第8話 下心

ラフシールの状態を見守りたかったのだけど、

司祭と村の長老の呼び出しがあり、サイモン卿の屋敷から村の集会所へ連れ出されてしまった。


「皆さん! この村の救世主ゴレーム様が来ましたぞ!」


村の長老が掛け声をすると、集まっていた村人全員がひざまずいて頭を下げる。

全員が俺に対して頭を下げている。異様な光景だった。


「みんな、頭を上げてくれ。俺はそんな事されても全然気分は良くならない。頭を下げる必要は無いよ」

勘弁してくれ。カルトの教祖じゃないんだから。


「ゴレーム様 万歳!!」

長老が立ち上がって両手を上げる。


「ゴレーム様 万歳!!」

他の村人も一斉に立ち上がり両手を上げた。


「はっ ははは……一体何なんだこの村は」


「ささっゴレーム様。お祝い事でございます。食事も酒も女も、ご自由にしてください。ご所望しょもうはありますか?」


大袈裟おおげさだな。俺はお礼だけ言ってくれたらそれで十分だよ」


「村の皆よ!ゴレーム様はお礼だけで十分だと申しておる。何と謙虚な方なんだ!ワシは感動したぞ! 今日は祭りじゃ!!」


「おおーーーー!!」


湧き上がる村人達は、勝手に盛り上がると、女達が料理を運び始め、男達は酒を片手に騒ぎ始めた。


「ゴレーム様、お酒をどうぞ! 俺っちの事宜しくお願いします」

村人の一人に強引に酒の入ったグラスを渡される。俺は酒はあまり好きじゃ無いんだが……付き合いだから仕方ない一杯だけ。


グビグビグビ


こっ、これは! 美味い! 美味いぞ! こんな美味しい酒があるなんて。

一杯どころか二杯、三杯と立て続けに飲む。


「ゴレーム様、料理は如何ですか? どうか、私の事宜しくお願いします」


「勿論頂こうじゃないか! どんどん持ってきてくれ!」

酒で気分が良くなって気が大きくなっていた。それに、この身体なら幾らでも飲めそうだ。


「どうですかゴレーム様? 我々の宴は喜んで頂けましたかな?」


司祭が手を擦り寄せて近づいてきた。俺を処分しようとした男。それに魔物から真っ先に逃げ出した卑怯者じゃないか? 適当に流しておくか。


「ああ、それなりに楽しんでるよ」


「それはそれは良かったです。所で、ゴレーム様は…… やはり、あちら側の方なのですか?」


「あちら側? 何の事を言ってるんだ?」


「い、いえ! 知らなければ良いのです!」

そういうと、司祭はそそくさと消えていった。何なんだあいつは?


休み無く老若男女の村人が酒や料理を俺の所に持って来る。そして、村の長老が最後にやってきて口を開いた。


「ゴレーム様。我々の願いを聞いてくれませんか?」

ほーら来た。裏があるのは分かっていた。


「願いとはなんだ?」


「単刀直入に言います。この村にとどまって欲しいのです。そして……」


「魔物から守って欲しい? という事だろう?」


「それもありますが、どうか我々村の人間の事を宜しくお願いします」


宜しくお願いしますって、一体何の事だ? まぁいいや。


「ラフシールの容態も気になるから暫くはここにいようと思う。それにしても、魔物はそんなに頻繁に襲ってくるのか? よく今まで村が存続していたな?」


「村の外れで村民が襲われる事はありました。しかし、村の中心まで入って来て村人を襲うような事は今までありませんでした。あの魔物も、縄張りにさえこちらから入らなければ襲うまでは無かったのです。何故、村を襲って来たのか我々も分からないのです」


今回が初めてだって言うのか?


