第37話 剥奪
「はっ……はは、ばれたか」
アナスタシアが腕を組んで立っていた。
「妹から聞いたわ。黒装束の伝説の忍者みたいな男が助けてくれたって。どう考えてもエメス、貴方の事でしょう? っていうか、何で鎧を着ているのよ?」
「あちゃー、 もう知ってるのか…… 服は魔物との戦いで溶けてしまったから落ちていた鎧を着たんだ」
「そう…… 良くやったわ。 只者ではないと気付いてたけど、B級の魔物を1人で退治する実力者だとは思ってなかったわ」
「それはどうも」
アナスタシアは手を口元に置いてしばらく黙り込んだ後、俺の目を見て口を開いた。
「でも、貴方のギルド会員を剥奪させて貰うわ。私の妹含めて全生徒を無事に助けだしたのは称賛に値するわ。でもルールはルールなの。これを私が許してしまうと他の会員に示しがつかなくなる……すまない」
アナスタシアは俺に頭を下げてきた。
「頭を上げてくれ。別に謝る必要なんて無い。それに俺は反論する気はないよ。ルール違反だって分かってやった事だからな。アナスタシアの妹も無事で何よりだ」
「そう言ってくれると助かる」
なおも頭を下げ続けるアナスタシアを見て、妹を助けた事を本当に感謝してくれているのだと感じた。
「俺からもお願いして良いかな?」
アナスタシアに学園を救ったのは俺では無い違う誰かにして欲しいとお願いした。
今は極力目立ちたく無い。下手に目立てば勇者達の目についてしまうと警戒したからだった。
「分かった。エメスがそうしたいならその様に上手く根回しをしておくよ……で、エメス、ここからはオフレコでお願いしたい。実はギルドで請け負わない仕事が何件かある。それを君に斡旋しようと思うんだが、やるか?」
なるほど、フリーランスならギルドのルールにも縛られないな。と言う事は……
「やらせてくれ、俺も生活しなきゃいけないからな」
「そうか、エメスがこの提案を受けてくれるなら私の肩の荷が下りるわ。どんな仕事をしたいか希望はある?」
「ある。アナスタシア、あんたの協力が絶対に必要な仕事があるんだ……」
こうして俺は短期間のうちにギルド会員を剥奪になり、フリーランスで仕事をする事になった……
◆
「おっ、マザー、お帰り。今日もお疲れだったね。肩でも揉むよ」
「エメス様? 一体どうしたんですか?」
マザーが仕事を終えて宿へ帰ってくるなり俺がマザーの肩を揉むものだから怪訝な顔をしている。
「いや……実はな」
魔物が学園を襲ったこと。ギルドのルールを破ってまで生徒達を助けたこと。それが原因でギルド会員が剥奪になった事を話した。
「エメス様らしいですね。私はエメス様の判断は間違って無かったと思います。エメス様のお陰で生徒の皆様の命が助かったのだから。そういうエメス様を私は……いえ、何でもありません!」
マザーの顔が赤くなった為、体調でも悪いのではないかと心配して薬を渡すが、「何でもない」の一点張りで顔を隠して浴室へ行ってしまった。
「マザー、明日は仕事がオフだろう? 俺の仕事手伝ってくれないか? お前にしか頼めないんだ」
俺は、扉越しでマザーへお願いすると、二つ返事で扉の向こうからかえってきた。
さて、明日から仕事再開だ……
——ミアの屋敷
学園へ送り届ける為の馬車がいつもの様に屋敷の前で待機している。
「どうしたミア? 浮かない顔して。 昨日の疲れが溜まっているなら休んでいいのだぞ?」
ガルードが心配して私に声を掛ける。
「ううん、私は大丈夫。昨日の事で色々とあったから考え事をしていただけ」
「すまなかった……ワシが居ながらミアを危険な目に合わせてしまった。出来ればお前を助けてくれた英雄にお礼が言いたいものだ」
ガルードが申し訳なさそうに言う。
ガルードは何も悪くない。彼が公の場で行動を起こしてしまったら彼は捕えられて……そして、私から離れていってしまう。だから良かった、あの男が代わりに助けてくれたから……
「ガルードは何も悪くないから謝らないで……さぁ、お母様達が見送りに来たから喋らない方が良いわ。それに、今日は新しいボディーガードが来るそうよ」
ハァ……毎回毎回、ボディーガードをコロコロ変えてさぁ、無駄なんだからお母様も止めてくれないかなぁ
どうせ、私の声なんて相手には聞こえないんだから。直ぐに嫌になって辞めるか、死ぬかのどちらかよ。
外でお母様と話をしている声が聞こえる。新しいボディーガードが来たみたい。
挨拶するのも面倒なので客車で待機する。どうせ横に座って来るのだからその時に挨拶すればいいし。
「ミア! ミア!」
ガルードの焦った声が外から聞こえる。
「ちょっと! 今は喋っちゃ駄目でしょ! 黙ってて!」
「ミアさん、今から客車にボディーガードの方達が乗るから挨拶をしなさい」
「はーい」って返事をしてもお母様には聞こえないか。
ガチャ
客車の扉を開ける音がする。さて、次の人はいつ辞めるかしら?
「エメスです。今日からよろしくお願いします」
「は? はーーーー?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔を今、私はしているかもしれない。
「な……何であんたがここに居るのよ! 私がクビにしたはずでしょ! ルール違反だわ! お母様を通してギルドへ言いつけてやるんだから!」
どう? エメス、アンタはぐぅの音も出ないはずよ!
「あー、その事なら心配ありません。俺はギルド会員を辞めてフリーランスでこの仕事を請け負ってます」
「え? 何……言ってるのよ……ギルドは……ギルドはこの仕事を放棄したって言うの?」
「ええ、ギルドはこの仕事から手を引いたみたいです。そして、ギルド当主アナスタシアが貴方のお母様へ俺を紹介してくれたのです」
確かに昨日は私を助けてくれた……感謝してるし……本当は……お礼も言いたい。
でも、目の前に居るのは石像の化け物。
「まさか……口封じの為に私を殺しに来たんじゃ!」
「黙れ! 叫んでも無駄だ、お前の叫び声は周りには聞こえない。まぁ、ガルードは居るがここでは役に立たないだろうからな」
こいつ、何言ってるの? ガルード……助けて……怖い。
私が叫べば絶対に助けに来てくれる。
「ガルード、助けて!」
シーーーーン
一体何やって
客車から外を見ると一人の女がガルードの首の下を撫でている。って、ちょっとガルード!
凄く気持ちよさそうにゴロゴロと鳴いているじゃない!
「お待たせしました。貴女がミアさん……ですね? どうぞ宜しくお願いします」
ポーーー
後から客車に入ってきたその人はとても美しくて、清廉で、良い匂いがして、私、ずっと前からこんなお姉様が欲しかったまさに理想の人だった。
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