第20話、夏がスタート

「───えー、ということで、明日から夏休みだが、決して羽目を外し過ぎないように」

 担任がそう言うと、教室中が沸く。学期という長く苦しい戦いを生き抜いた少年・少女たちの雄たけびが轟いた。そんな中、貞男はぐったりしていた。

 彼が力尽きるのも仕方がない。たった数週間の内に地球の命運を賭けた戦い(?)に身を投じたり、ゾンビパニック映画のような体験をした。SMプレイで縛られたり、叩かれたりした。そして訳の分からないままおかしな夢を見た。

 【貞力】を操る術を手に入れてからは多少頑丈な身体を手に入れた貞男だったが、身体に残った疲れと痛みは未だに残っていた。

「貞男―!! 夏休みだってー!! 遊ぼう遊ぼう!!」

 机に突っ伏している彼を、アカネが激しく揺さぶる。その姿を見て不敵な笑みを浮かべる男が一人居た。

「やぁやぁ、君たち!! 夏休みに遊ぶのも学生の仕事、そうだろ?」

「忠成くん、今はちょっと……」

 そこに立っていたのは貞男の数少ない友人の槍山忠成だった。彼は貞男の疲れた顔に対して、得意げな顔をした。

「俺も別に、今日や明日の話をしてる訳じゃないさ。一週間後の予定は空いてるか?」

「それは……知ってるでしょ。ボクに夏休みの予定なんてある訳ないって」

「紅葉さんはどう? 予定空いてる?」

「貞男と遊ぶくらいしか無いから大丈夫だ!! どうせレイコも暇だから誘おう!!」

「頼もしいぜ!!」

「さ、さすがに高嶺さんは忙しいんじゃないかな……」

「旅のしおりも作ってきたから読んどけよ。必要なものもしっかり準備しとけよー」

 槍山は分厚い旅のしおりを貞男の机に叩きつけた。その1ページ目には必要なもののチェックリストが記されていた。

「貞男!! 早速買いに行こう!!」

「……結局、今日からには変わりなかった……」

 アカネは貞男を引きずるようにして教室から連れ出した。


 街で一番大きなショッピングモールにやって来た。アカネの圧倒的な行動力で、いつの間にかいつもの三人が揃っていた。

「……で、槍山くんの用意した夏休みプランのためにここに来た、と」

 ショッピングモールまで何も聞かされずに連れてこられたレイコは呆れた顔をした。

「まぁ、1週間後ね……特に予定は無いから行ってあげてもいいわ」

「高嶺さんが良いなら……」

「まずはお菓子!! お菓子買おう!!」

「アカネ、落ち着いて……多分最初に買いすぎて他の荷物の邪魔になっちゃう」

「あら、鬼童くん。あなたが全部持てばいいから大丈夫じゃない?」

「そんなぁ……」

「まぁ、いいわ。とりあえずチェックリストの一番上から調達していくのが一番確実でしょう、一番最初は……」


 貞男たちは洋服店に来た。なんでも揃っていると評判の品揃えの良い店では夏セールが行われていて、洋服以外の夏モノが勢揃いだった。三人は目当ての物をいくつか買ったが、さすがに持ちきれそうになかったので、各々の住所に郵送することにした。

「次は水着だ!! 貞男、可愛いの選んでくれ!」

「わ、分かった分かった……」

 アカネは次々と貞男に水着を見せつけていく。露出が多い物から少ないものまで、様々な水着に着替えて試着室のカーテンを開ける。

「どうだ!!」

「可愛いね」

「どうだ!!」

「そ、それはちょっと過激すぎないかな」

「どうだ!!」

「いい!! すごくいいよ!」

「これは、これは!!」

「凄い!! 何でも似合う」

「なんなのこの二人……早く決めたら?」

 アカネと貞男が水着を選んでいる間にレイコはすでに水着を注文していた。アカネは結局どの水着にしたかは貞男に伝えず「内緒!!」と言って水着を注文した。

 その他の買うべきものを全て買って、アカネのお菓子を買った。それはもうとんでもない数のお菓子だった。その全てはレイコのクレジットカードから支払われた。

「レイコ、ありがとう!!」

(ま、また私が全額払うのね……)

 アカネの屈託なき笑顔にはレイコも逆らえないのであった。

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