第18話 魔法

「裏オークションの開催情報を入手したから急いで来てみたら…… とんでも無い盗賊が居たものね」


盗賊? もしかして俺の事を言ってるのか?

いや、それよりもアイツらの服に付いている紋章、剣では無く、杖? カッペ達を殺した兵隊達の紋章に似ているが別の部隊の奴らか?


「パオラ小隊長、お気をつけ下さい。あの黒装束、禍々まがまがしいオーラを放っております」


周りの兵隊達が臨戦態勢に入っていた。


「ちょっとちょっと! 禍々しいオーラって、多分この服のせいですよ! 俺、盗賊じゃないっすよ」


とにかく今は我慢しろ、今は目立った行動をするのはまずい。


「嘘をつくな! さっき逃げ出した奴を捕らえたら、黒装束の男が仲間全員をしばいていたと言ってたぞ? こいつぁ とんでもねぇ野郎だ パオラ様、 早く討伐しましょう!」


目の前に居るパオラという魔法使いがぶつぶつ言いながら俺に向かって杖をかざしてきた。


ブワッ!!


杖に炎が集まったかと思うと杖を俺の方へ振りかざしてきた。その炎が塊となって向かってくるので、思わず飛んで避ける。


しかし、避けたはずの炎が俺の方へ曲がって来てぶつかると俺は炎に包まれた。


「パオラ小隊長! やりましたね!」


部下達が歓喜の声を上げた。


炎? 何だよこれ? 熱さは感じないけど、ちょっと息苦しい。しかし、カッペ達を殺した兵隊達といい、コイツらも人の話を全く聞こうとしない。手前が一番正しいと思う奴ら、そういう奴らが俺は大嫌いだ。


とにかく、我慢だ我慢。

先ずはこの頑固者共に誤解を解かないとな。

俺は話を聞いて貰おうと炎に包まれながらパオラに近づく。


「こ、こいつ、炎が効かないのか? これならどうだ!」


パオラの杖に冷気が集まっているのが見える。今度は何をするつもりだ?

間髪入れずに杖を俺に振りかざすと今度は氷の塊が俺に直撃し、全身が凍ってしまった。


これってやっぱりあれだよな? マザーが言ってた魔法だよな? まさにファンタジーの世界じゃないかよ! 何か、すげー感動!


いかんいかん、干渉に浸ってる場合じゃない。とにかく動いて、穏便に済ませないと。


バキバキバキバキ 


「なっ! 氷が砕けていくぞ!」


「あのー、 ちょっと聞いて欲しいんだけど。誤解してるよ。俺はさっき言った通り盗賊じゃない。お前らと一緒で」


そう言いながら、全身の氷を砕き再びパオラの前に立った。


「化物め……」


「化物って、 ちょっと聞いてくれよ! 俺は盗賊じゃないんだ!」


「そうみたいね、ごめんなさい。私が誤解してたみたい」


「良かった。誤解が解けたみ……」


「FDKFSAU!」


グワシャーーン!


パオラが訳のわからない言葉を発しながら突然、両手根りょうしゅこんを合わせて腹にぶち当ててくると、俺は壁を突き破って遥か後方へ吹っ飛んだ。


ふー、全然痛くないから困ったな。これで起き上がったらあの女はムキになって俺が倒れるまで魔法を使い続けそうだ。


死んだフリをしよう。

俺は倒れたままピクリとも動かないようにしていると、パオラの部下の一人が俺の元へやってきた。


動かない事をいい事に頸動脈けいどうみゃくを触ったり、生きているのか死んでいるの確認しているようだ。男に弄られるのは趣味じゃないんだが……

ある程度見ると納得したのか去って行った。


「パオラ小隊長、盗賊の死亡確認しました。冷たくなり完全に死後硬直も起こしてガッチガッチに固まってましたよ。あれで生きてたらまさに化物ですよ!」


「確認ご苦労様。最初から手加減しなければ良かったわ。さぁ 皆。片付いたから行くわよ!」


ズカズカと女が歩きながら出ていくと、周りの部下達はそれに続いて去って行った。


あの女、パオラって言ったか? 絶対にゆるさん!

