第33話 尋問
縛られた獣の前に腰を掛ける。
改めて正面から獣を見ると威圧感が凄い。
「あんたの名前は?」
「ガルード、ミアが付けてくれた大切な名前だ」
昔を思い出せ。ここからが重要だ。深呼吸をして落ち着く。
「幾つか聞くぞ。お前の返答次第でギルドへ引き渡すかどうか決める。最初の質問だ、ミアの父親は死んだと聞いている。お前が殺したのか?」
「馬鹿な事を言うな!ワシはミアが悲しむ事は絶対にしない!父親は病死だ!」
「ならヨハンが死んだ日に、ヘルモテの街で3人の死体が見つかったのを見た。あれはお前が殺ったのか?」
「アイツらは馬車をずっと監視して、いつ誘拐するか相談をしていたんだ。お前さんも一緒に誘拐して殺そうとしてたんだぞ? だから殺した」
ガルードの特性は確か耳が良いとあったな。そうか、ミアが喋っている事もずっと理解してたんだな。
「じゃあヨハンはどうして殺した? 長年仕えた執事だろう?」
低い唸り声がガルードから聞こえてくる。
「全ての元凶はヨハンだ。アイツがギルドの連中をそそのかしていた。ミアを送った後に客車の中でギルドの奴らとミアを誘拐しようと綿密に計画を立てていたんだ。ワシが獣人だと知らずにペラペラと喋っておったわ」
ヨハンが元凶だって?
「ミアを誘拐って何が理由だ?」
「遺産だろう。父親が死んだ時に全ての遺産をミアへ残すと書いた遺書が見つかったのだ。だから、ミアを脅してでも莫大な遺産が欲しかったのだろうな」
「なら、母親もヨハンと共謀しているかもしれない。母親には遺産の相続権がないからな。締め上げてみるか」
「母親を締め上げるかだって? さっきからの尋問、お前、ただのギルド会員じゃないだろう? 何処の部隊の所属だ?」
ガルードの質問を無視して、自分の質問を続ける。
「行方不明家になっている家庭教師はどうした? どうせお前だろう?」
「ミアの声を奪ったのはアイツだ。幼き純真な心を騙してミアを汚したから食い殺してやったわ。それの何が悪い?」
「……」
「質問は終わりか? ワシの心情を理解してくれたならこの紐を解いてくれる事を希望するが」
「確かに理解できるよ」
「だったら早くこの紐を解いて」
「お前が言っている事が本当だったらな? 死人に口無しって言葉を知ってるか? 犯罪を犯した者のみの証言で一方的に進み、人権だなんだと保護され、殺された被害者は何も反論する事は出来ないんだぞ!」
「クックックック」
ガルードが笑いを堪えていた。
「何が可笑しい?」
「お前も危うい奴だなって思ってな。平静を装っているがワシにはお前の怒りがビシビシと感じるぞ? まるで、鎖に繋がれた獣だな? 人間は騙せても獣には分かる。逆の立場ならお前さんならどうする? 許すか? いーや、絶対に許さないだろうな。 まぁいいわい、好きにしろ」
ガルードは観念したのかこれ以上何も言わなくなった。
俺は腰をかけていた場所から立ち、離れた場所でガルードに背を向けた。
俺は迷っていた。ガルードに俺の感情を見透かされて内心動揺していたからだ。
犯罪者は絶対悪。それが俺の信念として今まで行動していた。しかし、この世界で生きてきて俺の信念が大きく揺らいでいる事も事実。
愚者はこの世界では犯罪者と同様の扱いだ。じゃあ彼らは悪い奴か? 違う。カッペ達の様な善人も居るから俺は否定する。でも、ここの兵隊達の考えは愚者は絶対悪だ。
ガルードの言った事もそうだ逆の立場だったら……
俺は再びガルードの前に腰を掛けてやつの目をじっと見る。
「ガルード、お前を」
「ガルードを連れていかないで!」
その声が聞こえる否や、ミアがガルードにしがみついた。いつから目が覚めていたんだ?
