第18話、アカネの欲望

 今日は貞男の家に遊びに来た。貞男と遊ぶのは楽しい。貞男は色んなゲーム知ってるし、この星の色んな文化を教えてくれた。ワタシは別に貞男の【童貞】とかそういうものに興味無いけど、貞男のことが大好きだから、使命なんて忘れて一緒に居たいんだ。

「貞男―!! 次は何して遊ぶかー?」

「うーん、そうだね……。地球の映画って見たことある?」

「……!? 無いな!!」

 貞男はワタシにストリーミング? とかいうものを教えてくれた。録画してない映画も好きなだけ見れるらしい。

「じゃあ、アカネ、見たい映画を選んで、いつもみたいにリモコン使えばいいよ」

「うん!!」

「じゃあ、ボクはちょっとコンビニでジュース買ってくるね」

「ありがとーな!」

 貞男がコンビニに行ってる間に、映画を選ぶ。いつもは録画してあるアニメとかバラエティーを見せてくれてるけど、映画を見るのは初めてだ。

「ただいまー」

「おかえりー!!」

 貞男が帰ってくる。両手にはレジ袋があって、左側に「ポテチ」、右側に「コーラ」が入ってた。

「もう5袋くらい食べてるんだから、あんまり食べ過ぎないようにね」

 そう言いつつも、貞男は優しいから5袋分のポテチを買ってきてくれる。いつも優しいから、ワタシも貞男には優しくしてる。地球で友達ってどういうものなのか知らないけど、友達って多分そういうものだと思う。貞男がワタシに優しいと嬉しいし、ワタシが貞男に優しくしても嬉しくなる。

「そういえば、見る映画は決まった?」

「うん!! これとかどうだ?」

「ホラー映画だね。アカネは怖いのとか大丈夫?」

「へーきだ! 【サキュベーター】の仲間たちは怖いのばっかりだからな!」

 貞男は「なるほどね」と優しく微笑んで、小さいテーブルの上にポテチを置いた。コップにコーラを入れた。再生ボタンを押す。

「この仮面被ったヤツはなんだ?」

「ジョンソンだね。これはアメリカの映画シリーズなんだけど、スプラッター映画と言って───」

 また貞男が知らないことを教えてくれる。ワタシたち【サキュベーター】は、見た目は地球の女の子みたいだけど、全く違う星で育った存在。地球のことは何も知らなかったけど、知ってみると意外と楽しい。

「あっ……」

 映画の中の登場人物が「えっち」をしだすと、貞男は気まずそうに画面から目を逸らした。ワタシはまだ「えっち」をしたことは無かったが、【サキュベーター】にとって「えっち」は、別の星に居る生命体から【貞力】を奪う手段でしかない。その「えっち」を恥じらうという地球人の感覚はよく分からなかったが、うつむいてもじもじしてる貞男の姿は見ていて可愛かった。ワタシは貞男に、少し意地悪しようとして後ろから近づいた。

「なぁ───」

『イヤアアアアアアアアアアアアアアア!!』

「……!?」

「うわああああ!!」


ガッシャーン!!


 テントの中で腰をふってた全裸の男が、ジョンソンの武器で切り裂かれ、絶命した。傷口と口から血をぶわっとふきでて、びっくりした女が絶叫した。ワタシもさすがに「えっち」してる最中にそんなシーンがあるとは思わなくて、びっくりして貞男に抱き着いてしまった。ワタシに抱き着かれてびっくりした貞男は、テーブルのコーラをこぼしてしまった。

「ご、ごめん……」

「いいよいいよ、大丈夫! それより、アカネは服濡れてない?」

「ワタシは靴下だけだ、貞男は?」

「結構濡れちゃった……。シャワー浴びてくるね」

 貞男がシャワーを浴びに行く。貞男はそんなことしなくていいって言ったけど、ワタシは雑巾でこぼしたコーラの後始末をした。コーラなんて後でいくらでも飲めるのに、なんだか悲しい気持ちになった。

「戻ったよー、ってアカネ!?」

「た、ただいま……」

 気が付くと、涙があふれてた。ワタシはめったに泣かないのに、ぽたぽた涙が流れてくる。コーラをこぼした程度で、なんでこんなに涙出る。初めて貞男と見る映画を台無しにしたから?

