第5話 心叫

ガンッ ガンッ ガンッ ガキッ!


屈強な男がハンマーで何度も石像を叩く。

しかし、叩く每にハンマーが少しずつ砕けていった。 


「何だこの石像は!全然破壊出来ないじゃないか!おい!例のハンマーを持ってこい!」


「へい!」


目の前の屈強な男が肩で息をしながら大きなハンマーを握った。さっきまでのハンマーの5倍はあろう大きさだった。


おい! マザー、ちょっとあのハンマーはまずいんじゃないか?


ダイジヨウブデス アノテイドノ ハンマーデハ コノセキゾウヲ ハカイスルコトハ デキマセン 


おいおい本当かよ?


「うぉーーーー!」


ガキッ! 


大きな雄叫びも虚しく、石像ではなくハンマーの方が粉々に砕け散っていった。

この石像、一体どれだけ硬いのよ?


「ば・・・馬鹿な! このハンマーは魔物も殺すことが出来るハンマーだと言うのに? どんだけ硬いんだこの石像は?」


男が不安な顔で司祭を見た。


「早く何とかするんだ!他に良い方法は無いのか?」


司祭が腕を組みながらジロッと男を見た。


「司。。、司祭様、ご安心下さい。とっておきの方法があるのです」


「とっておきの方法だと?」


「はい!この村の外れに沼があるのをご存知ですか?」


「沼?知らないな? そんな沼あったのか?」


「その沼に一度落ちると2度と浮き上がることが出来ない、いわくつきの沼なのです。壊せないなら、沈めて2度と浮き上がらないようにすれば良いのです」


「成程、良いアイデアだな。早速取り掛かかるんただ」


司祭の言葉に安堵した男達は、直ぐに準備を始めた。


おいっ! ふざけるな! 


壊せないだろうとたかを括っていたら、今度は沼に沈める話になって俺は焦った。沈められたら最後、俺は永遠に沼で孤独と共に生きなければならない。


目の前に集められた村人の手にはロープが握られていた。そのロープの先はぐるぐる巻きにされた石像が一体。

引き倒して沼まで引きずっていくらしい。


マザー、何とかならないか?


ドウシヨウモアリマセン 


!?


「魔物だーーーー!!」


村人の一人が叫んだ。

村の方で煙が上がっていた。村から微かに聞こえる悲鳴や怒声、それに奇妙な声が時間が経つにつれてどんどん広がっていった。

ロープを握った村人達は狼狽したかと思うと一斉に逃げ出していった。


「お前ら待つんだ!! 未だ終わってないぞ!」


「そうじゃ、司祭様の言うことを聞けないのか!」

男達が村人を止めようとするが、誰一人聞かず村の方へ走っていった。 


「きっとこいつが呼んだんだ!壊されると分かって仲間の魔物を呼んだのだ!」

司祭が石像を蹴りながら吐き捨てた。


魔物だと? もしかしてあいつか? 

マザー、何が起きているか分かるか?


マモノガ ムラヲ オソッテイルヨウデス スデニ ナンニンカ ムラビトガ コロサレテイマス 


ついに来たのか。いつかは来ると思っていた事が現実になってしまった。 

ちくしょう、 身体が、いや喋ることが出来たら村の人間に警告出来たはずだ。 


ドシッ ドシッ ドシッ ドシッ


重い足音がこちらに近づく音がする。

奴だ・・・ あの時見た魔物だ。 おい! ラフシール! 逃げろ!


「ぎゃあ!」


叫び声が聞こえた方を見ると、男達が魔物に襲われているのが見える。それを見た司祭は一目散に逃げ出した。


マザー、ラフシールが心配だ。何とかならないのか?


コノジョウタイデハ ドウスルコトモ デキマセン


マザー、そんな事は分かってる。じゃあ、あの魔物は何だ? 弱点とか何か無いのか?


アプリモード ステータスへ ヘンコウシマス


シュゾク: マモノ

ネンレイ:128

セイベツ:メス

セイカク:ホシュテキ

トクセイ: シュンビン、デンキ

ジャクテン:ハナノシタ


何だよこれ?

突然目の前に、文字が浮かびあがった。

弱点。、、鼻の下? 性格? マザー、何だこれは?


アプリモードデス

アイテノ ステータスヲ ミルコトガデキマス


アプリモード?


「きゃあ! 誰か、、。誰か助けて!」


あっ! 魔物がラフシールを追いかけていた。

追い付かれて殺されるのも時間の問題だった。


ラフシール!!

くそっ! どうしたら。、。。そう言えば特性。、。電気、、、マザー、特性の電気ってどう言う意味だ!もしかして、、、電気ウナギみたいに電気を流すんじゃ?


ソノトオリデス


マザー、奴が出す電圧はどれ位になるんだ?


オヨソ イチオクボルト カミナリトホボ イッショニナリマス タダシ マモノガ コウフンシタトキデス


雷と一緒か。、。もうこれに賭けるしかない!


ラフシールが魔物に追い詰められて俺の足下まで逃げてきた。


「ハァ、、ハァ。、、あんたの事よく覚えているわ!私の、、。私のお母様を。、、お母様は私を庇って、、、許さない。。。絶対に許さないんだから!」


ラフシールは足下に落ちた石を魔物へ投げつけた。


そうか、、。だから魔物を憎んでいたのか。

おいこらっ! こっちを見ろ化物! こっちだ!

俺は必死に叫ぶが魔物に声は届かない。


石を投げられた魔物が興奮してラフシールへ襲いかかる。


やめろーーーーーーー!!!


グラグラグラグラグラ


視界が立ち眩みがしたかのように小刻みに揺れ続ける。


魔物の動きが止まり、俺、つまり石像を睨んでいるように見える。

俺の声が聞こえたのか? 聞こえるならもっと叫んでやる。


オラっ!こっちだ!バーカ!バーカ!

小学生レベルの煽りを言っている自分がなんだか恥ずかしくなってきた。それだけ必死だったんだ。


でも、明らかに俺の声に反応している。獣が威嚇しているみたいだ。それに、バチバチと魔物の毛が逆立っていた。


来い


来い


来い!


俺を襲ってこい!!!


「グワォーーーーーー!!」


魔物はラフシールではなく、俺に襲いかかってきた。


バババァーーーーーーーーン!!!


魔物が石像へ噛みついた瞬間、まるで雷が落ちたような大きな音がして、石像の周りが吹き飛んだ。




... うっ


目の前の景色がはっきりと見える。

今までは目にフィルターが貼っているかの様にぼやけていたからだ。


身体が… 動く 、動くぞ!!

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