第16話、お前の名前、ちょっとおかしいよ
「よく来たね。少年よ、少女たちよ。まぁ、ここまでは想定通りさ」
スポットライトが僕たちを照らし、目の前の人影にもスポットライトが投影される。
そこには中性的な身なりの【サキュベーター】が居た。紫の混じったタキシード姿で一見すると男性のように見えるが、その細い体つきは女性的でもあった。胸のポケットには白いハンカチに赤い薔薇、整った身なりはまるで何かしらの興行の司会者だった。
「楽しめたかね? ワタクシのエンターテイメント、最高のショウは?」
「ベッドの上で相当苦しそうにしてたわよ」
「ソーダソーダ!! ワタシの友達に酷いことするなんて許せないぞ!! えーっと、誰だっけ?」
「はー、やれやれ……ワタクシの名は『ラテ・フラペチーノ』、よく『ラティアーノ』と呼ばれているよ、呼びにくかったらそちらの方でどうぞ」
ラティアーノはアカネに名前を忘れられていたにも関わらず、そこまでショックの表情を見せずにほくそ笑んだ。
「あの……ラティアーノさん?」
「なんだい?」
貞男はあまりに見たことのないタイプの人物なので、若干人見知りを発動させながらラティアーノに質問した。
「ボクが今まで見させられてきた夢は、本当にあった出来事なの? それとも……」
「やぁやぁ、そんな無粋なことを言っちゃうようなショウ・マンには仕事は回ってこないさ。ワタクシは生粋のエンターテイナー、最高の興行師、大人気のスーパースターさ。ここから先はネタバレ厳禁。観客には最高のショウを見せてあげないとね」
真っ暗闇だった空間が、光に包まれる。眩い光に目を晦まされた三人が瞼を開くと、そこにはテーマパークが広がっていた。
「なにこれ……遊園地かしら?」
「テンション上がるな!!」
「アカネ、駄目だよ……罠かもしれないから遊んじゃ駄目……」
そう言いつつも、ちょっと遊びたい貞男だった。
「ククク……いいとも、遊べばいい。ワタクシは人が遊ぶのを邪魔はしないさ。罠なんて仕掛けようとも思わない。さぁ、存分に、遊んで」
「ワーイ!! ヤッター!!」
「待ちなさい、紅葉さん」
メリィゴーランドの方に向かうアカネの肩をレイコが掴む。
「罠じゃないにしても、戦闘せずに遊ばせるというのはなんだか奇妙だわ。時間稼ぎか、或いは……」
「能力発動の条件か、だね」
「……鬼童くん、夢の中だと頭良くなるの?」
「へへ、それほどでも……」
「失礼だぞ!! 貞男はいつでもアタマいい!!」
「へへ、それは嘘……」
遊園地で遊ばずにいると、空から巨大な映像が投影される。スクリーンも何もないはずの場所に、巨大なラティアーノが登場する。
「これは、ホログラムかしらね」
「ククク……そちらからワタクシのショウ・タイムに乗ってこないのはすでに想定済みよ……では、こちらから、あなた方を最高のショウに招待しようではないか」
「ロシューツ・ミッドナイト・タイーホ───」
「───見せつけろ、エネイロイ!!」
映像越しの彼女が【夢の神々】を召喚すると、目の前にあったメリィゴーランドが本物の馬のようにこちらに走ってきた。
「ワワッ!! あれは偽物の馬じゃなかったのか!!」
「ええ、偽物よ。だからいくらでも壊していいわ」
二人でメリィゴーランドの馬たちを破壊していく。貞男は周囲の警戒をしながら【貞力】を解放した。
「アカネ!! 後ろからどでかいの来てる!! そっちに行って!!」
「……!! 分かった!!」
後ろから観覧車が車輪のように回転してこちらに向かってくる。さらにはありとあらゆる絶叫マシーンが襲い掛かる。アカネはとりあえず巨大な絶叫マシーンを【破壊の鎚】で粉々にした。貞男はレイコが苦戦しそうになるとメリィゴーランド、アカネが苦戦しそうになると絶叫マシーンに攻撃を加えた。
「鬼童くん、なんであのムチで戦ってるの」
「えっ、強そうだったから……」
「貞男!! こっちも頼む!!」
「うん!!」
三人で次々と敵を薙ぎ払っていくが、敵の攻撃は全く衰えない。夢の世界なので疲れはしないが、全く埒が明かない。その様子を見てラティアーノはほくそ笑んだ。
「ククク……時間ですね」
「うなっ……!!」
「まずい……!!」
真正面からの攻撃に気を取られていた三人は、上からの攻撃に気づかなかった。上空から黒い矢が降り注ぎ、防御態勢を取れなかったレイコとアカネは被弾した。そして、二人は地面に突っ伏した。
「ふ、二人に何を!?」
「フフフ……これからそこの少女たちには淫夢を見てもらうのさ。とびっきりの、ね」
彼女は不敵に笑った。
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