第44話 予予

ルーシャは見下ろして俺の返答を待ち、俺もルーシャを見つめ返し、どう対応したら良いか頭をフル回転していた。


傷もすっかり癒えたみたいで良かった……ってそんな事考えている場合じゃ無い。

まずい……まずいぞ、王女の要望を断れるはずが無い。断ったら場がしらけ、下手したら参加資格を失ってしまうかもしれない。


バレないように声を変更するか。


アプリ オンセイモード センタク


▶︎ロウジン オトコ

 ロウジン オンナ

 ワカイ オトコ

 ワカイ オンナ

 コドモ オトコ

 コドモ オンナ

 ハスキーボイス

 コエガワリマエ オトコ

 コエガワリマエ オンナ


よしっ、これを選択したら絶対にバレないぞ。


▶︎コエガワリマエ オトコ

 

「分かりました。ただ、幼き頃に顔に大きな怪我をして醜い状態なので常にこうして顔を隠しているのです。しかし、ルーシャ王女がご所望されるならば断る理由がありません。ただ、王女に不快を与えなければ良いのですが……」


そう言いながら俺は兜に手をかけた。


「もう良いです。無理をさせてごめんなさい。オムライス殿はずっと顔を隠して苦労はないですか?」

ルーシャから意外な言葉が出た。


「私は大丈夫、慣れてますので」


「慣れている……ですか」

ルーシャは暫く俺を見ているようで見ていない遠い目をしていた。


「今大会のオムライス殿の健闘を願ってます」


ルーシャは最後にそう言うと、大きく溜息をつきクルッと後ろを向くと、小刻みに肩が震えているのが見えた。

明らかに笑いを堪えているのが分かる。声変わり前の俺の高い声が原因だろう。

さすが王女と言うべきか。俺なら我慢出来ずに速攻笑ってしまう自信がある。


去っていくルーシャ達が何やら喋っている。

気になったので盗み聞く事にした。


アプリ マイクモード


「残念ですが、彼はこの剣術大会には参加してないようですじゃ」


隣の髭爺がルーシャへ気になる事を喋っている。


「そうみたい。もしかしたら最後に挨拶した彼が……と思ったけど声が全然違うしオムライスというふざけた名前なので論外。でもね、私は彼を見つけるまで絶対に諦めないわよ」


「分かっておりますじゃ。彼は我が国を救った英雄。そして、ルーシャ王女の婚約者。必ず探し出しますじゃ」


「それにしても……多くの剣士が居るから少しは心ときめく者が居るかと思ったのに……私の心は全く震えなかった。あーもう、彼は何処にいるのよ!」


「ルーシャ王女、感情が表に出てしまってますじゃ!」


「いっ、行きますわよ!」


二人の会話で聞こえた彼って……千歩譲っても俺の事じゃないか?

ルーシャは俺がこの剣術大会へ参加しているかもしれないとわざわざ来賓で来たのか?


まさかな……考えすぎかもしれないが用心に越した事はないな。


こうして、波乱の開会式は終了したのであった。



「いやー、ルーシャ王女から直接頑張って下さいと言われましたよ。あんなに透き通る程美しくて高貴なエルフを見るのは初めてですよ。俺、優勝したら意を決して求婚してみようかな?」


ペゴンタが妙にテンションが高くなっていた。

止めとけ、ルーシャの上っ面に惑わされるなよ、と思ったが当然口には出さなかった。



この剣術大会には予選の予選がある。

開会式で闘技場に入れなかったワンチャン狙いの下級剣士達がこぞって参加していた。


そして俺は……何故かその参加者達の一人になっていた。


以下、回想


「オムライス、すまない。戦績の無いお前は特別待遇は出来ないと主催者側から言われてしまった。だから予選の予選から出場をしてくれ。なぁに大丈夫だ。お前の実力なら何とかなると思うわ」



と、アナスタシアに笑顔で予選の予選に送り出された俺。


参加者達は剣士というよりかは、ただのゴロツキと言った表現が正しいかもしれない。

選別で処分されてないのだから犯罪者では無いと思うがグレーゾーンっぽいな。


予選の予選の参加者は計100名。

ABCDEと五つのグループに分かれ、各20名が闘技場の中で同時に戦い、各グループ最後に立っている者一名が予選出場出来るというバトルロワイヤル形式だ。


予選会場は闘技場の武道場ではなく、横にある建物の中にあった。


武道場は八つある為、五つのグループが同時に始める形式だった。


オムライスこと、俺は他の参加者達と同じように武道場へ登った。

戦いのテーマは目立たず、ギリギリで何とか勝った感をアピールする事


20名が闘技場に押し込まれる。周りは早く始めろと言わんばかりに殺気立っていた。

そして、審判が一連の説明をしてバトルロワイヤル開始。


「おら、モブ野郎! 先ずはお前からだ!」


いかつそうな大男が剣を振りかざしてきた……



「Eグループ予選の予選突破はオムライス!」


我ながら最高の演技が出来たと満足しながら、最後まで演技を抜かりなくフラフラしながら闘技場から降りる。


「オムライス、結構やるじゃないか!」


応援に来ていたペゴンタが駆け寄ってきて手で俺の兜をわしゃわしゃして喜んできた。


……ったく、でも悪い気持ちはしなかった。


各グループのバトルロワイヤル後の印象。


A→実力拮抗 メガネ男がなんとか通過

B→巨人の様な男が圧倒的な力で通過

C→学生っぽい男が華麗に通過

D→狂気じみた奴が会場を血に染めて通過


予選の予選を通過した俺を含めた5人に、本予選参加者123人の計128人が八つのグループに別れ、上位二名が予選突破してベスト16に残る形式だ。


ここからが本番だ。出来ればファクとはベスト16以降の本闘技場で戦いたい。そう願いながら予選の組み合わせを待った。

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