第27話 再燃
……ザクッ!
……ズシャ!
……ズシャ!
……ザクッ!
何の……音だ? 目を開けているはずなのに目の前が真っ暗でも何も見えない。
ザクッ! ズシャ! ズバッ!
何かを斬っている音? ボンヤリとだが、視界が徐々にクリアになっていく。誰かが周りで
「ハァ……ハァ……ハァ……キリがないわ」
女の声? この声は、聞き覚えがある。ルーシャ?
傷だらけの血まみれじゃないか? あれは魔物か? ルーシャは魔物を斬っているのか? 何で? どうして逃げない? 俺を置いて早くにげろ!
「エメス、石化してしまった貴方は……私の命に代えても……守るから……安心……して」
俺が石化したって?って元々石化してるんだけどな。
あれ? ここは神の神殿じゃない。見える限り森に囲まれた場所のようだ。木々の影から魔物が次から次へと飛び出してルーシャへ襲いかかる。
それをルーシャは斬り続けるが魔物は後を絶たない。
このままでは彼女が魔物に食い殺されるのは時間の問題だった。
クソッ! 俺さえ動ければ、うご……ん?
「動けるじゃねぇかよ!!」
石化の件は後にし、俺はルーシャを抱えるとx5再生モードで魔物の群から逃げた。ルーシャの傷を見ると思ったより重症だ。一刻も早く医者に見せないと。
ヨシッ! ここなら大丈夫だ。
あれっ? ここはさっきと同じ場所じゃないか。どういう事だ?
「エメ……ス、石化されたはずなのに……どうして……動けるの?」
「元々石化してても動けていたよ。あっ、いやっ、と、とにかくお前の怪我を治してからだ。今から、ルーシャの故郷スズイ王国へ連れて行ってやる」
「ありがとう、でもね……ここは迷いの森。ここに入ると……二度と外界へ……出れないと言われているの……私も何度も……何度もエメスを連れて……出ようとしたの……でも……ここに戻ってきてしまう」
俺を連れてだって? 石化して重くなった俺を?
!?
地面には何かを引きずった跡が無数に残っていた。これはルーシャが俺を引きずった跡か?
俺の為に?
ルーシャは息も絶え絶えで俺がどうしてここにいるのか教えてくれた。
そうか、あの野郎(神)が俺をここへ遺棄したのか。ルーシャは俺を魔物から守る為に……無茶な事をしやがって。
迷いの森だと? 面白れぇ……俺の能力とどっちが上か勝負してやろうじゃないか!
「アプリ ナビモード選択。スズイ王国への最短ルート検索」
サイタンルート ケンサクシマシタ ヤジルシニ シタガッテクダサイ
目の前に黄色い矢印が現れた。俺はルーシャを抱えて矢印に沿って走る。
→→←←↑↑←↓←→→↑↓→→←↑ ←↑
木と木の間を細かく曲がる毎に矢印の方向が変わっていく。本当に合っているのかさえ分からない。
「ハァ……ハァ……ハァ……エメス、ごめんね……私……もう駄目みたい……私を置いて……逃げて」
ルーシャの顔色がどんどん真っ青になっていくのが分かる。身体に力が入ってない。
「もう少しだから頑張れ! 俺の命に代えても助ける、だから絶対に諦めるな!」
「うん……分かった」
気付いたら俺達は森を抜け、平原をx20の再生速度でで走っていた。スピードが早いせいか、遠くに見えていた山があっという間に近づいてくる。
あれか? 矢印が山の頂上を指している。よく見ると高い壁に囲まれた城のような建物が見える。
目的地の距離まで後少し。もう少しだ……もう少しで着く。
ドン!ドン!ドン!
「開けてくれ! アンタ達の王女様を連れてきた! ひどい怪我なんだ、早く治療してやってくれ!」
固く閉ざされた大きな門扉を何度も何度も叩く。
俺の事を不審者だと思ったのか、剣、槍、盾を持った門番達が近くの詰所からワラワラと出てきたと思うと、俺の周りを取り囲んできた。
俺は門番達に事情を何度も話すが全く信用してないようだ。仕方なく抱えていたルーシャを地面へ寝かせた。
「これでも、信用しないのか? 早く助けてやってくれ!」
門番達は躊躇して動かない。その時。
「ルーシャ王女!」
声の方を見上げると、白長い顎髭を持った男が城壁の上から俺を見下ろしていた。そして、高い城壁の上から躊躇せず俺の前に飛び降りてきて、ルーシャを抱え上げた。
「ルーシャ様のお陰で、国民全員無事ですぞ! 城の周りを囲んでいた勇者の軍団は引き上げたみたいですじゃ。神への進言が上手くいったのですな? 国を飛び出して言った時は本当に心配しましたぞ。本当に無理をなされる。本当に…… こらっ馬鹿者! 何をボーッと見ているのじゃ! ルーシャ様が大怪我をされているのじゃ!早く、精霊様の元へ連れて行くんじゃ!」
門番達は慌ててこの男の指示に従いルーシャを丁重に抱えると、城の中へ連れて行ってしまった。
「爺さん、ルーシャを絶対に助けてくれよ! 助からなかったら俺は絶対に許さないからな!」
「石像? まさか愚者の石像か? そいつが動いて喋っておるだと? 長年生きているが初めてじゃわい。 今回の神の選別と言い、色々と嫌な予感がするわい。おい、愚者の石像よ! お前に言われなくても絶対に死なせたりせんわ! もうワシ達に関わるな。 あっちへ行け! 不幸が感染るわ!」
これだよ、この仕打ち。何も悪くないのに愚者と言うだけで見下され、信用されない。
「あーそうしてやるよ! あーあ、金目当てで王女さんを助けたのに、これじゃあ儲からねーよ。じゃあな!」
「二度とここに来るな!」
門番達や、城壁の上から見ていたエルフから塩のような粉袋を投げつけられながら俺は城から離れた。
それにしても…… ルーシャが言うには、神は俺に石化の呪いをかけた。しかし、俺は今こうして全く問題なく動ける。既に石化した身体だったから?
幾ら考えても答えは見つからないがそれしか答えは見出せなかった。
とにかく俺は運が良かった……
ん? ちょっと待てよ、この元身体の持ち主の剣士も神に石化されたって事では? まさか俺と同じ様に神に歯向かって……いや、まさかな…… ヘルモテへ帰ろう。
「マザーへ電話」
プルルルルルル プルルルルル
「はい」
「マザー、そっちは大丈夫だよな? 今からヘルモテへ帰るよ」
「分かりました」
プツッ ツー ツー ツー
ん? 何か怒ってないか? マザーにしては塩対応じゃないか。 いつもなら 「エメス様! 大丈夫ですか? お怪我は無いですか?」みたいな言い方だったはず。
マザーの人間臭さが増長していくのに驚く一方、少しばかりの不安を抱えながらヘルモテヘ向かった。
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