第43話 大会

剣術大会当日


ダミナーイグと言う地域が初めてで、公共交通機関※で向かう事になった。

※この世界では機関車のようなレトロな乗り物が有る。


全てが初めてで、切符の買い方も分からないものだから兵隊を目指すために上京した田舎者だと勘違いされて周りから妙に優しくされたりと複雑な気持ちだ。


さて、俺は何も特徴の無い人数合わせの為に呼ばれた平凡な剣士、オムライスだ。

そう自分に言い聞かせて、アナスタシアに指定された待ち合わせ場所である酒場へ向かうと、既にアナスタシアと四人のギルドの剣士が待っていた。


「ハァ……ハァ……あっ、すみません。自分が最後に来たんですね」


演技で息を切らせながらそう一言謝ると、四人の中で最年少であろう剣士が腕を組んで文句を言ってきた。


「おい、オムライス! ふざけるのは名前だけにしておけよ! 何も実績の無いど新人が俺達上級剣士を待たせるとはどう言う事だ!」


オムライスをふざけた名前と言いやがってと腹が立ったが、そこは我慢してひたすら謝罪した。


「ちっ、アナスタシアさんがお前を選んだから我慢するけどよ、これ以上はマジ勘弁だぞ?」


「まぁまぁ、それ以上は虐めないでやってくれ。オムライスも勇気を出して参加してくれたんだ。オムライス、お前に我がギルド精鋭の四人を紹介するわ」


アナスタシアは四人の剣士をなだめると俺に紹介をしてくれた。


グロッグ、ペゴンタ、ピエール、シャナズ

以上。


因みに文句を言ってきたのはペゴンタだ。お前の名前よりオムライスの方がマシだ!と突っ込もうとしたが、彼の親が付けた名前だと思うと胸が痛み、グッと我慢した。

彼の親に罪は無い。


アナスタシアが四人の戦績を言っていたが、既に新聞で把握していたからそのまま聞き流す。


「さて、我がギルドから君達五人が参加してくれた事に感謝する。今回の剣術大会は強豪揃いだ。少しでもいい、我がギルドの恥にならない成績を残して欲しい」


俺以外の他の四人は真剣な顔でアナスタシアの話を聞いて頷いていた。


「分かってます。ギルドに恥じないよう予選を突破して何とかベスト16を目指します」


そう言ったのは最年長のグロッグだった。

大丈夫か? と思うほど四人は緊張し、萎縮しているように見えた。


ベスト16か……少し気合を入れてやるか。


「何弱気になってるんすか? ベスト16しかいけないんすか? 参加するからには優勝目指しましょうよ! 最初からベスト16を目指してどうするんすか? 優勝目指して結果ベスト16ならいいすけど」


「何だと!」


四人は目が血走って一斉になって俺に突っかかってきたが、アナスタシアが慌てて止めに入った。


「さぁ、子供の喧嘩は終わりよ! 開会式と来賓の方達の挨拶の時間が迫っているから闘技場へ向かうわよ!」


殺気立つ四人の後を追って欠伸をしながら後ろを付いて歩いているとアナスタシアが隣に並んで歩いてきて、小声で話し始めた。


「今日はありがとう、来ないかと思った。それに、貴方の嫌味の一言で彼らのやる気が出たみたい。さっきまで萎縮してたから」


「それは良かった。やっぱり参加者は強豪揃いなのか?」


「ええ。それに、勇神隊の隊長ファクが参加するから一気に大会の格式が上がってしまったの。恐らく相当な人数の応援者が来るはずよ。だからエメ……オムライスも油断しないでね」


「オーケー」


奴がこの剣術大会に間違いなく参加する事が分かれば十分だ。

俺の目的はアイツだけだからな。



闘技場に着くとこんなにも剣士が居たのかと言うくらい多くの剣士達が集められていた。


ドンッ


「コラッ! よそ見してんじゃねーぞ!」


「あっ、すんません」


少し肩がぶつかっただけで怒鳴り散らしてくる輩が居たりと、周りの剣士達は殺気立って開会式を待っている状態だった。


「参加者の皆様、大変お待たせしましたした! 只今から、剣術大会開会式を始めまーす! 皆さん、気合い入ってますかー?」


マイクを持った猫耳の女が明るく掛け声をした。


シーーーーン……


「は……はは(汗)皆様相当気合いが入っているようです。では、開会式を始めまーす!」



開会式はつまらないものだった。開催地の市長の長々と喋るどうでもいい話し。

そういや、子供の頃に校長の話が長すぎて立って聞いていた生徒が相次いで倒れたのを思い出した。


来賓も各国の大臣級が当たり障りの無い話をして参加者へ労いの言葉を掛けていた。


「それでは皆様、最後の来賓の方が急遽参席して頂けました。スズイ王国のルーシャ王女です!!」


「マジかよ!」


思わず声が漏れる。ルーシャがこの大会の来賓で来ただと? 大丈夫だ……俺の今の格好は何処にでも居るモブの剣士、オムライスだ。それにこれだけの剣士の人数だ、絶対にバレるはずがない。


「ルーシャ王女が今大会参加者へ直接労いたいとの事で特別に接見をされます。皆様、粗相のないようにお願いします」


猫耳司会者が声のトーンを抑えて真面目な声で喋っていた。


コツコツ コツコツ コツコツ


聞き覚えのある足音が闘技場へ近づくとルーシャが現れた。


「おおーーー」


周りの剣士達から響めく声が聞こえ、周りの剣士達が一斉に片膝を突くものだから慌ててそれにならう。


久しぶりに見るルーシャの姿は美しかった。

神の選別で会った時は戦闘服に身を包んでいたが、今見るルーシャは美しいドレスを着飾り、王女に相応しい出立ちだった。


ルーシャはボディーガードを数人従え、それに……横には見覚えのある髭の長い爺さんを引き連れて丁寧に一人一人の剣士を労っていた。


おいおいちょっと待ってくれ。一人一人挨拶するのか? 俺まで来るじゃないか?

慌てて、ルーシャから一番遠い場所へバレないように少しずつ少しずつずれていき、一番端迄逃げる事に成功した。


挨拶する剣士の人数が多いものだから開会式の時間が推していた。


「ルーシャ王女、開会式の時間が押していますので……」


猫耳司会者が遠慮がちに言うが、ルーシャは意に介さず接見を続けた。


ああ……もう駄目だこれは確実に来るパターンだ。俺は諦めた。


ルーシャがどんどん近付いて来る。挨拶を待っている剣士達からは「美しい」とあちこちから声が漏れていた。


そして、目の前の剣士への労いの言葉が終わり、最後に残った俺の元へルーシャが近付いてきた。


「面を上げてください。硬くならなくていいわ」


俺は無言でルーシャを見上げた。喋るとバレる可能性があったからだ。


「こちらの剣士はオムライス殿ですじゃ。戦績は無いようで、今回は初参加ですじゃ」


隣の長髭爺さんが資料を見ながらルーシャへ伝えていた。


「オムライス殿、出来れば兜を取って素顔の貴方へ労いをかけたいのですが」


「……」


さて、どうしたものか。

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