第29話 就活

どうやら神の選別は終了したらしい。しかし、これから愚者への烙印や、選別から逃げまわっている者達の掃討作戦をこれから始めると言う噂を聞いた。


街を歩くと、選別で疲弊した街人達がお互いの健闘を讃えあってハグしていたり、泣き崩れていたりしていた。


この世界では選別ランクが全て。ランクを維持、またはランクアップをする為なら平気で人を裏切る。

無償で人の為に何かすると異端の目で見られてしまう。


この選別でどれだけの者達が処分されたのか?


これは後になって分かった。

今回の選別で処分された人数


世界人口の6分の1



◆◆



『エメス様、こっちですよー!』


マザーが子供のような笑顔で手を一生懸命振っている。容姿に似合わない、子供っぽい行動をする時があるのでこっちが恥ずかしくなる。


マザーが指差す方を見ると砂時計の紋章が掲げられていた。砂時計の意味は分からないが、俺達が探しているギルドで間違いなさそうだ。


『エメス様は私が呼ぶまでにここで待っていてください! 私が確認してきますね』


「えっ? 何で? 俺も行くよ」


『念のためです』


自信満々な顔でそう言うと、マザーはギルドの中に入って行った。


「お……おい」


置いてけぼりにされてしまった。 マザーの言う通りギルドの前で待つだけでは暇なので壁に耳を付けて中の様子をうかがった。


すると、ギルドの中から声が聞こえてきた。


「姉ちゃん、娼婦の仕事ならここじゃないぜ? 何なら……どうだい? ワシが買ってやろうか?」


『いい加減にして下さい! 下品なのは顔だけにしてもらえませんか? 私はギルドに登録しに来たんです!』


あー、 言っちゃった。マザーの悪意の無い毒舌が出ていた。


「何だとーー? 俺の気にしている事を!」


危険を察知してギルドの中に入ると、2人の大柄な男がマザーへ詰め寄っていた。

周りには、ギャラリーが取り囲んで騒いでいたが入ってきた俺の風貌を見ると静かになった。


「お、おい……あの黒装束の男、異様な雰囲気じゃないか?」


「お前さー、何言ってるんだ? あんな風貌の奴なんて、この世界にはゴロゴロ居るだろう? ビビったのか?」


「はー? テメェに言われたかねーよ!」


勝手に喧嘩をし始めるギャラリーを掻き分けて騒動の中心へ向かう。


「もうそれくらいにしてくれないか? 大事な仲間なんだ」


「なんだぁ てめぇは? 物乞いなら他所でしな!」


大男が片手であっちへ行けとジェスチャーをしてきた。


「いや、まー色々と事情があってさ……」


「はぁ~? 何ぶつぶつ小声で言ってるんだ? コミュ障かお前は?」


大男が痺れを切らして詰め寄ってきた。


「これ以上騒ぎを起こすとライセンスをはく奪するわよ!」


声の方を見ると2階の階段から降りて来る銀髪の女の姿が見えた。


「私はここのギルド当主アナスタシア。嫌な気持ちにさせてごめんなさいね。女ってだけで下に見て絡んでくる輩が多いのよ」


アナスタシアは2人の男を睨みつけながら言うと、男達はばつの悪そうな顔をしてギルドから出ていった。


「貴方達、ギルドに登録したいの?」 

アナスタシアは舐める様に俺達を見てきた。


『はい、先程はありがとうございました。私達、生活の為にお金が必要なんです。ギルドに登録して報奨金を稼ごうと思ったんです』


周りにいる者達からクスクスと笑い声が聞こえてきた。


「貴女の名前は?」


『ラフシ―ルです。そして後ろに立っている方はエメス様です!』


両手いっぱい広げてオレを紹介する者だからこっちが恥ずかしくなった。


「ふーん……面白い組合せね。ここは種族、性別関係無く平等に登録できるのが売りなのよ。でもね、登録をしたからと言って直ぐに大きな仕事は請け負えないの。こつこつと実績を積んでギルドランクを上げる必要があるの。ランクに比例して報奨金もより多く貰えるという仕組みね。まぁ、例外もあるにはあるんだけど」


「例外?」


「そう、依頼主から直接指名があった時ね。ギルドは依頼主を尊重して指名された者を手配するって事。でも、殆ど無いから地道に頑張ってね」


俺達2人は無事にギルドに登録する事が出来た。

さぁ、仕事をするぞっていう気持ちだったけどこの日は仕事の依頼が無いらしい。俺達みたいは低ランク者の絶対数が多い為、仕事の取り合いになるとの事。先行き不安だな。



……2日後



「今日こそは仕事を取るぞ! 宿に泊まれるのは今夜までだ! 今日仕事が取れなかったら俺はマントを脱いで見世物になってやるぜ!その金でマザーだけでも宿屋に泊まれるようにするからな!」


気合を入れて開店と同時にギルドに入り、貼紙された求人を探す。この世界の字はおおよそ日本語に近いのか求人内容を理解することは容易だった。 


ある! 俺達でも出来る仕事が! それも何件も! 


「マザー! 依頼があるぞ! 急げ!」

他のランク者も殺到し求人の貼紙の取り合いになった。


よしっ、マザーは求人をゲット出来たようだ。そして残り2件の求人の貼紙。

”生徒の送り迎え依頼 報酬1万/日ゼアル” 

”魔物討伐依頼 報酬20万ゼアル”


貼紙を取ろうとしたら違う方向から同じタイミングで手が伸びて奪っていった。


「悪いな黒ずくめ野郎! 魔物討伐依頼は俺が貰うぜ? オメェには子守がお似合いだ」


「……」


こいつ……あの時、マザーに絡んでた奴か。一回しばき倒すか? いや……やり過ぎそうで怖いからやめておこう。


「何だー? 文句1つ言えないのか? 良い女連れているのに情けない奴だな。何なら俺が女の面倒見てやろうか?」


「いやー 俺、ヘタレで魔物討伐何て怖くて出来ないっすよ。こっちは子守を頑張るんで気になさらず」


「ちっ、 ヘタレが」

男はぶつぶつと言いながら去っていった。


「……マザー、どうしてそんなに笑顔なんだ?っておい! やめろ」


『ヨシヨシ、我慢出来て良い子でしたね』

マザーは俺の頭を撫で撫でしてきた。


「……」


『あれ? 嫌でしたか? 良い事をした時は頭を撫でて褒めるのが良いと思ったのですが?』


「それは……相手が子供の時だけだー!」


『ご、ごめんなさい!』


ったく、悪気が無いからタチが悪い。少しずれていると言うか何と言うか。


「おほんっ! それよりマザーの依頼はどうなんだ?」


『私は家庭教師の依頼です。報酬は1.5万ダラ/日です。この世界でも受験戦争があるみたいですね』


「良い流れになって来たな! 明日から仕事がんばろうぜ!」


『はい!一生懸命頑張ります』


こうして俺達は仕事の依頼をゲットする事が出来た。

後は、依頼をクリアできれば問題ないんだが。

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