第16話 落札

俺達が連れてこられたのは裏オークション会場。

俺とマザーがさらわれたサーカス場から巨大馬車に乗せられて2日位経った時、巨大な闘技場に到着した。そこから地下へ続く道の中へ入ると、迷路のようにいりくんだ道を通過した場所に裏オークション会場はあった。


マザーは首輪をされて壇上に立たされていた。


「奴隷オークションとしては今日一番の目玉のご紹介です! 年は10台後半、そして見てくださいこの容姿を! 女優でも中々見ない美貌、そしてなんと言っても”処女”であります!! こんな奴隷滅多に出てきませんよ! それでは落札を始めます」


「1000万ダラ」

髭を蓄えた男が札1番の札を挙げた。


おー! 周りがどよめいた。


これを皮切りに次々と札を挙げる落札者達が札を挙げ、最初の落札価格の5倍まで跳ね上がっていた。


「現在、5000万ダラ 他にいらっしゃいませんか?」

進行役が見渡すが札を挙げる者は居なかった。


「それでは5000万ダラ 1番の札の方 落札です!!」


「おら! 動け!」

マザーは鎖を引かれて壇上から消えて行く。


マザーと入れ替わりで三人の男達に引き摺られながら俺は順番をまった。それにしても、色々な物が出品されている。エルフの耳、ドワーフの伝説の斧とかファンタジーそのものだった。


さて、次の次が俺の番か……


進行役が落札参加者達に張り切って説明をしている。


「骨董コレクターの皆様、お待たせいたしました!注目の一品です。滅多にでない2〜5万年前に栄えていた古代文明で使われた道具が発掘されました。まさに、文化遺産レベルです。これを逃したら二度と手に入らないかも?です!」


古代文明の道具か…… 一体どんな物なんだ?

興味を持った俺は気づかれないように出品物を見た。


「あっ……」




……俺の順番が回ってきた。進行役が深く息を吸った後


「ご参加の皆様。今回最後のオークション品です。 こちらは……名前を言えませんが見て頂ければどれ程値打ちのあるモノか皆様ならお気付きになると思います。それは、こちらになります!」


大男3人掛かりで運び込まれた石像を見てオークション参加者は静まり返った。


進行役が必死になって止める。


「参加者の皆様。現存していないとされていた愚者の石像…… 奇跡的に1体見つかりました。皆様の心情は御察しします。ですが私情を捨て」


進行役が言いかけた時、落札参加者から怒声がとびかった。


「この!人間の恥知らずが!!」


「愚者を見ると吐き気がするわ!! そんな物出店するな!!」


「皆様!! どうか、骨董こっとうの価値を見て落札をお願いします。それでは落札を始めます!!」

一人の声を皮切りに次々と落札価格が更新されていく。


「10億ダラ!」


「15億ダラ!」


「20億ダラ!」


俺は落札者達が札を挙げるのをぼーっと眺めていた。

人間の欲は計り知れない。この世界も俺が居た世界と何も変わらない。


権力や金が有る者が支配する世界。

そして、愚者というだけでこの差別。これがカッペ達に向けられていたと思うと胸が痛くなった。


マザーは全て落札する迄待って欲しいと言った。

落札されたは全て一ヵ所の大部屋へ集められされるらしい。


俺の落札価格…… 35億ダラ


落札された俺は、3人の男に壇上から降ろされ、落札された”モノ”が集められた部屋の中まで運ばれた。


『エメス様!』


頑丈な鉄格子の中からマザーの声が聞こえる。

頑丈な格子をこじ開けると、俺の胸にマザーが抱きついてきた。


「マザー、大丈夫だったか? それにしても……」


辺りに鎧等の骨董品に加え、檻に入れられた魔物達や奴隷として売られた人間が居た。

取り敢えず、この身体を隠せる物を探す事とあの出品物を見つけたい。


「マザーは奴隷として檻に入れられている人間が何処にいるか探して俺に知らせてくれ」


『はい!探しますね!』


さて、目当てのものは無いかな? 辺りをウロウロ歩いて探し回る。


「へー、愚者の石像が歩き回ってるぞい。長い事生きていると不思議な事もあるものじゃ」


不意に一つの檻の中からしわがれた声がしてきた。暗くてどんな人物か分からないが爺さんだろう。


「アンタも奴隷として売られたのか?」


「ゴホッゴホッ、買い手がついてもすぐに放棄されんねん。お陰でもう何年もこの檻の中じゃ。ワシと一緒でこの辺りの物は全て落札されず、埃をかぶっておるんじゃ。食事ももう何ヶ月も食べておらん。ワシももうそんなに長くは無いんじゃ」


「何ヶ月も?」


「ゴホッ ゴホッ どうかワシをこの檻から出してくれないか? 出口も知っている。役に立つぞ」


「分かった。後で開けるから待っていてくれ」


「ゴホッ ゴホッ 悪いようにはせん」


マザーから奴隷が入れられた檻が見つかったと声を掛けられ、そちらへ向かう。


バキッ バキッ バキッ


檻を次々と破壊して、奴隷を解放する。


「エメス様、あの衣装はどうですか?」


俺はマザーが指さす方を見ると、顔まで覆う黒装束が飾られていた。


「おっ 何か忍者みたいな衣装だな!これに決めたぞ」 男心をくすぐる衣装とはこういうものだ。


『この衣装は高額で落札されたみたいです。成分を調べると何十人分の人間の毛髪が一緒に編み込まれているみたいです。素性を隠すための一種の魔除けの意味を込めているのだと思います』


「いや…… そこまでの説明はいらなかったかな」


「きゃあ! 石像が喋ってる!」 

檻から解放した女が叫ぶ。


バシッ!


『ごめんなさい』


すかさずマザーが手刀で女の首の後ろを叩くと、女は気絶し、そのままマザーの胸の中へ倒れた。マザーはその女を物陰に隠していた。


「こ、殺したのか?」


『いいえ、気絶させました。人間の機能を理解出来れば、私の様な非力な力でも簡単に気絶させる事が出来ます。エメス様、他の人達に気付かれる前に着替えをお願いします』


「おっ、おー!」


さらっと答える所がマザーの怖いところ。一体何処でそんな体術覚えたのか。おっと、早く着替えないとな!


ガサッ ゴソッ ガサッ ゴソッ


まぁ、こんな所か。


「マザー、どうかな?変じゃないかな?」


『石像のエメス様と比べたら変じゃ無いですよ?』


「いや、えーと、そうじゃなくて違和感ないかな?」


『はい!エメス様はいつも素敵です!』


「あ、ありがとう」


満面の笑顔で嫌味無く言うものだからとても照れる。それに、何か回答がズレてるし。


「マザー、出荷の為に業者が部屋を開ける時がチャンスだ。マザーは捕まった人間達を誘導させてくれ」


『承知しました。誘導は任せて下さい』


俺とマザーは閉じ込めている大きな石扉が開くのを待った。


「おーい! 愚者の石像!ワシをだしてくれる約束だったはずじゃ!」


おっと、忘れてた。仕方ない開けてやるか。


バキッ


「やれやれじゃ。本当にこのまま出してくれないかと思ったぞ」


「えっ……」

檻を壊して中から出てきたのは、爺さんではなく女の子だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る