第40話 数字

結論として俺は狸寝入りをした。アナスタシアから何を言われても、何をされてもまさに、石の様に動かずじっと我慢して凌いだつもりだった。


しかし、俺はいつの間にか寝てしまっていた。こんな状況でよく眠れるな!と言うツッコミたい気持ちは分かる。でも寝てしまったんだから仕方が無い。


正直それはどうでもいい話なんだ。

実は今、目が覚めたばかりで混乱している状況だ。


今、俺は床に寝ている。右側にアナスタシアが気持ちよさそうに俺を抱き枕がわりにして眠っている。(裸で)まぁ、そこは想定内だ。問題はここからだ。

アナスタシアの反対側、つまり俺の左側にマザーが同じ様に俺を抱き枕がわりにして眠っていたのだ。(服は着ている)


まるで一つの獲物を奪い合うかの様に彼女らの手と足が俺の身体を舞台に交錯していた。


動くべきか……出来ればどちらも起こさずにこの場から離れる必要がある。

あれこれ考えていると、マザーが突然ムクっと目を擦りながら起き上がった。


はっ! しまった!

マザーのアラームモードの時間か!


≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒


『エメス様! 起きて……あら? エメス様? 何処ですか?』


マザーは不思議な顔をしてキョロキョロしている。


危なかった。俺はスローモーションモードでアナスタシアの服を着させた後、宿の外へ出る事に成功した。後少し遅れていたら修羅場になっていたかもしれない。しかし、マザーにも困ったもんだ。ルーシャの時といい、やたらと同性と張り合うと言うか……AIとして負けられない気持ちがあるのか……俺には分からない。


路地裏の人目につかない場所へ移動して腰をかけた。

剣術大会に参加するファクと言う兵隊長。俺の記憶だと間違いなくアイツだ。


「音声再生モード、検索ファク」


ケンサクケッカ 1ケン


サイセイシマスカ?  ▶︎ ハイ

             イイエ


ハイを選択すると、今でも忘れられないやり取りが聞こえてきた。二度と聞く事は無いと思っていたが……



「ファク隊長! 貴族の女物の服が見つかりました!サイモン卿の娘の服で間違いないと思います」

「ご苦労。所詮愚者はどこまでいっても愚者だな。おい! 三人共全員斬り殺してしまえ!」


「はっ!」


ザシュ!

ザシュ!

ザシュ!



ここで音声は終わっている。本能で録音を切ったのかもしれない。

忘れかけていた感情が沸々と蘇り、身体が小刻みに震えているのが分かる。抑えようとしても抑えきれない感情、それは紛れもなくファクに対する 殺意 だった。 


ファクと言う奴はカッペ達を切り殺すように指示した男。そいつが、剣術大会に出る。カッペ達の仇を取るには絶好の機会。それも、大会と言う真っ当な方法で……試合での不慮の事故ならお咎めなしだ。


?!


路地裏の地面に溜まった、水たまりの水面に写った自分の顔がを見てゾッとした。


何て顔をしているんだ俺は……

本来なら表情を変えられない石の顔なのに……

それは、怒りの表情とは程遠い……罠に掛かった獲物を見つけたような喜びに満ち溢れた顔だった。



ガチャ


『あっ、エメス様お帰りなさい! お部屋に居なかったので心配しました!』


宿へ戻って扉を開けるとマザーがパタパタと駆け寄ってきた。


「アナスタシアは?」


『あの……凄く残念そうな顔をして少し前に宿を出ていきました』


やれやれ、そんな事を聞いてしまったら一刻も早く伝えてやらないとな。マザーには悪いがファクの事は内緒だ。言ってしまえば俺を絶対に止めるだろうからな。


俺みたいなギルドに属していない無名の個人では大会に参加する事は無理だとアナスタシアが言っていた。

ここは、アナスタシアの依頼に乗ればお互いWin-Winで居られる筈だ。勿論、俺の真の目的をアナスタシアへ言う事は無い。彼女は俺に借りを作ったと思わせた方がいい。これもビジネスだからな。


剣術大会の事もあるが、先ずは数字爺さんに会いに行くか。


「マザー、俺はギルド出禁だから俺の代わりにアナスタシアへ伝えて欲しい事がある」



アナスタシアから正式に依頼を受けた俺とマザーは、依頼主へ会いに行く事にした。

依頼主の家はこじんまりとした家だったが、場所は一等地にあり、相当な資産家だと思われた。


「エメス!」


見ると顔を隠した女が門の前に立っていた。


「お前、まさかアナスタ」


「シッ! 名前は言わないで! 今日は私も同行する事に決めたの。でも、私の素性は依頼主にも明かさないで!」


あー、ややこしい事になったぞ。


家の扉をノックすると、依頼主が出迎えてくれた。

一見何て事はない普通の老人だ。


「85 13 25 35 85 12 43 44 23 41 04 44 23 41 04 31 12」


「?」


何を言っているのかさっぱり分からない。戸惑っている俺達に、身振り手振りで中へ入れと伝えてきてやっと理解する事が出来た。


応接間へ通されると、素人目でも分かる骨董が綺麗に置かれていた。


「マザー、あっいや、ラフシールはどう思う?」


『分析します…… あっ、えっと……数字の法則が分かればもしかしたら分かるかなー、何て思いますです、はい……』


さすがマザー。日本語は最後おかしくなっていたけど、アナスタシアの前だから空気を読んだな。


「確かに何か数字の規則性がありそうだな……」


すると、マザーが耳打ちをしてきた。


『エメス様……実はもう解読出来てしまいました。ただ、アナスタシアさんはエメス様に解決して欲しそうだったので……エメス様も根気良く聞いたら解読出来ると思います』


「そうか……ご主人。申し訳ないが何か喋ってくれますか?」


「41 04 94 44 04 75 12 12 41 33 24 44 23 94」


何て言っているかは分からないが……ん? これって... 昔流行った……まさかと思うが... 俺はペンと紙を借りて老人が喋った言葉を思い出し紙に書いた。


やっぱりそうだ。 俺はある数字を紙に書いて見えないように裏返しにして置いた。 


「何か分かりそうか?」

アナスタシアが期待を込めて聞いてきた。


「まだ分からないけどな。ご主人、”ありがとう”と言ってくれますか?」


「11 92 21 04 45 13」


主人の数字を聞いた後に皆に見えるように裏返していた紙を表に戻した。


”11 92 21 04 45 13”


ビンゴ! 俺の予想通りだ。


「凄いじゃないか! さすが私が見込んだ男だ!」

アナスタシアが俺に抱きついて喜んできた。それをニッコリと見ているマザー。逆にその笑顔が怖い。


「おほんっ、えーと、説明しづらいんだけど、日本語の”数字暗号”っていってな……」


「日本語?」


アナスタシアが首を傾げる。

これ以上説明しても無理だと想い、俺は数字の羅列と五十音表を書いて説明をした。


「つまり、”あ”だったら"11"って言うことで...」


うんうんと頷くアナスタシア。理解したと見て説明を続ける。


「……と言うわけだ、理解したか?」

「う……うん、勿論!」


アナスタシアはひきつった顔で頷いた。

あーこれは絶対に理解していない顔だと直感で感じた。


「さぁ、解読したぞ! 呪いよ解けよ!」


シーン……


「あれ?」


解読したけど一体どうやって呪いを解くんだ?

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