第30話 無口
無事に仕事の依頼を受けることが出来た俺とマザー。それぞれの依頼人と面談後、順調に仕事をこなし数日が経とうとしていた。
大きな豪邸の門の前に馬車が到着する。
「エメスさん、今日も娘の送迎宜しくお願いしますね」
貴婦人が俺に軽く会釈しながら話す。
「任せてください。ミア様は無事に学校へ送り届けますので」
俺は貴族の娘 ミアの学園の送迎をまかせられていた。
待機している馬車を見ると、馬ではなくデカい狼の様な獣が客車に繋がれ、御者はいない様だった。
この
「ミア様、おはようございます」
「……」
馬車に乗るミアへ挨拶をするが無視をされる。
見た目は黒髪で眼鏡を掛けた大人しそうな娘だから、人見知りをしているのだろうと最初は思っていた。
ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ
「エメス殿、ミア様がアイスを食べたいと仰っている、学園に着く前に買って持ってきてくださらないか?」
ミアに同行している執事のヨハンが客車の中から俺に声を掛けてきた。俺が直接ミアと喋る事は無い。会話は全てヨハンを通して会話をする形だった。
「どんなアイスでも良いのか聞いてもらえますか?」
「ミア様、どんなアイスでも良いですか?」
「ゴニョゴニョゴニョ」
「ミア様は何でも良いと仰っています」
とまぁ、こんな回りくどい会話をしているのが問題だった。俺みたいな平民とは喋りたくないのか、関わりたく無いのか知らないけどな。
俺は素早く馬車から離れてアイスを探す。 学園へ向かう道中にアイス屋は無い。
ヘルモテ中心街まで戻って買わなければ行けなかった。
もう1つの問題はミアが無理難題を要求する我儘娘だった事。
断ったり要求に応えられなければ即刻クビ。今まで相当数のギルドの会員がクビになったと聞いている。どおりで求人が残ってたわけだ。
ヘルモテ中心街でアイスを買い素早く馬車へ戻った。
「どうぞ。店の1番人気のアイスにしました」
「ミア様、アイスがきましたぞ」
「ゴニョゴニョゴニョ」
「ミア様はご苦労様と仰っています」
とまぁ、ミアお嬢さんの無理難題をこなしていってるってわけだ。このお嬢さん、わざと難題な事を振ってクビにしてやろうと考えているんじゃないか?
一つ気になるのは送迎をギルドに任せている事。送迎だけなら俺なんて必要無いし、馬車に乗って学園まで行けばいい。内部の人間を信用してないのか、それとも護衛が必要な何かが有るのか……
◆
「ゴニョゴニョゴニョ」
「エメス殿、仕事を辞める気ないのか?とミア様が聞いております」
ミアを学園まで迎えに行くと、ヨハンを通して突拍子のない質問をしてきた。
「せっかく手に入れた仕事だから辞める気は無いですよ?」
ハァ〜と溜息をつくミアがヨハンに何かを言っている。
「辞めないとエメス殿は近いうちに死ぬとミア様が仰っています」
俺が死ぬ?唐突に何を言うんだこの娘は?
