第39話 意地
ミアの一件を解決後、アナスタシアから少しずつ仕事を斡旋してもらっていた。
アナスタシアから仕事の依頼があると指定の酒場、指定の席、時間指定が書かれたメモが泊まっている宿の扉の隙間から投函される流れだった。
ーー指定の酒場
俺とアナスタシアは酒場の一番奥の目立たないカウンターの席で隣り合って座っていた。
「で、今回の厄介ごとの依頼は何?」
嫌味を込めてアナスタシアに聞く。いや、本当に厄介ごとの仕事を毎回毎回、押し付けられるんだ。
「そんな事言わないで。これでも厳選して仕事を斡旋してるのよ? 厳選しなかったら、世界一臭い魔物を捕らえて欲しいとか結構エグい依頼があるけどやる? 身体に臭いが付いたら半年間は臭いが落とせないから、誰も近づけないっていう特典付きよ」
ポーカーフェイスでサラッと言ってくるのがアナスタシアの怖い所だ。
「今回の依頼を教えるわね。依頼者はシャールベ卿、資産家よ。彼は10年前から数字しか喋られなくなってしまったらしいの。原因不明、治療が出来るなら方法を見つけて欲しい、そう言う依頼よ」
「数字しか言えない? 呪いか何かじゃないのか? 基本、俺は何でも受けると言ったが、さすがにこれは専門外だから他をあたってくれ」
ジョッキに入った酒を一気に飲み干し、カウンターに自分の分の代金を置いて帰ろうとした。
「話は最後まで聞いてくれるかしら?」
アナスタシアは大きくため息をついた後、神官からギルド会員である上級魔法使いの人間を過去に送り込んだそうだ。結果、解決に至らなかったと今までの経緯を語っていた。すると、嫌な事を思い出したのかイライラし始め、酒を立て続けに二杯、三杯飲み干した。
酔いが回ったのか今度はギルド運営の愚痴を繰り返し聞かされウンザリしていた所だった。
「エメスなら解決出来ると思ったから呼んだのよ? 私の期待に応えて欲しいな」
アナスタシアは上目遣いで顔を近づけてきた。目がトロントしている。胸の谷間を見せつける服装で、俺を誘っていると勘違いするくらいだ。
うっわ……こいつよく見たらメッチャ美人じゃないか。
しかし、ここで俺が怯んだらアナスタシアは俺を下に見てくるだろう。そう思い顔を背けずに見続けた。
チュッ
「お、お前、普通寸止めするだろう!」
「エメスこそ、そこは貴方が顔を背けて私がハハハって笑って終わるのが定石でしょう!」
「ハ〜〜〜」
お互い頭を抱えて溜息を吐く。
「エメスの唇、ザラザラして乾燥しすぎじゃない? 普通、柔らかい感触のはずでしょ?」
アナスタシアが目を合わせずに聞いてきた。
そりゃそうだ。俺の口はほぼ石の材質で覆われているんだから。なんか申し訳ない気分になった。
「キスした感想を細かく言うなよな。そんなの人それぞれだろ? とにかくこれは不慮の事故だからな!」
するとアナスタシアはフッと、寂しげな表情を浮かべてポツリと呟いた。
「……そんなに嫌がられなくても……私は別に嫌じゃないのに……結構ショックだな」
「うっ……」
アナスタシアの見た事がない一面に思わず言葉を失った。
「……勝った」
アナスタシアがニッコリと微笑んだ。
「へ?」
「やったね! エメスが怯んだ! 私の勝ちね! うっ……気持ち悪い……吐きそう」
アナスタシアはそう言い残すとトイレに駆け込んでいった。
彼女の後ろ姿を見ながら「子供かよ」と思わず呟いてしまった。
結局、いつまで待ってもトイレから出てこないから行ってみるとトイレの扉にもたれ掛かって寝ているアナスタシアを発見した。
「ったく、無防備すぎるだろ」
寝ているアナスタシアを抱えて家の居所を聞くがムニャムニャ言って何を言っているのかさっぱり分からない。
仕方なく、泊まっている宿屋へ運ぶ。途中、受付の親父が「美女をお持ち帰りかい? 頑張れよ!」って親指立てて言ってくるから変に意識をしてしまった。
ギルド当主のアナスタシアとバレてないから良いけど、知られたら後々面倒なことになるぞ、そう思いながら部屋へ運んだ。
ガチャ
「ただいま」
『エメス様お帰り……アナスタシアさん?』
マザーは俺がアナスタシアを連れてきているのを見ると一瞬驚いた顔をしたが、彼女が酔ってい寝ている様子を見るとささっとベットを綺麗にした。
「サンキュー、よしっと。マザー、チャットタイムだ」
アナスタシアをベッドへ寝かせると、マザーにアナスタシアからの依頼内容をチャットで確認する。
『お答えします。依頼者は呪術の類いにかかっている可能性が一番高いと思われます。直接面会して傾向を確認するのが早いと思います。呪いを解く解決策が見つかるかもしれません』
そうだな……取り敢えず依頼者に会って話を聞いてみるか。
「マザー、一緒に行かないか?」
『はい! 喜んで!』
アナスタシアは気持ち良さそうに寝ているから明日にでも伝えてやるかな。
「マザー、悪いけどアナスタシアの横で寝てくれ。俺は端っこの床で寝るから」
部屋の灯りを消すと、直ぐにマザーの寝息が聞こえてきた。無理して俺の帰りを待っているから疲れているのかもしれない。あまり無理をさせない様にしないと。ラフシールの身体なんだから……あー、いい感じで眠れそうだ……
グイッ ガシッ
強い力で身体ごと引き寄せられる感覚がして目が覚める。
「な……何だ? って……お」
絶句した。
顔を横に向けるとアナスタシアが俺を抱き枕の代わりにしてガッツリと抱きついて寝ていた。
な、何でコイツがここに居るんだよ!
身体を動かしたくても動かせない。すると、耳元でアナスタシアが囁いてきた。
「エメスの身体って、カチコチに固いのね。あっちの方も硬いのかな?」
「おい……ふざけるのも」
「今動いたら、私、喘ぎ声を出すからね? ラフシールは私達を見てどう思うかしら?」
「お前……俺を脅して」
「お願い……私のお願いを聞いて」
ラフシールは小声で語り始めた。半年後にダミナーイグで剣術の大会があり、主催者側からアナスタシアへ大会を盛り上げる一環として強い剣士達を参加させて欲しいと依頼があったそうだ。
アナスタシアは了承して、選定したギルド会員の剣士を五人送り込んで優勝を狙っているとの事。ギルドの宣伝にもなると考えて軽い気持ちで受けた。
しかし、蓋を開けてみれば参加者は強豪揃い。名だたる剣士が参加を表明していた。それだけならまだしも、神から称号を得た勇者五神の一人、勇神の兵隊長ファクが参加表明してるらしい。
「人数合わせの噛ませ犬にさせられたの。今更断る事も出来ない。これじゃあ、ギルドの恥だけが残ってしまうの。だから、エメスの力を貸し」
「断る!」
「そう言うと思ったよ。でも私も今回は引けないの。貴方が力を貸してくれるな私の身体を好きにしてくれても構わないから」
アナスタシアはそう言うと、突然服を脱ぎ俺の服も脱がせてきた。
?!
「エメス、貴方の身体……石?」
言い訳できなかった。アナスタシアにまで俺の身体の秘密がバレてしまった。
さて、この状況をどうやって乗り越えようか。
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