第49話 観戦

「ハァ……」


厄介な奴に関わってしまった。メイプルには暫く大人しく行動しておけと念を押しておいたが……どうせ聞かないだろうな。

それに俺の能力についても嗅ぎ回ってきそうだしな。


売店で買ったポップコーンを両手に持って観覧席へと戻る。


『あっ、エメス様。何処へ行ってたのですか? 先ほど、第四試合が終了したところですよ!』


興奮した声でマザーが状況を教えてくれる。

と言う事は次はファクの試合か。

マザーへポップコーンを一つ渡して先に座る。


『ボリボリ……おっ、美味しいです。この食べ物はなんですか?』


「ポップコーンじゃないのか? それを期待してボリボリ……おっ、美味いな!」


『ボリボリ……エメス様、次は勇神隊隊長のファクとキルトの対戦です。どちらが勝つと思いますか?』


「ボリボリ……十中八九、ファクの野郎が勝つだろうな。ボリボリ……いや、勝ってもらわなきゃ困る!」


『エメス様?』


「あっ、いや、アイツが勝つ方に掛けててな、負けると困るなーってな」


いかんいかん。ファクの件はマザーに内緒にしてるんだった。ファクの事になるとつい感情的になってしまう。


以下、俺とマザーの観戦をご覧ください


『あーん、惜しい!』


「……」


『そこそこ、早くイッテ!』


「……」


『あーん、そんなのじゃ駄目! もっと早く突かないと!』


「……」


『もっと、もっと腰を動かして!』


「マザー、あのさ! もう少し静かに……」


『あっ! ごめんなさい。つい、興奮してしまって』


いや、俺も違う意味で興奮してしまうんだ。


結局、予想通りファクはキルトを倒して初戦を突破した。実力かどうかは微妙だが。


「さて……俺も試合の準備に行くか」


『オムライス様、頑張って下さいね!』

マザーは俺の手を両手で握り、うるうるとした目で励ましてきた。


「ああ、頑張るよ」


周りの観客から嫉妬の視線を痛いほど浴びながら俺は席を離れた。

参加選手は個室の控え室があるが、マザーが入れない為、あえて関係者席で見ていたと言う訳だ。


控え室付近には試合を終えた者、控えている者がチラホラ見える。


「あっ、オムライス選手ですね?」


突然、メガネの男に声を掛けられるが……はて、何処かで会った事あったかな?


「えーと……どちら様でしたっけ?」


「あっ、私、ソードと言います。オムライス選手と一緒で、予選の予選を通過して本選出場まで決まったので親近感が沸いたので声を掛けさてもらいました。お互い良い結果が出る様に頑張りましょう!」


メガネを人差し指でクイッと上げると、手を差し出してきた。


「あっ……どうも」


ソードと握手した後、適当な会話をして控え室に入った。


控え室には試合の映像が50インチの液晶画面の様に映し出されている。勿論この世界にはテレビなんて物は無い。


では、どういう原理で映し出しているのかアナスタシアから聞いた話によると、魔神の部隊に属する者達が魔法を使って闘技場の様子を映し出しているとの事だった。


関心よりも、警戒心がより一層強まった。

それだけのレベルの魔法を使う奴らが少なくともあちら側には居るということだ。


それに、少なくともこの闘技場には二つの部隊が居ることになる。極力目立たない様にしないとな。


映し出された映像は、第七試合が映し出されていた。


第七試合は確かあのエロ爺のスアルーホの試合か。念のため、次の対戦相手になるであろう試合を見る。


対戦相手のペネットはスアルーホとは真逆で若く負けん気の強い性格の様だ。

素早い剣捌きでスアルーホを舞台の端まで追い詰めていた。


このままの勢いで場外へ落とすかと思った瞬間、ドンッ! と音がしたと同時にペネットへ前のめりに崩れ落ちると、そのまま起き上がる事は無かった。


映像はペネットの背中方向から映し出されていたのでどの様に攻撃したのかよく分からず仕舞いだった。


「オムライス選手、準備をお願いします!」


スタッフから俺に声が掛かる。


控え室から闘技場へ出ると観客席から割れんばかりの歓声が鳴り響く。


舞台まで歩く間、闘技場を見渡す。


おー、凄ぇー。こんな多くの観客に見られて試合をするのか?

少し緊張してきたぞ。


反対からボインスコが登壇してきた。


「まさかオムライスが初戦の相手だなんてね? 私が勝っても恨ないでよ?」


「お互いにな?」


「第八試合、始め!!」


審判の合図でお互い剣を抜いた。


ボインスコがどういう剣士なのか俺は全く知らない。あの時、メイプルが見せてくれた情報を見ておけば良かったかな?


ボインスコの剣は真っ直ぐではなく、蛇の様に剣先が唸っていた。

あんな剣で人を斬れるのか?


ボインスコが素早く剣で突いてくると剣先が唸る、まさに蛇の様に動いて受け止めようとした俺の剣をすり抜けると肩へヒットした。


衝撃が俺の肩から身体全身へ駆け巡る。

成程、これが本戦出場者のレベルか……


ボインスコの追撃で右足、左手など全身にヒットさせられて、鎧がボロボロになっていく。


何処にでも売っている鎧だからな。防御というより姿を隠すのが目的だし。

これ以上攻撃を受けると鎧が破壊されて正体がバレてしまうのはマズイ。


頃合いだな……


「ああ〜っと、防戦一方の試合になってしまった! オムライス選手、絶対絶命のピンチでーす!」


「悪いわねオムライス? これで終わりよ!」


ボインスコが剣を再び突いてくる。


「スローモーションモード&再生速度x10」


≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒

ゆっくりと唸って動く剣先を剣で弾き、剣の柄でボインコスの鳩尾を叩いた

≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒


ドスッ!!


「おおっと! 両者交錯した! え?、 ボインスコ選手がそのまま後ろに倒れました!」


そして、審判がテンカウントしてもボインスコは立ち上がらず、俺の勝利となった。


計八試合の勝者が決定した。


第一試合

グロッグ


第二試合

ナーゼル


第三試合

コラメン


第四試合

ソード


第五試合

ファク


第六試合

ガラパゴ


第七試合

スアルーホ


第八試合

オムライス


そして、ベスト4を賭けた試合が始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る