第19話、反撃の貞男

「あんっ……いやっ……やめてぇ……!! もういや……もういやぁ……!!」

「貞男……もっと……もっと欲しい……んんっ!! 大好きだ、大好きだ……!!」

 床に突っ伏した二人の少女がびくびくと震えながらのたうち回っている。苦しんでいるように見えて、その表情は恍惚としていた。その姿を見た貞男は思わず前かがみになったが、大きく深呼吸して目の前の敵を睨んだ。

「ふ、二人に何を……!!」

「ククク……先ほど言った通りさ、少年。この子たちには淫らな夢を見せている。ただそれだけのこと……」

「み、淫らな夢……!?」

「エッチな夢さ。ただのエッチな夢じゃない。本人さえ自覚していない、心の奥底に潜む願望……普通の性愛では達することのできない快楽の頂点を見せてあげてるのだよ」

 ラティアーノは不敵な笑みを浮かべて続けた。

「たとえば、そう……そこの少女。高嶺レイコと言ったかな? 彼女はどうやら敗北、というものを経験したことが無かったらしい。それが最近、敗北の味を知ったようだね……。初めて負けるということを知り、自分より強い存在がこの世に居ると知った。気高き精神が侵されるということを知った。もしも自分を打ち負かす相手が、彼女自身の尊厳を徹底的に破壊する下衆だったら……彼女は深層心理の中で、その結果を望んだのだよ」

「そんな……高嶺さんがくっころ性癖だったなんて……」

「次に、アカネくんだが……この子は【サキュベーター】であるにも関わらず性に無頓着で、性行為に対して知識だけしか持っていなかったようだね。非常にもったいない。しかし、彼女も地球に来て少しは変わったようだ」

「アカネが……?」

「鬼童貞男くん、アカネくんと随分仲良くなったようじゃないか。分かっているのかね、少年? 君と彼女は異種族、根本的に仲良くなることはできないのだよ」

「そんなことはない!!」

「そんなことはあるのさ。【サキュベーター】は世界各地の【童貞】を性的に貪って、【貞力】を奪っていく種族さ。ワタクシたちは本能的に、性を求める。友情なんてそこには無いのだよ」

「ボクとアカネは友達だ!!」

「その友達に向ける『好き』という感情が、全て性欲に置換されるとしても? 君の【童貞】を狙うのなら、奪うのなら、結局他の【サキュベーター】と同じじゃないか」

「アカネはそんなことしない!! ボクが望まない関係を、強要なんてしない!!」

「アカネくんの深層心理は、そう言ってないようだがねぇ……」

 二人の様子を見る。寝ているにも関わらず、嬌声を上げ続けている。

(一体どうすれば……一人でこの、夢の世界の主と戦うなんて……)

 貞男は悔しさを滲ませる。結局自分は一人では戦えないのかと、自身の不甲斐なさに腹を立てる。

(待てよ……でも)

 貞男はこの世界に来た時のことを思い出す。ここは【貞力】を無制限に使えるはずだ。この夢の世界はラティアーノの世界でもあり、彼自身の世界でもあったのだ。

「ククク……なすすべなく夢の世界で果てるがいいさ」

「そうとは限らない……目覚めろおおおおおおおおおおおおおおお!!」


シュイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!


 貞男の性杯の力が覚醒する。世界が反転する。夢の世界は、現実の世界になる。

「なにっ!? 世界のルールが……崩壊していくだと……!!」

「……ここからはイーブンだ。ラティアーノ」

「夢の世界が……敗れた」

 ラティアーノが形成した遊園地の世界は、そこには無かった。代わりにあったのは、貞男の作った結界だった。

「空き教室で高嶺さんが張った結界……見様見真似でやってみたけど、できちゃった……」

「んんんっ……なんか最悪な夢を見た気がするわ」

「ワタシは最高の夢だった気がするぞ!!」

「高嶺さん!! アカネ!! 気が付いたんだ!!」

 淫夢に囚われていた二人も目を覚ます。少し息は上がっていて脚も震えているが、なんとか立ち上がった。

「くっ……分が悪いがこの結界は強固すぎて破れない……ワタクシも万事休す、ですか」

「大丈夫、命までは奪わないよ。二人に酷いことをした分、痛い目にあってもらうだけ」

 貞男は、【断罪の鞭】で、ラティアーノにお仕置きをした。強烈な攻撃によって整ったタキシード姿はボロボロになり、彼女は意識を失った。

「結構やるじゃない。鬼童くん。エスの方の才能もあったのね」

「い、いや……プレイでやった訳では……」

「う、うわぁ……さすがに痛そうだぞ。やりすぎじゃないか?」

「ご、ごめん……ちょっとカッとしちゃって」

「そういえば、私たちは何の攻撃を受けたのかしら」

「き、聞かない方が良いと思う」

 それから二人に色々と聞かれた貞男だったが、何とかはぐらかして無事に家に帰った。

「た、大変です……患者が消えました!!」

……貞男が急に消えたため病院では若干騒ぎになったが、イロハが手を回してなんとか収まったという。

「いやぁ……私に一報くらいしてくれてもよかったと思うんだけどねー……若いみんなは、私なんかに興味ないんだろうねぇー……」

 人知れず、イロハは落ち込んでしまったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る