「ゴニョゴニョゴニョゴニョゴニョゴニョゴニョ」
「私は呪われた娘だから、近づいた他人が何人も死んでいるととミア様が聞いております」
「いや、そんな事ギルドでは聞いてないですよ」
ミアは指を折り始めた。片手から始まりもう片方の手を折り始め……
「ちょっと待て! 今10人越えましたよね? そんなに死んでいるの?」
「ゴニョゴニョゴニョゴニョゴニョ」
「そう言う事。だから、貴方が死んだら12人目って所かしら。だから、悪い事は言わないわ。今すぐ辞めた方が良いわよ、とミア様が仰ってます」
11人死んでるって異常な事だぞ!ミアを送り届けたらギルドへ行ってアナスタシアに聞いてみるか……
◆
「貴方の言った通りよ。確かにそれ位死んでいるわ」
予定通り仕事を終えてからギルドに行きアナスタシアを問い詰めると、彼女は悪びれる事なく俺の質問に答えた。
「いや、普通じゃないだろう? 調査はしたのか?」
「勿論調査はしたわよ。事故と他殺、自殺含めて全部ね。でも、何も証拠が無いの。だから、全て事故として処理されたわ」
「証拠がないから全て事故として処理された? ギルドはそんな怠慢な仕事しているのかよ……」
ちっ……俺も人の事言えないか。また、昔の事を思い出してしまった。
「嫌なら辞退すれば?」アナスタシアはそう言い残すと持ち場へ戻っていった。
辞退だと?俺はもう逃げないと決めたんだ。とことんやってやる。
『エメス様、お帰りなさい!』
今日の仕事が終わって宿屋に戻ると、マザーが笑顔で迎えてくれた。泊まっている部屋はベッドが1つ。まぁ 、俺が床に寝るんだけどね。
「仕事は順調か? 確か家庭教師の仕事だったよな?」
『はい、仕事は順調ですが依頼主の受験生の子供が過去に何人ものギルドの人間を辞めさせているみたいです』
「何か原因があるのか?」
『意地悪な程難しい質問を投げて答えられないと馬鹿にしてクビにするそうです。でも 私は全て答えてしまうのでそれはそれで気に入らないみたいですけど』
「ははっ そりゃそうだろう? 相手が悪すぎる(笑) 引き続き頑張ってくれ」
「はい! エメス様は如何でしたか?」
「まぁ、普通かな」
人が死んでるなんてマザーに伝えたら心配するだろうから、俺はあえて知らせなかった。
翌日の朝、屋敷へ向かう道中で人集りが出来ていた。
野次馬の話している声を聞くと、身元不明の死体が3体見つかったらしい。こういう死体は大抵裏の人間だろうな。未解決による処理で終了ってところか。
「ミア様、おはようございます!」
屋敷へ到着して、ミアが屋敷から出てくると元気よく挨拶をするがいつも以上に浮かない顔をして屋敷の門扉から出てきた。
「あれ?ヨハン殿はどうしたんですか?」
「ゴニョゴニョゴニョ」
えっ?今、何て言ったんだ? そうこうしている内に後からミアの母親が門扉から出てきた。
「エメスさん、今日から暫くはミアとマンツーマンになりますが宜しくお願いしますね」
「えっ、あっ今日はヨハン殿はお休みですか?」
母親は一瞬気まずそうな顔をしたが直ぐに持ち直して俺の質問に答えた。
「ヨハンは昨夜亡くなりました。高所から落下して頭を打ってそのまま……残念です……長年我が屋敷に仕えてくれたのに……そう言うことですので、次の執事を見つけるまではエメスさんにお任せしますので宜しくお願いしますね?」
そう言うと母親はさっさと屋敷へ戻っていった。
娘を避けている?ミアは屋敷ではどういう扱いをされているのだろうか?いかんいかん、依頼者のプライベートを詮索するのは失格だな。
それにしても、困った事になった。これじゃあミアと会話が成立しないぞ。
ヨハンがいつも座っていた客車の椅子へ腰かける。隣にはミアがずっと俯いていた。あれ……泣いているのか? そうだよな、ヨハンが亡くなったから自分のせいだと責めているのでは?
それから新しい執事が来る数日間、俺はミアと一言も会話をする事ができなかったんだが、その新しい執事もミアにクビを言い渡されてしまった。未だクビにされてないだけ俺はマシなのかもしれない。
「ミア様。些細なことでもいいからどうして人が死んでいくのか心当たりはないか?」
「ゴニョゴニョゴニョゴニョ」
仕方ない、あれを使うか。
アプリ マイクモード オンリョウ MAX
「ミア様、もう一度言ってくれないか?」
はぁー、と溜息をつくともう一度ミアは口を開いた。
「あーもう面倒臭い男ね? 二度も言わせないでよ? 何で人が死んでるって? 知らないわよバーカ!」
うわー、超毒舌。聞こえて無いと思って本能全開で喋っている感じだ。真面目系かと思ったらめっちゃ猫被ってるじゃん。
まぁいい、これでミアと会話が出来る事は分かった。
この連続不審死の事件、謎を解いてやる。
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