第36話 無償
2階の連絡通路を渡った俺は、礼拝所に到着すると入口と思われる木製の大きな観音扉があった。
後ろから1,2匹の反応したと思ったら観音扉の前に立ち塞がった。
見た目は……もちろん気持ち悪い。 蜘蛛みたいな魔物で左右に小刻みに揺れながら俺を威嚇してきた。
「ギィィィ!」
俺は背中に刺した剣を抜き構えて集中する。
丁度いい剣の練習相手になるな。アプリ無し、剣のみで何処まで戦えるか試したかった。
俺の基本戦闘力は低い。それが向上できたら、もっとアプリを有効活用出来ると思ったからだ。
「来い!」
2匹同時に襲ってきた。
1匹は左、もう1匹は右からだった。
左から来た攻撃を屈んで避けるが、右から来た攻撃をまともに受ける。
生身なら重症だな。そう思いながら起き上がり、集中して剣を構える。
誰かが言ってたな、見るのでは無く観ろ。聞くのでは無く聴け、だっけか?
まぁ、そんな事分かるはずがないが。
ブシュ!! ブシュっ!!
魔物は頭から真っ二つになり消滅した。
これは、メッチャ気持ちいいぞ! 漫画の主人公になった気分だ。思い描いた通りに動ける。
2度目で相手の動きを把握し、3度目で相手の攻撃を避け、4度目で攻撃を与え、5度目で避けながら攻撃
6度目で真っ二つにしていた。
いかんいかん、感動してる場合じゃないな!
そのままの勢いで観音扉を開けると目の前一面に蜘蛛の巣が張り巡らされ、よく見ると生徒達が絡まって動けなくなっていた。
糸の隙間から魔物が一斉に飛び掛かって来るが、それを次々と切り倒していく。
俺は生徒達を助ける為に張り巡らされた糸を次々と綱引きの要領で引き千切っていった。
良かった。どの娘も生きているな。
礼拝所に居る全ての教師、生徒達を糸から解放した。
開放された生徒達はお互い抱きつき泣いて喜んでいた。
あれ? ミアが居ない。開放した中にミアが居ない事に気付く。
「教えてくれ! 俺の知っている生徒が居ないんだ! 他に居ない生徒はいるか?」
生徒達はお互いの顔を見て何やら喋っている。
「ミアさんが居ません? 他は全員無事です」
「あの娘が行きそうな場所は?」
「分かりません。私達、仲良くなかったというか。あの娘、協調性が無かったし、それに声が小さいから何言ってるか分かんないし」
生徒達はお互いの顔を見合わせて遠慮がちに言った。
だろうな。
思わず声に出して賛同しそうになる。
だが、もし誰かが見つけられるなら、それは俺だけだ。それだけは確信できる。
俺は礼拝所を出て、行ってない場所を隈なく探す。途中魔物が何回か襲ってきたが難なく撃退するが、
生物反応無し。温度反応無し。助けを求める声も無し。
建物全てを探した。なのにミアが何処にもいない、一体どこに居るんだ?
「ギギィィィィイ」
本当に何処にでも出てくるなこの魔物は? ん? 何処にでも?
「アプリモード ステータス」
シュゾク : クモカ
ネンレイ : 30
セイベツ : オス
セイカク : ムレル
トクセイ : クライトコロ、ジメジメシタトコロヲコノム
ジャクテン : オナカ
特性が暗い所を好むか……建物には居ないという事は……まさか地下か? 穴が掘ってあるとか?
俺は急いで一階に戻り探すが巣穴のようなものは見つからない。地下はソナーが反射して役に立たない。
どうする? 一刻の猶予もないぞ。せめてミアの声が聞こえたら場所が特定出来るかも知れないが。
シンプルだがあれをやるか。
「アプリ スピーカーモード ボリューム&マイク MAX」
スー と大きく息を吸い込んだ。
「ミアーーーーーーー!! 何処に居るんだーーー!! 返事をしろーーーーー!!」
学園の窓ガラスが俺の声量で割れそうなほどガタガタと震え出した。
どうだ? 俺の声はミアに届いたか?
暫く待つがミアの声は聞こえない。
くそっ、駄目か……
「……て……たす……け……て」
微かにミアの声が聞こえる。集中しろ、何処から聞こえてくるんだ?
「……たすけて……お願い……死にたく……ない……助けて……暗い……寒い」
礼拝所の下の方からミアの声が聞こえる。地下室があるのか?
急いで礼拝所へ戻り地下室を探すがそれらしき入口は無かったが、外階段へ続く扉を発見しその扉を開けてその扉を開けて外を見た。
?!
「これは……」
表からは気付かなかったが、25メートル四方の広場が見える。そして、真ん中にポッカリと大きく開いた穴。
俺は躊躇なく穴の中へ飛び込み、ミアを呼び続けた。
すると、穴の奥から親玉みたいな蜘蛛の魔物が俺に蜘蛛の糸を巻き付けてきた。
おっ? 蜘蛛の糸が身体に巻き付いて動けない。
すると、魔物が大きく口を開いて俺の身体ごとかぶりついたて飲み込んだ。
魔物の中はヌメヌメとした消化液で充満していたが、石化の身体には関係ない。
ザクザクザクザクザクザクザクザクザク!
魔物の腹の中で休むことなく剣で切り刻むと、親玉の魔物は天井を呻きながら崩れ、長い足を縮めて絶命した。
親玉の腹を破って、残りの小物の魔物を切り裂き、巣穴にいた魔物を全滅させた。
ミアは糸でグルグル巻きにされ、顔だけが出ている状態で見つかった。
食料として生きたまま保管されたようだ。
「直ぐに糸を取り除いてやるからな」
「貴方……誰?って石像? 石の化け物? きゃあーーー、私を食べるのね! こっちこないでーーー!」
しまった! さっきの化け物の腹の中で来ていた服が溶けてしまったみたいだ。
ならば、仕方ない!
ミアをグルグル巻きにした糸を取り除き彼女を抱えると素早く穴から飛び出し、人気のない校舎裏の場所でミアを解放した。
「他の生徒は皆無事だ。ミアも正門へ行って生存している事を知らせてやれ」
俺はミアから立ち去ろうとする。
「待って! どうして私の名前を知ってるの? それにもしかしてその声……エメス……なの?」
「……」
「やっぱりそうなのね! どうして私を助けてくれたの? 私は貴方をクビにしたのよ! なのにどうして?」
「別にお前だけを助けた訳じゃない。他の生徒を助けている内にたまたまお前がいたから助けただけだ。この学園は金持ちのお嬢様が多いだろう? 上手くいけばたんまりお礼を貰えるからな! あっ、お前も、母親に伝えてくれよ? エメスが助けたからお礼をしてあげてってな!」
俺はミアの方へ振り返り冷徹に良い放った。
「最ッ低!」
ミアは軽蔑の目をしながら言い放つと正門へ走っていった。
素直じゃないな……俺って。
校舎裏から正門を見ると、生徒達とその両親が抱き合って再開を喜んでいるのが見える。
さて、この石像の格好のままじゃ学園から出られないな.... そう思いながら身を隠せる物を探すと、誰かが脱ぎ捨てた鎧を発見した。
ガチャガチャガチャ
取り敢えずはこれでいいか。正門は人目につくので、真裏にある壁をよじ登り外へ出た。
「学園の全生徒を助けた英雄がこそこそと裏から出ていくの?」
目の前にはニッコリと微笑んだアナスタシアが俺を見ていた。
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