第48話 本選

◆剣術大会決勝戦◆


ザクッ!!


「オムライス選手ダウン! カウントをとります! 1……2……3……4……5」


大の字になって空を見つめる。雲がゆっくりと動いているのが見える。空をじっくりと見つめたなのなんていつぶりだろうか?


風が心地良い……


目的は達成できた……


全てが上手くいった……全てが……


「……10! あー、オムライス選手立てませんでした! よって、勝者……※※※※!」




時間は本選開始直後に遡る。


「グロッグ、オムライス、2人とも良くここまで頑張ってくれた。無理はしないで良い。十分に私達のギルドの名誉を保ってくれた」


アナスタシアが試合前に俺達2人を呼んで激励をする。


「アナスタシアさん、まだまだこれからです。オムライスの言葉に目が覚めました。ここまで来たのだから優勝を目指しますよ!……して、オムライスの隣に居るその……御婦人は?」


グロッグが俺の横にくっ付いているマザーを見て遠慮がちに聞いてきた。


『私はラフシールと申します。オムライス様とは……一生添い遂げると誓い合った大事な方です』


マザーがニッコリとグロッグの質問に答えていた。俺は、マザーへ隠し事をしていた背徳感からマザーの言いたい事を黙って聞いていた。


「……だそうだ。それに、貴方の弟分であるペゴンタを治癒して一命を取り止める事が出来たのは彼女のお陰よ?」


アナスタシアは苛々を抑えながら感情的にならずにグロッグへ真実を伝えると、グロッグは深々と頭を下げてマザーへお礼をしていた。


「本選出場の皆様、事前にくじを引いて頂いた番号からトーナメント表が決定しましたので発表いたしまーす!」


猫耳の司会者がマイクでアナウンスをする。


第一試合

グロッグ vs ボーザン


第二試合

クリップ vs ナーゼル


第三試合

フント vs コラメン


第四試合

ソード vs シャッタ


第五試合

ファク vs キクマ


第六試合

マハーニャ vs ガラパゴ


第七試合

スアルーホ vs ペネット


第八試合

オムライス vs ボインスコ



俺の初戦は昨夜に酒場であった爆乳の姉ちゃんか……勝ち進めば俺は3回目でファクと戦う事ができる。俺もそうだが、アイツも勝ち進まないと意味がないが……


「それでは第一試合さま始めますので、グロッグ選手とボーザン選手は闘技場へ上がって下さい」


猫耳の司会者が闘技場の真ん中でマイクを使って叫ぶと、観客のテンションはマックスになり大きな感性が上がった。


「オムライス、決勝で会おう」


ポンッと俺の肩を叩くと、グロッグは闘技場へ上がっていった。


一々言う事がかっこいいなあのおっさんは。

そう思いながら俺はグロッグを見届けた。


試合が始まるとグロッグは経験者だけあって剣術の腕前は中々のもので、対戦相手のボーザンを終始圧倒し、蓋を開けてみればグロッグの完勝だった。


いつの間にか応援に駆けつけたピエールとシャナズがグロッグに声を掛けている。


『グロッグさんが勝って良かったですね』

一緒に関係者席で観戦していたマザーが俺に声を掛けてきた。


「そうだな。さてと……俺の試合まで大分時間があるな……俺はちょっと散歩してくるけどマザーはどうする?」


『あの……出来れば』


「ハハッ、俺に遠慮なんてしなくていいぞ?  楽しんでな」


格闘技が好きな女子は一定数いるが、まさかマザーもその中に入るとはな。


関係者席を離れて、闘技場の中を散策する事にした。売店とか有ると聞いたし、ポップコーンみたいな物が有れば食べながら観戦も出来るしな。※映画じゃないんだからというツッコミは無しだ。


売店へ向かっていたつもりが人気の無い廊下に出てしまった。間違えたな、そう思いながら引き返そうとした時、廊下の奥の方で声が聞こえてきた。


あまり盗み聞は良く無いが念の為、俺は見られない様に壁に背を付けた。


アプリ マイクモード


「貴様! 何をコソコソと嗅ぎ回っているんだ!」


「別に何も嗅ぎ回って無いですよー、たまたま、ここを通ったらー、貴方達がー居たんですよー、何かー、後ろめたい事でもしてたんですかー?」


この特徴的な喋り方は新聞記者のメイプルじゃないか?

どうせ、新聞記事の為にコソコソと嗅ぎ回って、その相手にバレて締め上げられているんだろう?

自業自得だ、これに懲りて無茶はしない事だな。

そう思いながら引き返そうとした時、


「貴様! 何処まで見ていた! 言わなければ ここで斬るぞ!」


おいおい、声色から本気だぞ! さっさと謝ってしまえ!


「何処までってー、対戦相手のキクマ選手にー、色々と話しを持ち掛けていた所までですかねー? あっ、まさか、見られちゃまずかったですかー? 不正を持ちかけていたとかー?」


「貴様! このファクを脅すつもりか? 私を脅す事は、神への脅しと同罪だぞ。評価を下げてやる。名前を言え。拒否は問答無用で愚者ランクだ。待てよ……」


スリスリスリ……


この音は鞘から剣抜く音。

まさか、ファクの奴!


「賊に襲われたから殺したと言えばスッキリするな!」


ブンッ!



スーパースローモーション&再生速度x14


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2人の姿を見るとまさにファクの剣先がメイプルの頭上寸前まで振り落とされていた。


俺はメイプルを抱えて、その場から離れ、周りに人が居ないエリアまで一気に走る。


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「あれ? どうして私はここに?」


メイプルは訳が分からずキョロキョロしている。

俺はこれ以上メイプルと関わりたく無い為、隠れてその場から離れようとした。


「まぁいいかー! ファクの不正問題の裏が取れたしー、直ぐに記事にしなくちゃ! バズるぞー!」


こ、こいつ……軽すぎる。記事なんかにしたらファクどころか、兵隊達に命狙われかねないぞ。


「お前な! 自分の命よりでかいネタを記事にしてバズらせる方が大事なのかよ! 何考えてんだ!」


メイプルは俺の姿を見るなりチョコチョコと近づいて来た。


「あれー? オムライスさんじゃないですかー? もしかしてー、一瞬で私が此処に移動したのってオムライスさんの能力だったりしてー? この事記事にしたらー、バズるかもー?」


こ、こいつ……鋭い。


「まー、ここはー、お互いwin-winの関係でー、いきませんかー?」


メイプルは首を少し傾げて悪魔の笑顔で言ってきた。

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