「ゴレーム様。村にいらっしゃる間はサイモン卿の屋敷へ泊まるのですか?」


「そうするつもりだよ」


「今晩は部屋を用意しておりますのでどうぞそちらで。その前に村の自慢の温泉へ入られたらどうですか?」


「温泉? 是非!」


長老の下心ありそうな顔が気になったが二つ返事で行くことにした。村の中心から徒歩五分の好立地に日本風の門構えをした建物があり、門の前に女将と思わしき綺麗な女が立っていた。


「ゴレーム様、お待ちしておりました。女将おかみのセルフィと申します。どうぞこちらへ」

人が通れる小さい門が開かれて中へ通されると、目の前に脱衣所があった。脱衣所の向こう側から湯気が立ち上っていた。


「脱衣所で服を脱いで下さい。着替えは既に置いております。反対側の扉を開けると温泉があります。どうぞごゆっくり」

頭を下げると女将は何処かへ消えていった。


しかし…… この服脱がせにくいな。

服は退色し、砂、埃まみれになっていた。無理に脱がすと簡単に破れそうだった。


「あっ!」

ベリベリ バリバリ ベリベリ


時すでに遅し。服はビリビリになって床へ落ちた。


「うぉっ!何じゃこりゃ!」


思わず声が出る。服の下から彫刻でも彫ったかのようなバキバキの腹筋が現れた。更にその下は……まぁいい。


ガラッ


扉を開けると湯気が立ち込めた温泉が見える。想像以上に広い。長老が自慢の温泉というだけの事はあった。


俺は水面に映る自分の姿を初めて見た。


「うわっ! ごっつ! めっちゃっ ごっつ! それに汚なっ! 気持ちわる! 誰だよあんた? 」


水面に写ったのは髪がボサボサで、口から顎にかけて髭を蓄えた(サンタクロースの様な)引き締まった身体をした石像だった。

目と口だけ生身の人間っぽい所が生々しい。それ以外は完全に石だ。


砂埃すなぼこりだらけの汚い身体を先に洗ないと湯に入れないな。ブラシも桶も椅子もある備品は揃っている。


ガシガシガシゴシ


ブラシで床のタイルを洗うように力を入れる。


ボキッ 

あっ!しまった。腕力が強すぎてブラシの柄が折れる。後ろへ手を伸ばして背中を洗おうとする。


「駄目だ……届かないか……」


ゴシゴシゴシ 


「あっ、そうそうそこ! って えっ?」


すると、背中から優しくブラシで擦る音がした。


「私が洗わせて頂きます」


「うわっ!」


後ろを振り返るとタオル一枚の女将が背中を洗ってくれている。


「もう良いよ。ありがとう!」


「あっ、ゴレーム様、もう少し……」


バシャバシャ 


恥ずかしいから身体を洗い流して足早に湯に浸かる。

女将はタオル脱いで身体を洗っているから、反対を向く。


身体が石だから温泉に入っても感じない…… と思ったらジンワリと身体が暖かくなってきた。

村人も俺を見てゴレーム様と言うわけだ。どう見ても石の化物だよ……はぁ……


「あ待たせしました」


女将が湯に入ると、横に並んできたと思ったら頭を俺の方へよせてくる。

いや、別に待たせてないんだけど……


「私、たくましい殿方が大好きなのです。若くして、夫に先立たれ、女手一つで働いて来ました。もうそろそろ、身も心も捧げる方を」


バシャバシャバシャ


「の……のぼせたようだ! 良い温泉だったよ!ありがとう!」


用意された服を急いで来て、温泉を出ると長老が門の前で待ち構えていた。


「ゴレーム様、湯加減は如何でしたか? それともアッチの方が具合は宜しかったでしたか?」


このジジイ仕組んだな!


「……いい湯だったよ。今日は疲れたから、寝床の場所を教えてもらえないか?」


俺は長老の案内で寝床の場所まで辿り着いた。 


「……どうぞごゆっくり」

長老の不適な笑みが見えた。


ガチャ


取り敢えず、普通の家だな…… 変な所は無い。ベットもあるし、今日はもう寝よう…… 部屋は真っ暗だったがそのままベットで寝ることにした。


ムギュ……ん? 柔らかい何かが?


「あん♡ ゴレーム様って積極的なのですね♡」 


「な……何だ!」


急いで灯りを点けると、ベットの上に女が3人布団に入ってこっちを見ている。


「何なんだよ一体!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る