第17話、敗北のレイコ

 鬼童くんが何者かに捕まった。放課後の帰り道、彼からのメッセージを開くと、そこには指定の場所が書かれていた。私はそれを見て即時に状況を把握した。誰が彼を捕まえたのかは分からないが、これは私をおびき寄せるための罠だろう。しかし、それが分かっていてもなお、彼を助けに行くのは当然だと思った。地球を守るためには彼の【貞器】と【童貞】は必要だし、何よりも仲間を見捨てることなんてできないから。

 街の郊外にある廃工場、ここは広大な敷地を誇っていたが、資金繰りの悪化により倒産した会社の土地だった。周辺の社宅や宿舎からも人が居なくなってしまい、土地の買い手もつかずに放置されたゴーストタウン、ここは犯罪の温床となっており、助けを呼んでも誰も来ない、そんな場所だった。

 私は指定された場所に移動した。

「……鬼童くん!?」

 そこには椅子に張り付けられている彼の姿があった。目隠しを付けられていて、口には猿轡がはめられている。不幸中の幸いなのだが、彼は拘束されるだけで他に外傷を負っていないようようだった。すっかり安心した私は、後ろから忍び寄る男たちに気が付かなかった。

「なっ……!!」

 首元に注射を打たれる。すると、身体から力が抜け、へたりと倒れそうになる。私の後ろに居た男は不躾に、私の身体を支えた。

「おいおい、おじょうちゃーん?? 警戒心が足りないんじゃないのー??」

 不覚だった。普段なら絶対に気づくはずの背後からの一撃、判断力の低下が命取りとなった。何故判断力が低下したのかは私にも分からない。鬼童くんが怪我無いことを確認したから? どうしてその程度のことで……。

「グヘヘヘヘヘ……」

「お前が高嶺家のお嬢ちゃんかー!」

「上玉じゃねえか」

「おっほ、エロすぎんだろ」

「一発目、いっていいか?」

「駄目だって、リーダーが一番槍って決まってんだろ」

 私の周辺に、下衆な男たちが集まる。年齢は20代~30代くらいで、チャラついた金髪の男、スキンヘッドの男、モヒカンの男、太った男、そして……。

「おう、捕まえたみたいだな~。よくやったぞ、お前ら」

 目を疑うような巨漢がそこに現れた。身長は2メートル……それ以上あるだろうか、さらに肩幅は私と鬼童くんのそれを足しても勝てない程広く、脚の太さはアスリート以上で、腕もヘヴィー級ボクサーを凌駕するような太さをしていた。

 勝てる訳が無い。万全の状態で【勝利の槍】を使ってようやく勝てるような相手に対し、今の私は力を奪われ無力な状態だった。鬼童くんの【貞器】があれば状況を打破できるかもしれないけど、口を塞がれている状態ではどうしようもなかった。

 それに、彼からはその強さだけではない、圧倒的な何かを感じる。女として、彼に逆らってはいけないと、本能が訴えてくる。私は本能に逆らい、強い目で彼を睨んだ。

「ほっほーう……。良い目をするじゃないか」

「黙りなさい……!!」

「マットの準備は出来てるだろうな、連れていけ、まだソイツの目隠しはつけたまんまだぞ」

「は、離しなさい……!!」

 男の部下の下衆たちが、私の脚を、尻を、胸を掴んで運んでいく。すると、鬼童くんの前に敷かれたベッドに使うようなマットに放りだされた。

「きゃっ……!!」

「ムゥーーーーーー!! ムゥーーーーー!!」

 椅子に縛り付けられた鬼童くんが必死に声を出そうとする。しかし、猿轡で封じられ、手足を縛られた彼にはなすすべが無かった。

「そこで見とけ、いや、聞いとけよ。お前の女が、女になる声をな───!!」

「ングウウウウウ!! ヌゥウウウウウウウウ!!」

「下衆め……それに、私は私よ。誰の物でもないわ」

「おっと、まだ付き合ってた訳じゃないのかな? まぁ、どっちにしろ今日からは俺の物になるんだから、関係ねえけどな」

「なっ……!! ふむぅ……っ!!」

 男は私に乱暴なキスをする。口に舌を入れるだけではない、顔の全体を舐めつくすような気持ちの悪いキスだ。気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い……。気持ち悪いはずなのに、なぜか身体が反応して何度も腰を浮かせてしまう。

「……ぷはぁ!! どうだぁ、レイコォ? 気持ちよかったろ、俺のキスゥ……」

「気持ち悪いだけよ、本当に気持ち悪いわ」

 精一杯に強がって見せる。

「そんなことはねぇだろうよー? さっき打ったクスリには催淫効果が含まれてる。どんな不快な気分でさえ快楽に感じてしまう、最悪の媚薬だ……。これをくれた【サキュベーター】とやらには感謝しねえとな」

