第47話 前夜
ったくあのエロ爺ぃ……
マザーを抱き抱えて宿に着いた時は大変だった。
宿に到着するや否や見知らぬ爺が俺達を見ると何処でその上玉の女を拾ったのかとそりゃあもうしつこく聞いてきて大変だったんだ。
しまいには俺が呼んだ娼婦と交換しろだの。
娼婦じゃないと言うとじゃあお前達2人はどんな関係だと……あの性豪のクソ爺め。
どっと疲れてしまった。
マザーは強がってはいたがベットへ横に寝させると直ぐに寝息が聞こえてきた。
無理をさせてしまったみたいだ。
「無理をさせてごめんな」
俺は寝ているマザーに布団を掛けながら一言言うと、この宿に隣接している酒場に直行していた。
「ちょっとちょっと! お客さん! 顔まで覆った鎧を着たまま入店されるのは困りますよ!」
2人のウェイターが店の中へ入れまいと身体を張って入店を止めてきた。
「え? そうなの?」
困ったことになった。ここで鎧を脱いで素顔を晒すわけにもいかないしどうしたものか……
「ウェイターさん、その人なら大丈夫よ? だって明日開催される本選出場者のオムライスさんなんだから」
すると、知らない女が奥のカウンター席から俺の事を説明してくれている。
しかし、俺はその女が誰か分からない。
「こ、これは大変失礼しました! オムライス選手ですね? 存じてます。どうぞお入りください」
店の中へ入るとさっきの女がニッコリと笑って奥のカウンターの席から手招きをしている。
ハァ…… 何でこう次から次へと。女難の相でもあるんじゃないのか?
とは言え、店に入れたのはあっちで手招きをしている女のお陰。
仕方なく女の隣の席に座る。
「さっきは助かったよ。礼を言う」
「あら、良いのよ? 所で私の事はご存知かしら?」
一応考えたフリをする。当然何も分からないから無言で首を傾げる。
「ショックーー! 結構自分は有名人だと自負してたんだけど」
褐色の肌をしたその女の身体つきは細く、しなやかで、筋肉も程よく締まった身体をしていた。そして何より胸が……デカい。
「まさかアンタも明日の本選に出場する選手か?」
「ご名答♡ 私は、まったく無名の貴方が本選出場するからどんな剣士かって興味があったの」
「なるほどね。だったらガッカリしただろう? 何も特徴もない只のモブ剣士だからな」
すると、離れた席で飲んでいた男が近付いて来ると、俺の肩に肘を乗せて来た。
「兄ちゃん、この女には気を付けた方がいいぜ? モテない男を見つけては骨抜きにして不戦勝を狙ってるんだからな? なぁ、ボイスコちゃん?」
男は酒のジョッキを片手に会話に割ってくるとボイスンコをからかった。
「その名前で私を呼ぶな! アボットだって敵情視察で此処にいるのでしょう!」
ボインスコと言われている女は絡んできた男と口論を始めた。会話の内容から絡んできたアボットという男も明日の出場者みたいだ。
俺はその隙に、違う席へと移動する。
俺は静かに酒を飲みたいだけなんだが。
違う席へ座ろうと店の中を探していると、宿で絡んで来た爺が奥のソファでどっかりと座り、3人の派手なオネェちゃんとガバガバ笑いながら酒を飲んでいた。
「さぁ、俺の部屋へ一緒に来るんじゃ。ヒィヒィ言わせてやるからな!」
両隣の女の胸を揉み揉みしながら自信満々に喋る爺。4人で席を立つと店の出口へと向かっていった。
この爺、一体何者だ?
「やーん、スアルーホ様。そんなに激しくしないでー♡」
スアルーホだと? 確か新聞で見た限り優勝候補の1人だった様な……
まぁ、うるさい爺も居なくなり、暫くは誰にも邪魔されずに酒が飲む事ができて余韻に浸っていると……
すると、1人の若い女が近付いてきた。
「オムライスさんですよねー? ちょっといいですかー? 私、こう言う者なんですけどー」
そう言うと、名刺をテーブルの上にスッと出してきた。
ダミナーイグ新聞社
メイプル
メイプル? 何処かで…… あー、思い出したぞ。
「あの新聞記者か?」
「えっ? 嘘! 私の事ご存知なんですかー? オムライスさんに知って貰えてるなんてー、光栄ですー」
わざとらしく口に手をあてて喜ぶそぶりをしている。
「何処にでもいる普通の剣士。鎧も普通、戦績無し。咬ませ犬。何故出場しようと思ったのか意味不明。ご愁傷様……だったか?」
「ゲッ……その記事読んでたのね……それも一字一句合ってるし。いやー、面白い記事を書こうとしただけでー、決して本心で書いたわけでは無いんですよー?」
メイプルは両手をバタつかせて必死に言い訳をしていた。
「……」
俺はメイプルの返答を無視して酒を飲み続けた。限られた時間は有効に使わないとな。
そうするとメイプルは俺のご機嫌取りをしてきた。
「オムライスさーん、お詫びと言ってはなんなんですがー、私が調べた限りの本選出場者の情報でーす」
所々、語尾を伸ばす口調に苛つきはしたものの、テーブルの上に置かれた出場者一覧表に目を奪われた……違う意味で。
オムライス
運だけの男。予選にて優勝候補のチョボコール選手が油断して自滅。彼の人生の全ての運をこの試合に使ってしまったと思うと、後の彼の人生の事を思うと同情する。
本選はそうはいかない。今度こそ間違いなく初戦敗退。さようなら。
「へー、俺は運だけの男なんだなー」
「ウゲッ! こっ、これは! 何と言うか……こう書いた方がバズるかなーなんてー、思ったんですよー? てへへ」
メイプルは机の上に置かれた紙をぐちゃぐちゃにしてゴミ箱へ捨て、愛想笑いをしてきた。図太い神経をしている言うか。
「まー、否定はしないけどな。アンタの言う通り、今の所、運だけで勝ててるのは確かだし」
「えー、そうなんですかー? 明日の朝刊の記事にするのでー、オムライス選手の意気込みを教えてもらって良いですかー?」
否定をしない俺が意外だった様でメイプルは即座に反応した。
「そうだな…… 首を洗って待っていろ……かな?」
「それってー、誰か特定の人に対してですよねー? 誰なのか教えて貰えないですかー?」
メイプルは手帳にスラスラと俺の言動をメモしながら鋭い質問を俺にしてきた。
「内緒。もういいだろう?……俺は部屋へ戻る」
席を立ち出口へ戻る途中、メイプルが言葉を投げかけてきた。
「部屋に美女を連れ込んでますもんねー! これからお楽しみですかー? お相手はどんなー方なんですかー? 彼女で……」
「あの娘の詮索はしないでくれるか? ていうか、関わるな。じゃあな」
俺は立ち止まって振り返らずにメイプルへ警告して店を出た。
部屋へ戻ると、マザーは気持ちよさそうにスヤスヤとベットで寝ている。
俺も寝よう……
そして、剣術大会当日の朝を迎えた。
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