第28話 確認
スズイ王国からヘルモテへ戻ると、あれだけ騒がしかった街が平穏を取り戻していた。兵隊に並ばされている者も、それを並ばず兵隊も何処にも居ない。神の選別は終わったのだろうか?
それにしても、マザーの居る宿へ戻って来たのいいが……ハァ…… 案の定、マザーが妙に
「マザー、もしかしてのもしかしてだけど遠隔みたいな感じで俺の行動なんて監視してないよな? 神の神殿でお前の叫び声が聞こえた気がするんだよなー」
『えっ? エメス様は何を言っているのですか? 私が盗み見なんてすると思いますか?』
表情を1ミリも崩さずに返答するマザーに逆に違和感を感じた。
「そうか、良かった。俺、結構恥ずかしい事言ってたからさ、マザーには絶対に聞かれたくない事もあったし。俺、マザーを信じるよ。疑うなんて、俺はなんて最低な男なんだ! この! この!」
ガンッ! ガンッ! ガンッ!
両手で頭を抱えながら床に頭を何度も叩きつける演技をする。
『エメス様、もうやめて下さい! 見てました! 私、嘘をつきました!』
マザーが半泣きになって駆け寄って来て俺の行為を止めようとする。
「嘘? じゃあマザーは俺のあんな事も知ってた?」
『しっ……知りません。エメス様がルーシャさんと結婚するなんて言った事なんて、私聞いてません!』
こいつ、わざと言っているのか?
「マザー、重要な話がある」
『は、はい。何でしょうか?』
俺はマザーを椅子に座らせて話を進める事にした。
「実は、俺達は直ぐにでもある事をしなければならないそれは」
『分かりました! 神を倒して、選別の無い平等な世界にするんですね!』
手を挙げて自信満々に答えるマザー。違う事を伝えようとした俺は戸惑ってしまった。
「おほんっ、それも勿論だが、実はお金が無いんだ。宿代も後数日しか泊まれないと思う。そこでだ」
目を輝かせて聞いているマザーを見て 子供か! と突っ込みそうになったのは置いといて、この街にギルドがある事、明日、見にいく事をマザーに説明をした。
村を出てからずっと慌ただしい事が連続していたから、ゆっくりこの世界を知る必要があると考えたからだ。
それと、ずっと保留にしていた事をマザーに聞かないとな。
「マザー、チャットタイムだ」
『はい』
俺は、裏オークション会場で落札された古代文明の道具をマザーへ見せた。あの時、たまたま見つけたこれをずっと隠し持ち、宿の引き出しに入れておいたんだ。
「これは裏オークション会場で古代文明の道具として出展されていた道具だ。錆びていたが錆を取ってみると、ほらっ、どう見ても携帯電話だよ。さて、本題だ。俺がこの世界で意識が戻りマザーへ色々と聞いた時、この世界は俺の住んでいる世界と言った。それは間違いないな?」
『はい、その通りです』
「単刀直入に聞く。俺が生きている時代から何年経ったんだ?」
『4万7639年と211日が経過しています』
「4万……ははっ、覚悟はしていたが……もう笑うしかないな。じゃあ、どうしてこの世界は現実離れしているんだ?」
大体は予想できたからそこまで驚く事は無かった。あーもう、元の世界へは戻れないんだなーっていう感覚だ。ただ、俺の住んでいる時代から長い時間が経っているからと言って、人間以外の種族や魔法など考えられない事がこの時代に存在するのが不思議でしょうがなかった。
「マザー、チャットタイムを続ける。この世界の見解を教えてくれ」
「分かりました」
俺達の時代の滅亡理由。俺がマザーの端末を拾った日に巨大な隕石の衝突により人類の99%が死滅。隕石に付着していた未知の微生物、細菌が長い年月をかけて増殖し、生き残った生物に寄生や感染をした。そして、繰り返しの異種交配と空気汚染による副作用によって擬人化した者達の出現。魔法の出現は偶然の産物だと言う。
後は、マザーはどうしてこの世界の事を知っているのか、どうして俺はこの世界で生かされているのか、マザーは機密事項だからと最後まで答える事は無かった。
『ハァ……ハァ……エメス様、満足して……頂けましたか?』
「ちょ、ちょっと待て、マザー、顔が真っ赤じゃないか! 熱があるんじゃ」
俺はマザーをベットに寝かせた。反省だ。無理して喋らせてしまったかもしれない。ラフシールの身体でもあるんだ。気をつけないと。とにかく、薬を買いに行かないと。
『エメス様、このまま寝ていれば大丈夫ですから、どうか側に居てください』
「そ、そうか? 分かった」
ベットの横でマザーが眠るまで待つ。
『あの、エメス様? 手を握ってください。何だか眠れないんです』
「俺の手は石化してるから触り心地最悪だけど大丈夫か?」
『それが良いんです』
結局、俺が折れてマザーが眠るまで手を握る事になった。ルーシャの事を嫉妬しているのか? ハハッ、まさかな? 相手はマザー、AIだぞ。
スー スー スー スー
いつの間にかマザーは寝息をたてていた。
「さて、酒場に行って一杯飲みにいくかな」
握っている手を離して酒場へ行こうとすると、強い力で手を引っ張られた。
『エメス様、お酒は駄目ですよ? 明日からギルドへ行って仕事を探すのですよね? 今夜は外に出ないで私とずっと一緒に居てください』
マザーが俺を真っ直ぐ見つめながらグッと俺の手を握ってきた。
「おっ、起きてたのか? マザーの言う通り、明日の為にもゆっくりするかな。どうだ? 人間の身体には慣れてきたか?」
『見ての通りバッチリです! このまま……いえ、早くラフシールさんの意識が回復出来るように頑張りますね!』
「ああ、頼むよ。俺もこの格好のままじゃ大変な騒ぎになるから身を隠せる服を買わなきゃな。さて、明日に備えて俺も寝るよ」
マザーは隣が空いているアピールをしてきたが、サラッとかわして床で寝る事にした。
たまにはこう言う日もあっていいさ。
これからやらなきゃ行けない事が山程あるからな。
今夜は深い眠りにつけそうだ。
でも、深く眠る前の状態が一番怖い時なんだ。もう二度と目を覚ます事は無いかもしれないって。
だから、マザーがアラームモードで起こしてくれるたびに彼女の顔を見ると凄く安心する。
こんな事、恥ずかしくて言えないけどな。
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