「ミア……ワシは」
ガルードはどうしたら良いのか戸惑っていた。
「私、知っていたよ。小さい頃からガルードが私の事を守ってくれてた事を。獣人だったんだね?超かっこいいじゃん? どうして教えてくれなかったの?」
目に涙を浮かべながらミアは喋った。
「ワシはミアに嫌われるかと……言い出せなかったんだ」
「もー! 喋られるなら言ってよ。もっとお話ししたかったんだよ?」
「ミア!」
ミアに声を掛けるとガルードをギュッと抱きしめながら睨みつけてきた。
「今のエメス凄く怖い。表情は見えないけど…….雰囲気が凄く怖いの! 大嫌いな勇者の兵隊達みたいで凄く嫌! ガルードは悪くない! 来ないで!」
ミア……違うんだ。
俺はミアの為、これ以上被害者が出ない為に一生懸命頑張って……
私は大丈夫だよ? XX君こそ大丈夫? だって仕事から帰ってくるといつも凄く険しい顔してるから……時々怖いと感じてしまう事があるの。私、可笑しいよね? いっぱいXX君の優しい所知っているのに……でも、凄く心配なの……
私、待ってるから……辛い事があったらいつでも電話して?
昔に言われた言葉が頭をよぎる。
何でこんな時に思い出すんだ!
「ミア、そこを退け! 俺はガルードをギルドへ連れていきこの世界の法の裁きを受けさせる」
「嫌だ! 絶対に退かないんだから!」
ミアはガルードにしっかりと抱きつき離れない。
「ミア、これ以上駄々をこねるならお前も共犯としてギルドへ連れて行く事になる。素直に言う事を聞いてくれ」
「絶対に、嫌!!」
全く困った娘だ。だからと言ってミアは絶対に引かないだろう。俺も言った手前ガルードを解放する事は出来ない。
仕方ない。
「分かった。では俺と賭けをしないか? 俺は今からガルードを尋問するが手は絶対に出さない。奴が俺の尋問に根を上げたり、感傷的になったら俺の勝ち。耐えたら、ガルードを解放する。ただし、俺の尋問には必ず答える事。時間制限として、そうだな……日が暮れるまで1時間ある、それまででどうだ?」
俺の提案にのったミアはガルードに頑張るように言い聞かせていた。俺はガルードの前に腰をかけてただじっとガルードの目を見つめ続けた。
「……ずっと黙っていていいのか?時間はどんどん過ぎているぞ? まぁ、ワシにとっては好都合だがな」
「……」
「尋問だろう? 眠って良いか?」
ガルードは欠伸をし始めた。
「ガルード、俺がさっき尋問して答えた事をもう一度答えてくれるか?」
「ああいいぜ」
ガルードはミアを守る為にギルドの連中を殺した事。首謀者はヨハンだった事を語り始めた。
「これでいいだろう?」
ガルードはしてやったりの顔をした。
「もう一度同じ説明をしてくれるか?」
「ハァ? お前は何」
「ガルード、怒っちゃ駄目!」
ミアの声でガルードは我に返り、叫ぶのをやめる。
「分かった」
ガルードはもう一度説明をし始めた。
「……と言うわけだ。これで良いだろう?」
「ああ、もう一度説明してくれ」
?!
「き……貴様……な……ふー、ふー、分かった」
ワナワナと震え出すガルードは今にも叫び声を上げそうだったのを我慢して再び説明を始めた。
「……でヨハンが首謀者で」
「ちょっと待て。今、首謀者と言ったな? 供述の内容が食い違っているぞ? ヨハンは元凶だと言ってたと思うが?」
「あ……ああ、そうだ、元凶だった。言い換える、元凶だ」
「もう一度最初から説明しろ」
「……監視してたギルドの奴らを何人か殺して」
「違うだろう? 何人かじゃなく、3人だろう? もう一度最初から説明しろ」
「……と言うわけだ。これでどうだ! 間違いなく説明したぞ!もう日が暮れる。これでワシの勝ちだ!」
拳を握り勝利を確信したガルードが俺を煽る。
「ああ、そうだな。 もう一度最初から説明しろ」
心底驚いたガルードの顔を俺はただじっと見つめていた……
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