吹っ飛ばされた俺は倒れながら考え事をしていた。マザー達は無事にでられただろうか?

マザーだけならいいんだが、問題はクインカスだ。


さっきの兵隊達がそこら中に居る為、隠れながらここを出るしかないな。


プルルルルル プルルルルル プルルルルル


なになになに?

頭に聞き覚えのある音がなり始めた。懐かしい音、電話の着信音だった。

急に頭に鳴り響くものだからどうしたらいいのかわからず混乱していると、目の前に字が表示された。


チャクシン マザー


▶︎オウトウ

 キョヒ


マザーから着信? 応答を選択する。


『もしもしエメス様? 聞こえますか? こちらラフシールです!』


頭の中にマザーの声が響く。

一体どういう原理なんだ? とマザーに聞いても機密事項だからと言われるのがオチだ。


「聞こえるよ。そっちは無事に出られたか?」


『はい、実は……』


マザーの説明はこうだ。

クインカスを先頭に捕まった人間達を引き連れて順調に闘技場の出口まで進んで後少しで出れそうになった時、何処からともなく現れた兵隊達に見つかり、彼らに保護してもらおうとマザーが近づいたとの事。そしたら、有無も言わさず魔法の炎で攻撃してきたと言ってきた。


「ちょっとまて! マザー! 怪我は無いのか? 他の皆は大丈夫なのか?」


『私はクインカスさんが守ってくださり大丈夫でしたが、他の皆は兵隊に殺されました。その後、クインカスさんが兵隊達を…… その…… 』


まぁ、ここまで言えば兵隊達がどうなったかくらい分かる。「直ぐにそっちへ向かう」と言ってアプリを遮断した。


闘技場の出口付近に近づくと、オークションを仕切っていたゴパコやその手下が連行されているのが遠目で見える。不思議な事に落札参加者達が連行されている姿は見当たらない。


『エメス様!』


マザーが抱きついてきた。何か、行動が大胆になってきてないか?


「約束は守ったぞ、我を褒めよ!」

クインカスが腕を組んでニヤニヤしていた。


「ラフシールを助けてくれたんだってな。礼を言う」


「おー、もっと我を褒めろ!我は褒められるのは大好きじゃ」


周りを見渡すと、マザーと一緒に逃げた人間や、俺を殺そうとした奴らと一緒の服装を着た死体がたくさん転がっていた。


「クインカス、これはお前がやったのか?」


「そうじゃ、舐めた小僧達が我を殺そうとしてきたからな。当然の報いじゃ。足手纏いの人間は放っておいたがな」


「お前……何で助けないんだよ!」


「ボケ! お前との約束は先導して出口まで連れていく事じゃ!助けるまでは約束に入ってないわ!まぁ、ラフシールは特別に助けてやったがな!」


「うっ……」


確かにそうだ、連れ出した人間達が死んだ責任をクインカスへ擦り付けようとしてしまった。

くそっ…… こいつに論破されるとは。


『エメス様、私……』


マザーの目を見て彼女が何をしたいのか分かった。


「死体を埋めて墓を作ってあげようか?」


『はい!』


俺とマザーの二人で死体を埋められる場所まで運び、土を掘って埋める作業を始めた。


クインカスは欠伸あくびをしながら意に介さず、地面に寝転がって俺達の行動を見ていた。


「クインカス、お前に見られていると気が散る。約束は終わったんだからどっか行ったらどうだ?」


「よし! 決めたぞ!」


クインカスがピョンと立ち上がるとニカっとギザギザの歯を見せて答えた。 


「何をだ?」


「ラフシールを嫁にするんじゃ!」


はっ? ラフシールを嫁に? コイツ、いきなり何を言ってるんだ?

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