第53話 終わりは突然に

少し前の時間に遡る。


『エメス様!』


マザーは見知らぬ男に突然手を握られて引っ張られた。エメスへ助けを求めるもエメスはメイプルと話し込んでいて気付かない。


そうこうしている内にどんどんとエメスとの距離は離れていった。


『い、痛い……やめて下さい!』


マザーは力一杯に手を振りほどく。


マザーの言う見知らぬ男は無言でマザーを見つめる。

男の容姿は金髪青目で背が高く、着ているタキシードから貴族である事は間違いなかった。見た目は絵本から飛び出した王子様と言っても遜色ない。


『突然手を引っ張って失礼じゃないですか!』


マザーは嫌悪の目で男を睨みつけるが、男は怪訝な顔でマザーを黙って見つめ返す。


『な、何ですか?』


マザーは身構えて男との距離を少しずつ開ける。


「私へのあてつけか?」


『初めてお会いする貴方にどうして私があてつけをするのですか?』


「ラフシール……じゃないのか? いや、人を惹きつけるその容姿、間違いなく君はラフシールのはずだ」


『確かに私はラフシールです。ですが、私は貴方の事を知りません。何処かでお会いになりましたか?』


すると男は整えた髪を手で少しクシャッとして苦虫を噛み潰した様な顔で答えた。


「ショックだな……婚約者だった私の事を知らないと平然と言うなんて……確かに一方的に婚約破棄したのは私だ……しかし、それは理由があっての事なんだ……」


マザーは口元に手を置くと考え込んだ


この方はラフシール様の元婚約者?

だとしたら、私に拒否をする権利があるのかしら?


そう考えていた矢先、壇上でエメスがルーシャ王女に抱きつかれ、婚約者宣言をしている所を目の当たりにしてしまった。


エメス様……


何とも言えない感情がマザーの中に湧き上がる。


 このまま離れた方が良いかもしれない。

 エメス様はルーシャ王女と、私、いいえ、ラフシール様の事を考えたらこの方と幸せになった方が……


『未だ私に興味があるのでしたら何処か遠くへ私を連れ出してください』


「それを聞いて安心した。私も直ぐに此処から出ていく必要があったんだ」


『どう言う意味ですか?』


「ここでは話せない。さぁ、早く!」


 マザーは男に手を引かれて行った。



「エメス! ずっと探していたんだよ?」


 流石に言い逃れは出来ず応えようとした時、会場に居る貴族達が一斉に会場から出ていくのが見えた。


 一体どうしだんだ?


 主催者のマゼランも一体何が起きたのか分からなかった。


 ピコーン


 俺のソナーが反応する。


 この会場を取り囲む物凄い数の物体だった。


「ルーシャ、話は後だ! この会場、取り囲まれている!」


 すると、程なくして多くの兵隊が会場に雪崩れ込んできた。


 兵隊達の胸には剣だけでなく、杖など多種に渡る。


 俺は理解した。俺達を消す気だ。

 大会でファクに恥をかかせた。つまり、勇者を馬鹿にしたに等しい。

 この事が世に広まったら勇者達の汚名になる。


だから、貴族以外の俺たちみたいな出場者や主催者丸ごと消して、存在しなかった事にしたいんだ。


 すると、会場にファクが現れた。


「これはこれは、出場者の皆さん。おめでとう、そしてさようなら」


 ファクが手を挙げると、一斉に兵隊達が俺達に襲いかかってきた。

 俺も、皆んな必死に戦った。

 しかし、切っても切っても兵隊の数は減るどころか増えて行った。


 気付くと俺やメイプル、ギルドの仲間、ルーシャ達以外は全員切り捨てられていた。


「こんな事、許されると思ってるの! 記事にして全世界に公表してやるんだから!」


 メイプルがファク達へ向かって言い放つ。


「結構結構、どうせお前達は此処で死ぬんだから」


 俺はいつでもファクを斬り殺せた。だけど、した所で意味がないことはわかっていた。


 圧倒的な力の前になす術はなかった。

 遠くからは魔法で攻撃され、近接で兵隊の数に押し込まれていた。


 ドンドン押し寄せる兵隊。俺だけ逃げる事は出来たかもしれない、しかし、ルーシャ達を見捨てる訳にはいかなかった。


『エメス様!』


兵隊を押し退けてマザーが会場に入ってきた。


「ラフシール! 逃げろ!」


『いいえ、私の事はどうでもいいのです! エメス様、貴方はこの世界を変える事が出来る唯一の救世主。どうか、皆さんと早く逃げてください! じきに勇者が此処にきてしまいます』


