第15話、救いはある!
───そこは、死の世界だった。天国でも地獄でもない。ここが本当の死の世界だ。痛みと苦しみ、痛みと苦しみ、痛みと苦しみ。
僕は解放されることなくそこで回り続けている。
ありとあらゆる苦しみをここで受けている。
ここは、煉獄。神様なんて居ない世界の煉獄だ。誰も罪なんて赦してくれないし、そもそも罪なんてものは関係ない。死の苦しみからは永久に開放されることは無い。
僕は死んだ。あの日、空から何かが降りてきて、全てを飲み込んだ。僕を、僕の家を、街を、世界を、滅ぼした。
移送される。僕の魂が、より過酷な8の部屋に移動する。無限の世界、無限の苦しみ、何もかもが完結しない苦しみだけの世界。
死者の声が聞こえる。恨み、憎しみ、後悔、ありとあらゆる負の感情に圧倒され、身体を失った僕の魂が汚染されていくのを感じる。
いつの間にかあの鬱陶しいチクタクという音も止んでいる。ここは止まってしまった世界、もうここが動き出すことは───。
「鬼童くん、しっかり、気を保って!!」
「ヒャッハー!! 最後の一線をぶち破れー!!」
聞いたことのある声だ……。この声は、高嶺さん……? アカネ……?
───貞男は、自分の身体を見た。そこには見知った自分の手があった。足があった。いつの間にか、魂だけの存在ではなくなっていた。そして、目の前には制服姿の見知った顔が二人並んでいた。
「あーあー、聞こえるかなー? 若い三人衆よー」
「イロハさん……!?」
「あっ、貞男くんだー。どうやら意識が戻ったみたいねー」
「ボクは、一体……」
「ここは、貞男くんの夢の世界、何もかもが混沌としていて、自意識すら保つのが難しいのねー、どんな状況かは一応こっちからモニタリングしてたよー」
「ごめんね、鬼童くん。相当な悪夢だったみたい……三日間も放置することになってしまって、申し訳ないわ……」
レイコは貞男に深く頭を下げる。その背中をアカネが優しくぽんぽんと叩いた。
「高嶺さんは悪くないよ……。でも、三日間も寝ていたなんて、これはもしかして【貞器】の力?」
「そうね、弱ってる所を狙われたみたい、とりあえず状況の整理から始めるわ」
レイコはとりあえず、分かっている部分を全て説明した。
過酷なSMプレイによって気を失った貞男は高嶺家の病院に送られた。その後目を覚まさなかったため念のため『お母さま』……、イロハの【貞器】の力で解析したところ、どうやら【貞器】による干渉を受けているのではないか、という結論に至ったようだ。
イロハは急ピッチで夢の中に入る装置を製作、【貞器】の干渉による夢なので、精神への介入は必要なく、【貞器】そのものへの介入だけで充分だということだ。本来【貞器】に送られていたはずの貞男の意識は装置に移され、その装置の中に二人の意識を送り込んだため、この夢の中に二人が入ることができたのだ。
「いい? 鬼童くん。ここからはあなたに攻撃してくる『悪夢』との戦いよ」
「貞男くんの夢をハックするよー。9番目の部屋に入るねー」
「貞男!! 準備は出来てるか??」
「うん……行くよ」
ザザーッ!!
空間にノイズが走る。世界が回転し、反転し、暗転する。飛び込む。進んでいく。手を取って、取り合って、進んでいく。
貞男たちは様々な苦難を乗り越えていく。それらは彼がこの場所で体験したことや、実際に経験した記憶のある苦しみだ。誰にも声を掛けられず、誰からも見向きされなかった時代の貞男、そしてここで初めて味わった苦しみの記憶。その全てを切り裂いていく。
「とりゃーッ!!」
「おいしょー!!」
物理的な斬撃や打撃が、全てを打ち砕く。
「そろそろ次いくよー」
ザザーッ!!
空間にノイズが走る。世界が回転し、反転し、暗転する。飛び込む。進んでいく。闇を抜けて、しがらみをぶち壊して、進んでいく。
10番目の部屋では、貞男の幸せな記憶が流れていた。前に進むほど、その記憶は遠ざかっていく。しかし、貞男は後ろを振り返らない。封印されていた過去の記憶より、今の日常が好きだから。もしそれが夢でなく、本当に起きたことであったとしても、だ。
前に進む。振り返らない。そのまま進んでいく。すると何もない真っ暗な空間に到達し、そこには「11」と書かれたドアが置いてあった。
「みんなー、気を付けてねー。そのドアの向こうから強力な力を感じるよー」
「準備はいい?」
レイコが二人に確認すると、貞男は首を縦に振り、レイコは親指を立てた。
ガチャッ!!
11番目のドアが開かれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます