
気分は落ちていくばかり。
「ダメダメダメ」
気持ちを再び切り替えるように、また顔を洗った。
「リリアが帰って来るまでは、リリアの代わりになるんだ。それで、ナリオくんのそばにいる。それから先は、わたしになればいいんだ」
海陽の気持ちは固まった。
「でも、ちょっとはわたしの部分出してもいいよね? リリアの全部は知らないから」
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