「なっ……【サキュベーター】!? 侵略者と手を組んで……この卑怯者!!」

「卑怯者でもなんでも構わねえさ。俺らはいい女とヤれて、自分の物にできりゃぁそれでいい。あいつらもお前を性奴隷にするくらいのことは許してくれたさ」

「このっ……!!」

 男は私の制服に手をかける。ブレザーのボタンを一つ一つ丁寧に外し、シャツのボタンも丁寧に外す。

「クヒヒヒヒ……じっくり、じっくりだ。じっくりお前を堕とすところをアイツに聞かせてやるよ」

「んっ……」

 男の太くて分厚い指が、ブラウス越しに伝わってくる。その見た目とは裏腹に、女慣れした優しい手つきで刺激してきた。

「ほぅら、気持ちいだろう。それ、ここと……ここと……ここはどうだ?」

「あんっ……んんっ……はっ……はっ……き、気持ち悪いだけよ」

「そっか、そっかー……じゃあ、こっちの方も行くかー」

 男は全身が敏感になった私の身体を弄ぶ。しかし、一番敏感な部分は避けて、下半身の愛撫に移った。

「クヒヒヒヒ……残念そうな顔をしたな。しただろ、レイコぉ……」

「んんんんっ……そんなことないわ……はぁ……はぁ……」

「お前の身体が欲しがるようになるまで、苛めぬいてるよ」

「……言ってなさい、私は絶対に負けないもの」

 快楽に負けないように精神を集中させる。全身がしきりにびくびくと震えているが、彼は私が求めるまでは無理やりには犯さない、そういうポリシーがあるらしい。馬鹿馬鹿しい、そんなもの、薬の効果が抜けるまで我慢すればいいだけじゃないの。私が負ける訳が無い。

 男は私の身体をねっとりと舐る。ねっとりと、薄い布の上から刺激を与える。わずかに露出した肌に刺激を与える。男を喜ばせないように、そして何より鬼童くんに心配をかけないため、声を押し殺す。しかし、それでもくぐもった声がわずかに出てしまう。

「んっ……ふぅ……はぁ……はぁ……」

「あれれ~レイコぉ~~~もうそろそろじゅくじゅくで、限界になってきたんじゃないの~? 降参したら、すぐに気持ちよくさせてあげるぜ~」

「黙れッ……!! はっ……はぁ……」

「う~ん、まぁ、いいや。じゃあ、今まで溜めてきた快楽、解放するスイッチ押しちゃうぜぇ……カリカリカリカリ~~~!!」

「何をっ……!! んくっ……ひゃああああああああああぅん!!」

 男は今まで触っていなかった所を、指の腹で転がし始めた。今までに感じたことのない快楽が一気に駆け上る。そして、すぐに頂点に達しようとしたが……。

「はい、ここできゅうけ~い」

「んきゅっ……!! にゃ、にゃにを」

「トロトロになって可愛くなっちゃったね~どう? 屈服したくなった」

「ま、まけにゃい!! わ、わたしは……!!」

「じゃ、ぁー……屈服するまでやっちゃおっか! す ん ど め……!」


 そこからは地獄だった。何度気持ちよくなっても、最後まで気持ちよくなれない。指を使い、舌を使い、絶妙な力加減で私というものが転がされていく。何度も、何度も、我慢した。私は負けない、私は負けない、そう言い聞かせてきたが、ついに、限界が来てしまった。

「これがラストチャンスだよ、レイコ……さぁ、言ってごらん」

 男が私に囁く。そのわずかな刺激だけでも達しそうになったが、疼いた身体はその程度では収まらなかった。

「ひゃ、ひゃい……こうしゃん……こうしゃんします……。きどーくん、ごめんね……わひゃし、まけひゃったぁ……」

「クヒヒヒヒヒ……完全に堕ちたな……これでお前は俺の女だ……。おい、そこのソイツの目隠し取っていいぞ」

 鬼童くんの目隠しが外される。血走った目が、勝者と敗北者を見つめる。男は汗だくになった私の制服を剥ぎ取り、生まれたままの姿になった私を持ち上げ、彼に見せつけた。

「ムーーーーーーー!!! ム、ムムーーーーーー!!」

「そう興奮すんなって……これからお前には、人生でずーっと使える、最高のオカズを上げるんだからよ~」

 駄目、駄目、駄目……でも、もう……。ごめんなさい……ごめんなさい……。

 ───私の花は、散らされた。

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