「大丈夫、大丈夫だよ、アカネ……ボクはここに居るよ」

 貞男がワタシを抱きしめる。貞男の温もりを感じると、涙がおさまっていった。そうか、ワタシは寂しかったんだ。一人ぼっちが怖くなったんだ。

 地球には一人でやってきた。【性王】様に命じられて、「先遣隊」とやらだと言われたけど、その隊には一人しか居なかった。【サキュベーター】は他の仲間と群れないから、別にそれでもなんとも思わなかった。

 ワタシは貞男に会って、弱くなってしまったんだ。一人じゃ居られない。一人じゃ寂しい。貞男が居て、レイコが居る。友達というものが居る。だから、弱くなった。でもワタシはその弱さを捨てたくはない。もう少し、このまま───。


 ワタシは目を開ける。どうやら眠っていたようだ。窓の外を見るといつの間にか真っ暗になっている。

「これはなんだ……?」

 ひざ元に、毛布がある。ワタシが靴下を脱いだから、気を使ってかけてくれたんだと思う。貞男は優しいから、今はそんなに寒くも冷たくもないってことは関係なく、ワタシが地球の人間と違って丈夫だってことも関係なく、こういうことをしてくれる。毛布をかぐと、貞男の匂いが少しだけ残っているような気がした。

「ん……貞男……」

 私は小さな声で呟く。止まらなくなる。こんなことは初めてだ。貞男のことを考えてると、心臓がバクバクして、体の奥が熱くなっていく。ワタシはそれを知らなかった。それでも、本能は身体の熱さを鎮めるために、何が必要かを知っていた。

「貞男……貞男っ……」

 何度も、何度も、貞男の名前を呼ぶ。匂いをかいで、身をよじらせる。身体が熱いから上の服を脱ぐ。下着の中の手が止まらない。

「んっ……さだ……おっ……さだおっ……んんっ!!」

 びくびくっ、と身体を震わせて、ワタシは達した。

「あ、アカネ……?」

 忘れてた。ここは貞男の家だった。でも、ワタシは【サキュベーター】だから、自分を慰めてるところを見られたところで、なんともないはずだった。それなのに、何故か顔が熱くなって、さらに身体が熱くなって、なんかヘンだ。

「さだおぉ……もうだめだぁ……」

 泣きたい訳でもないのにまた涙が出そうになる。寂しくないのに胸が切なくなる。 貞男に汗ばんだ身体を押し付けて、手を握る。大好きなはずの貞男の顔を、直視できない。瞳を閉じて、抑えきれない気持ちをキスでぶつけた。

「んっ……ちゅっ……ちゅぱっ……ちゅ……」

「……ぷはっ!! だ、駄目だよアカネ!! んんっ……!!」

 抵抗する貞男を床に押し付ける。ごめん、もう止められない。

「駄目だ……って!!」

 ひっくり返って、貞男とワタシの位置が入れ替わる。

「アカネ、無理やりするのは良くないよ」

「だ、だって……もう我慢できない……」

「ベッド、行くよ」

「……へ?」

 突然、身体が持ち上げられる。貞男の顔がより近くに来て、ドキッとする。力強く抱かれて宙に浮かぶ感覚がさらにドキドキを強くする。


ドサッ


「ちゃんと、こういうことは順序だててやらないと」

 半裸の状態のワタシは、ベッドにそっと置かれた。脚と脚の間に入り込んだ貞男は乱れたワタシの髪をかき上げて、顔を覗き込んできた。

「アカネ、こっち見て」

「……恥ずかしい」

「ボクはアカネの顔見たい」

 貞男の手が顔に添えられる。恥ずかしいけど頑張って前を向こうとする。でも、どうしても視線だけちらちらと送ってしまう。それを見た貞男はじれったいと言って、ワタシの顎をくいっとして、キスした。

 そんなに上手いキスじゃない。そんなに熱いキスじゃない。普通のキスだ。唇と唇が触れるだけのただのキス。それなのに、貞男の気持ちが、私と同じ気持ちが流れ込んできて、胸が熱くなる。

「さだおぉぉ……」

「ようやく目が合った」

 恥ずかしいけど、貞男の顔を見る。必死な瞳がワタシを見つめている。貞男はワタシにもう一度キスした。さらに貞男は胸を掴んで太腿に指を這わせる。ワタシは身をよじらせたけど、完全に上を取られてるから、快楽の逃げ場がない。

「腰、浮かせて」

「うん……」

 ワタシは、貞男が脱がせやすいように腰を浮かせる。全部脱がせたときに貞男の顔が少し遠くに離れたのだけはちょっとだけ寂しかったけど、すぐに戻ってきてくれた。

「ここ、すごいことになってるね」

「言わないでくれ……恥ずかしい……」

「アカネのそんな恥ずかしそうな顔、初めて見た」

「ワタシだってこんなこと初めてだから、仕方がないだろ……」

 ワタシたちはもう一度キスをする。今度は舌を絡めた情熱的なキスだ。貞男の指が触れる場所もより直接的で刺激的になっていく。気持ちがさらに高まっていく。ワタシは両腕を貞男の首に回して、覚悟を伝えた。

「貞男……ワタシ、もう……」

「うん……いくね」

 ───ワタシは、その全てを捧げた

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