第42話 新居
ヘルモテに住んでから半年が経とうとしていた。ギルドを除名された時は仕事をどうしよか悩んだ事もあったが要らぬ心配だったようだ。
数字爺さんであるシャールベ卿から譲り受けた家をマザーと二人で模様替えをしていた。
『エメス様、そこの壁紙はストライプにした方が。あっ、キッチンは高い方が料理をしやすいので交換しませんか? 寝室は……二人で一緒に寝られる大きなベッドにしませんか?』
とまあ、新婚か? と言うくらいマザーは家の改装に張り切っている。
この家を拠点に俺とマザーは細々と仕事をしていた……と言いたかったが、噂が広まったのか解呪の依頼がそこそ来ていた。
ギルドの連中には目の敵にされているが、まぁそんな奴らは放っておけばいい。
呪いについては、俺の石化の呪いが解けないか一度、マザーに試して貰った事がある。
『エメス様、やってみますね!』
「ああ、頼む」
『神の言葉を借りて命ずる。汝に掛かった悪しき呪術を浄化し天に召されなさい!』
シーーーーン
とまぁ、何も変化は無かった。そもそも神の言葉を借りて呪いを解くって言うけどさ、呪いを掛けたのが神だった場合はどうするんだ? と言う話にもなる。
それに、呪いの根源が分からないと無理だろう。
それともマザーが一番最初に言った通り、強い衝撃を与えて破壊するかだ。
現に、俺の身体はヒビだらけになっている。クインカス、ルーシャ、ガルードの三人が俺を攻撃した箇所だ。
アイツらレベルの奴らに攻撃をされ続けたらもしかしたら……
俺はそう思いなからソファーの上に横になっていた。
サボってるわけじゃないぞ? やっと出来た休息の時間を満喫しているだけなんだ。
『エメス様!』
マザーが買い出しから帰ってきたようだ。
「んー、 また後でいいか? 眠いんだ」
『もー、眠くないのは知ってます! お願いされていた新聞を買ってきましたよ!』
そう言うと、寝ている俺の顔の上に新聞を乗せてきた。
この世の情勢を知るのに手っ取り早いのは新聞だ。よくもまぁ、毎日違うネタがあるものだと感心する。
今更説明する必要は無いと思うが、この世界の言葉、文字は日本語と全く違う。聞く、喋る、読む、書く、が出来るのは全てアプリ翻訳モードのお陰だ。
試しに一度、翻訳アプリを解除した事があったが地獄だった。相手が何を言ってるのかさっぱり分からない、字も読めない等生活に支障をきたすほどだった。
つまり、俺は常に翻訳アプリモードを作動させている訳だ。
「さて、今日の見出しは……」
ダミナーイグで開催される剣術大会が明後日に迫る!
優勝は一体誰の手に?
本誌記者であるメイプルが予想する優勝候補は三人だ!
①勇神隊隊長 フャク
②千人斬りの異名 チョボコール
③孤高の老剣士 スアルーホ
剣術大会の事が大々的に一面に飾られていた。ご丁寧に顔写真付きで。この時、初めてファクがどんな顔をした奴か分かった。
顔は……ま俺だったら職務質問してしまう悪人顔だ。
この新聞、ご丁寧に参加者全員の名前と予想を事細かに書いていた。
アナスタシアが選んだ4人はまぁ及第点の予想のようだ。ギルドでの戦績は悪くないみたいだから、ある程度の成績を残すと予想している。
さて、俺への予想は……
予想成績
オムライス → 予選敗退
※何処にでもいる普通の剣士。鎧も普通、戦績無し。咬ませ犬。何故出場しようと思ったのか意味不明。ご愁傷様。
よくもまぁ、好き勝手に書いちゃって。
別に優勝とか興味無いから良いけどさ。
因みに偽名でオムライスとして大会へ登録するようにアナスタシアへお願いした。名前の理由は単純に俺がオムライスが好きだからだ。
「ん?」
思わず声が漏れる。
尚、今大会のご来賓としてスズイ王国始め、多数の王国の大臣クラスの出席が見込まれる。
スズイ王国ってルーシャの……
大臣クラスの出席と書いているから王女であるルーシャが来ることは無いと思うが……来ないと思う、うん。
剣術大会に参加する事はマザーには徹底的に内緒にしている。理屈は分からないが俺とマザーは情報をある程度共有している事が分かっている。
神の選別の時がいい例だ。何故か俺が何をして、どんな会話をしているのかマザーは知っていた。だから、俺とマザーが繋がるアプリモードをコッソリと探し続け、少し前にブルファイというアプリを発見し、内緒でオフモードにした。
それから、マザーは様子を伺うように色々と尋ねてくるようになったからオフモードにしたのは正解だったかもしれない。
『エメス様! 明後日は何か用事がありますか? 買い物に付き合って欲しいのですが?』
「ああ、悪い。明後日は依頼主と面談があるから違う日ならどうだ?」
嘘をつく時は余計な言い訳をしない。これは鉄則だ。余計な事を言うと、本当の事も嘘に聞こえてしまうんだ。これは豆知識。
『そうでしたか、分かりました。私も明後日以外はギルドの仕事が入っているので一人で行ってきますね』
「悪いなマザー」
「いいえ! あっ、エメス様、お昼はオムライスにしますが良いですか?」
「オムライス? よっしゃ! 食べたい食べたい!」
『もー、エメス様は子供なんですから(笑)』
そう言うと、マザーはキッチンへ向かっていった。
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