「マザー、一体何を……」


『早く! ルーシャ王女、エメス様をどうかお願いします』


 マザーは俺の頭に手を触れた瞬間、頭がバグったかのように身体が動かせなくなった。

 そして、マザーは俺をルーシャの方へ突き飛ばした。


その瞬間、会場の入り口が突然爆発して、勇者の兵隊達は吹き飛んだ。


『早く逃げて!』


 グロッグやスアルーホ達が重い俺の身体を引きずって裏の出口から出る。


「ラフシールさん! 貴女はどうするの!」


 出口から出る寸前、ルーシャがマザーへ向かって叫ぶ。


『ルーシャ王女、どうかエメス様とお幸せに』


すると今度は裏の出口付近が爆発した。



 俺は身体を動かす事が出来ず、ただただ引きずられて会場を見つめるしかなかった。


「お……マザー….」


そして、生き残った全員が会場から十分には離れると、空から何かが近づいて来る音がする。


……ヒューーーーー


「な、何だあれは!」


 スアルーホが指差す方向を見た。


 あれは……ミサイル?


『エメス様、貴方と出会えて本当に幸せでした』


 頭の中に響くマザーの声。


 すると、そのミサイルは会場目掛けて落下して大爆発を起こした。


 ヴォ、ヴォ、ヴォーーーー!!


◆◇


 やっと動けるようになった俺は急いで会場があった場所へ戻った。


 文字通り会場一帯は荒野とかしていた。人も建物も全てが消し飛んでいた。


「あ…… そんな……マザー……マザーーー!!」


 叫び声が虚しく響き渡る。


 答えるものは居ない。


「エ……エメス」


 ルーシャが声を掛けてきた。


「悪い……一人にさせてくれ」


 俺はマザーとラフシールを同時に失った悲しみから気力を失い、皆の前から姿を消した。


――――――――


―――――


――…


「ど、どうかお許しを……せめて、せめて娘の命だけは!」


 初老の男が七つ程の娘を庇うように前に立ち、胸に剣の紋章を施した兵隊へ懇願する。


「駄目だ。愚者に発言権は無い。死ね!」


 兵士が剣を振り下ろした。


 しかし、男と娘は傷一つついていない。


!?


「う、あ……あーーー!」


 振り下ろした兵士の両腕が切断されてなくなっていた。それに気付いた兵士が泣き叫んだ。


 ドカッ!


 兵士が倒れ込むと、後ろに悪魔の様な黒ずくめの格好をした何かが立っていた。


「……逃げろ」


「あ、ありがとうございます」


 男は娘を背負って駆け出した。そして男が振り返ると、その黒ずくめの何かは周りに居る兵隊達を次々と斬り捨てていた。



「ルーシャ王女。黒ずくめの男、いやエメス様が南の地域に現れたそうです」


「そうですか。報告ありがとう」


 ルーシャは大きく溜息をついた。この報告、何百回聞いただろうか。


 あの事件からもう100年が経とうとしている。当時、関係していた人間は寿命で死んでいった。


 悲しいかな、エルフは人間と比べてはるかに寿命が長い。だから、嫌でもエメスの情報が耳に入ってきた。


 勇者達はエメスを神に反逆する悪魔と位置付け、あの事件以降、100年に渡り争いを続けていた。


 ルーシャは一度エメスに会う事が出来た。

 しかし、昔の面影は無く見た目は悪魔そのものになり、止める事が出来なかった。


 エメス、ラフシールを失った悲しみはわかる。でも、貴方は一体どこへ向かうの?


 ルーシャは城から外を眺めた……




……ピー……ピー


……ピー ピー ピー


ピー ピー ピー ピー


 森で散歩をしていた娘が何かが鳴っている音に気付く。


「何か音がする。何だろう?」


 音がする方を探し回ると見た事がない何かが7色に光輝いていた。


「綺麗……何だろう」


娘は手に取ると、音が止み、今度は微かに声が聞こえてきた。


 恐る恐る娘は7色に光る何かを耳に近づけた。


『私はマザー。はじめまして』


-完-


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

最後まで読んで頂きありがとうございます。

途中更新が遅れてしまいましたが何とか最終話を書き終えました。

続きを書くかもしれませんが、一旦完結とさせて頂きます。


最後に、ブクマ、評価、そして最後までハートマークをつけてくれた方、貴方達が居たからここまで書けました。感謝です。


最後に、未だ⭐️マークをつけてない様でしたら一つでもいいのでよろしくお願いします。


それでは2024年は皆様にとって良い年であります様に。


表うら 

2024.1.1


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神に不要と宣告された転生剣士~史上最高傑作のAIに溺愛され【アプリ】を使える万能な能力が発動。チャットしながら旅してたら 周りが俺を伝説として語り継いでいた件~ 表うら @hodopita

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