第51話 演出

「ハハハハハ!!」


会場は観客の爆笑の渦に包まれた。

笑いの対象はあの勇神隊隊長のファクだ。


ファクは下半身丸出しで尻を大衆に晒し、上半身だけ場外に出て倒れていた。


俺とファクとの試合、最初はファクへ提言した通りの試合運びを演出してやった。

そして、「うぉぉぉ」の合図からの三撃目に頭から突っ込むと奴は大きく剣を振り上げた。


そこを俺は好きだらけの奴の下半身のズボンのベルトを外してズボンを下ろし、後ろから蹴飛ばして場外へ出したというわけだ。

その行動を超スピードでやれば観客も審判も誰も気付くわけがなかった。


俺が大衆の面前で殺すわけないだろう?

だが違う意味で奴を殺したという表現は合っているかもしれない。


奴は去り際に殺意丸出しで「覚えておけ」と捨て台詞を俺に吐いていった。


覚えておけだと? こっちは何度も何度もお前の事を忘れようと思ったよ。でもな、あの時の事を忘れかけた時に悪夢として蘇ってくる……その度にお前への殺意が湯水の様に流れ溢れ出る。


ファクとの試合後、俺は決勝戦などもうどうでもよくなっていた……



ザクッ!!


「オムライス選手ダウン! カウントをとります! 1……2……3……4……5」


大の字になって空を見つめる。雲がゆっくりと動いているのが見える。空をじっくりと見つめたなのなんていつぶりだろうか?


風が心地良い……


目的は達成できた……


全てが上手くいった……全てが……


「……10! あー、オムライス選手立てませんでした! よって、勝者……グロッグ!」


審判に手を掲げられるグロッグ。

大きな観客の歓声が彼へ浴びせられ、その歓声に応えるグロッグ。


そして、優勝者の商品としてルーシャから贈り物を直接手渡されていた。

準優勝者の俺も手渡される予定だったが、怪我をして出席出来ないという適当な理由をつけて欠席すると、グロッグが代わり受け取ってくれていた。


アナスタシアのギルド所属の剣士が優勝、準優勝したんだ。これ以上無い最高のシナリオだった。


そして、準優勝したオムライスという架空の剣士はこの大会の記録に残る。しかし、今日限りで永遠に姿を消す事になる。

ありがとなオムライス。お前という剣士、悪くなかったよ……



こうして剣術大会は終了した



俺とグロッグはペゴンタへ優勝、準優勝の報告へ行くと、自分の事の様に喜んでくれた。

オムライスという偽りの人物でギルドの奴らを騙している事に若干の罪の意識はあったがこればかりは仕方がなかった。


今夜は剣術大会主催者のパーティーが開催されるとの事で、グロッグ、オムライス、スアルーホ※の3位迄の選手が招待されていた。

※ファクが三位決定戦を棄権した為、スアルーホが繰り上げ、三位の座を勝ち取った。


出席者はルーシャ含めた王族、大臣、そして貴族と選別ランクで言えば上位者ばかりだと言う。


興味がないからと断ると、関係者の出席も許可するからどうしても出て欲しいと大会主催者であるマゼランというオッサンに懇願され、アナスタシアの顔も立ててマザーを伴って出席する事に決めた。


スアルーホなんてお気に入りの高級娼婦の娘を連れてく事に決めたなんて周りに言いふらしてるしな……ったくあのエロ爺。


しかし、出席の際は鎧、武器は全て外し、正装のタキシードを着用しなければならなかった。服装はいいが、素顔はどうしたものか……


「エメス様! これで大丈夫です! とてもお似合いですよ!」


俺の姿を見てマザーは満面の笑顔で答えた。


顔に大怪我をしたという演出で、顔中包帯でグルグル巻きにしたミイラ男が鏡の前にいた。

まぁ、これで良いか……


タキシードは仕立て屋に連れて行かれて採寸を図られた。

通常なら数日は掛かるが、短時間で見事なタキシードが完成していた。


マザーも同時進行で採寸を図られ、綺麗なドレスを着させられていた。


『エメス様……どうですか?』


遠慮がちに聞いてくるマザー。

言うまでも無い、パーティ会場に出たら男達の注目の的になるだろうな。


「とても綺麗だよ……ドレスが」


『もう! ひどいです!』


準備が出来た俺達は主催者が用意してくれた馬車へ乗り込みパーティ会場へ向かった。


会場へ近づくにつれて王族や貴族達が乗っているであろう煌びやかな馬車が会場へ向かっているのが見える。


いつの時代もそうだが、王族や貴族達の様な華やかで何不自由なく生きている奴らもいれば、愚者というだけで蔑まされ、日陰で生きていくしか選択肢がない奴らもいる。


『エメス様? どうしました』


ボーッと外を眺めている俺を見てマザーが心配そうに声を掛けてきた。


「いや……お腹すいたなーってな?」


適当な返答をしていると、馬車は目的地に着いたようだった。

外を見ると、綺麗に着飾った男女が手を繋ぎパーティ会場の入り口へ吸い込まれていく。


『エメス様……私、緊張してきました……外にはあんなに多くの殿方や綺麗な御婦人が居るので……」


俺は馬車の扉を開けて外へ出る。そして、マザーの方へ振り返って手の平を上に向けて差し出した。


「お手をどうぞ、ラフシール」


マザーの顔は真っ赤になりながら俺の手を取り馬車を降りる。


降りてきたマザーを見るなり周りの男達はマザーを見て目が釘付けになっていた。


整った顔に、吸い込まれる様な目の輝き、屈託のない笑顔の中にある何処かミステリアスな雰囲気。

それに加えて着飾ったドレスと装飾品。

ラフシールの美しさにマザーの純粋な心が調和し、異彩を放っていた。


あれ? 首につけているのは俺が露店で買ってあげた七色のネックレス……


俺の視線に気付いたマザーは俺にこう言った。


『着付けをしてくれた方にはコーディネートに合わないから外した方が良いと言われたんです。でも、私はこれが一番好きなんです』


「そうか」


手を繋ぎ会場へ入ろうとした時、見覚えのある馬車が止まっている事に気付く。

横目で確認し通り過ぎようとした時、獣が大人しく座って待っているのが見える。


「ヤバッ」


顔を背け、マザーの手を引っ張って会場へと足速で向かう。

アイツはガルードだ。という事はミアもこのパーティに招待されているのでは? あの娘は貴族だから十分に有り得る……



母親とその娘であろう二人が馬車から降りた。


「ミア……あのパーティ会場にエメスとラフシールが居るぞ。二人の匂いがした」


「えっ! エメスとお姉様がパーティ会場に? 一体どうして?」


「さぁな」


「ミア、行くわよ」

ミアの母親がミアへパーティ会場に入る様に促す。


えー! エメスが居るの? もうちょっと派手なドレスの方が良かったかな? 髪型もアップが良かったかな? あの時の事、お礼……ちゃんと伝える事が出来るかな?


ミアは小走りで会場へ向かった。


ドンッ


「あっ、ごめんなさい!」※

ミアが軽く頭を下げる。


「あー、気にしないでくださいねー?」

メイプルがニコッと笑うと、ミアはそれを確認し、走り去っていった。

※メイプルには声が聞こえてない


「さーて、バズるネタを探すぞー!!」


メイプルは片手を上げて気合いを入れると後に続いて会場へ入る。


各々が思惑を抱きパーティ会場へ集まっていた。

波乱のパーティの始まりである。


※※※※※※※


久しぶりの更新です。フォローしてる遅くなって読者様すみません。


モチベーション維持も兼ねて、応援をこめてフォロー評価貰えますと嬉しいです。


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