第11話 起動

「スローモーションにしてくれ!」

半信半疑ながらダメ元で叫ぶ。


アプリ スローモーション モード


≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒


目の前の全ての動きがゆっくりと見える。

司祭の剣はゆっくりとラフシールの心臓目掛けて下へ動いていく。

このスローモーションモード、相手の動きがゆっくり見えるだけで、自分が早く動けるわけではない。


駄目だ! いくら動きがゆっくり見えたからって、この距離だと走ってもギリギリ間に合わない! もっと早く走ることが出来たら!


ピコンッ


音が鳴ったと思ったら目の前に字が浮かび上がった。


サイセイソクドセンタク

x1.1

x1.2

x1.3

x1.4

x1.5…


再生速度? まさか、これもアプリモードの一つか?

いや、そんな事考えている場合じゃない。1.5倍が一番速いなら……


「1.5倍だ!」


すると、グングンと司祭との距離が縮まった。

凄い! これなら間に合うぞ!


パキンッ!


≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒


司祭は何が起きているのか理解できなかった。ラフシールへ剣を突き立てたはずだった。なのに、突き立てた先は石像の掌で剣は真っ二つに折れていた。そして横にはあの石像が立ち、掌はラフシールの心臓を守る様に覆っていた。


「な…… な……」

司祭は恐怖のあまり言葉にならない言葉を発していた。


「司祭! お前だけは許さない! 手前の保身の為にラフシールを殺そうとするなんて!」


「ま、待ってくれ。私は、間違ってない! む、村の者達よ! この石像は守護神なんかじゃない! 悪魔の魂が石像へ宿ったのだ! こいつがラフシール様の魂を食べたのだ! 我々は騙されていた! この悪魔を捕えろ!」


村人はお互いの顔を見合わせて戸惑っていた。


「何をしている! 捕えなければお前らの評価を悪くしても良いのだぞ?」


「司祭様がそう言うなら、仕方ねぇ、捕まえるしかねぇ」


「司祭様! ラフシール様はどうするのですか?」


「処分するんだ! しないと、悪魔の魂は浄化しない!」 


司祭のその一言で、村人達の気持ちは俺を捕える事に決めた様だった。 


「悪いなゴレーム様。司祭様には逆らえねぇんだ。家族を守る為だ、大人しく捕まってくれ」


村人達が、手に斧やナイフを持ってジリザリと距離を詰めてくる。本当に馬鹿で信用出来ねぇ奴らだ。自分の意思は無いのかよ!


「サイモン! あんたはこのままで良いのかよ? ラフシールを殺そうとしてるんだぞ!」


サイモンは村人達の最後尾に隠れるように立っている、しかし、サイモンからの反応は何も無い。

成る程な、つまり、ラフシールを見殺しにすると言う事かよ!


ガシッ ポイッ


司祭の首ねっこを掴んで村人達の方へ投げ飛ばし、横たわっているラフシールを抱え上げ、村人達の前に立った。


「あーそうかい、俺を捕らえるんだな? 勝手にやれよ? だけどな、ラフシールに指一本触れてみろ? お前ら」


ドンッ!


剣を突き立てた大きな音が協会中に響き渡る。


「殺すぞ?」


辺りはシーンと静まり返った。誰一人言葉を発しない。暫くの膠着状態こうちゃくじょうたいも司祭の一言で一気に崩壊する。


「な……何をしているんだ! お前らの家族の評価を下げるぞ!」


「うぉぉーー!!」


村人達が一斉に襲い掛かってきた。

本当にコイツらは、ならば、お望み通り、殺


『ころす……のは……だめ……です』

耳元でラフシールの声が聞こえる。


「ラフシール? 意識が戻ったのか?」


「……」


それ以上の返答は無い。顔を見ても眠っている様だった。殺すのは駄目か、そんな事は俺だって分かってる。なら、


逃げる!!


ラフシールを抱えたまま村人達の頭上を飛び越えて出口めがけて一目散へ逃げた。


「石像が逃げたぞ! 追うんだ!」


石像って呼び捨てにされちゃってるよ。ちょっと前までゴレーム様なんて勝手に呼んでやがったくせに、切り替えの早い奴らだ。 


教会の出口を出て全力で逃げる。何処へ逃げようか? このまま知らない街まで逃げるか? いや、あの場所なら……




「あれま? 石像さん。どうしたべ?」

カッペが驚いた顔をする。それもそうだ、今度はラフシールを抱えてやってきたのだから。


「カッペ、すまない、かくまってもらえないか? 迷惑はかけない」

カッペは理由を聞かずに俺とラフシールを迎え入れてくれた。


ラフシールを空いているベットへ寝かせてもらい、カッペと妻のノボリに経緯を説明した。


「……と言う理由で逃げてきたんだ。村の人間達は誰一人信用出来ない。カッペ達に迷惑をかけるわけにはいかない。明日にはラフシールを連れて離れた街へ行こうと思う。だから、今夜だけは匿って欲しい」


「……」

カッペは黙って聞いている。


「アナタ……」堪らず妻のノボリがカッペへ声を掛けると、口を開いた。


「お断りだべ」

「アナタ!」


そりゃそうだ。娘のポツンコと言う守るべき娘もいる。それに連れてきた娘がサイモン卿の娘なんだからトラブルの塊みたいなものだ。


「カッペ、俺はアンタの返答は間違って無いと思う。少しでもかくまってくれてありがとう」

席を立とうとする。


「石像さん待つんだべ。お断りと言ったのは今夜だけと言う事だべ。ここに居たらいいべ……好きなだけ」


「カッペ!」


こうして、俺とラフシールはカッペの家で匿われる事になった。村からも離れているし、仮に村人達が近くに来ても、愚者と関わると災いが起きると信じられているらしく、近づいて来ないとの事。


そうだとしても、俺はカッペに感謝している。村の人間なんかよりずっと人間らしく、信用出来たからだった……




あれから1ヶ月ほど立った頃…… 


「カッペ、薪が足りないだろ?山へ行って拾ってくるよ」


「頼むよ! 村の方へは近づいてはならないべ」


「オーケー」


カッペが言うにはこれから寒い季節になっていくらしい。だったら今のうちに薪を拾った方が良いと思ったわけだ。


俺は素早く薪を拾い上げたあと、近くに街がないか探すのが習慣だった。そのお陰か、1つ遠目でも分かる大きな街を発見することができた。 

さて、帰るか……カッペの家に近づくとポツンコが焦った顔で駆け寄ってきた。


「石像さん! ハァ ハァ ハァ……」


「どうした! まさか村の人間達に見つかったのか!」


「ハァ ハァ ううん。 違うべ。 ラフシールさんが、目を覚ましたんだべ!」


「何だって!」


俺は急いで家へ向かった。


「ラフシール!」


ラフシールが寝ている部屋の扉を開けると、ベットから上半身を起こして俺を見るラフシールが居た。

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