第34話、にゃーん(社会性フィルター)
そして、地球から飛び立って69時間が経過した。
「サダ!! 敵が来た、正面からだ!!」
「そろそろ月が近づいて来た、って訳ね。鬼童くん、やれる?」
「大丈夫、ボクはこのタイプのゲームを何度もやって来た……!!」
「が、がんばれ貞男!!」
アカネはコントローラーを握りたそうにウズウズしていたが、貞男の方が上手いので我慢した。
敵が迫って来る。見た目は貞男たちが乗っている【シッポリドッキリメカ】と同じで、円盤のような形をしている。
「大丈夫よ、鬼童くん。【サキュベーター】は人間と違って頑丈だから攻撃しても死なないわ。ひと思いにやっちゃいなさい」
「そうだそうだ!! 悪いやつはやっつけろー!!」
「ア、 アカネも【サキュベーター】じゃなかったっけ……」
「そろそろ射程に入るわ」
「よし……3,2,1,発射!!」
【シッポリドッキリメカ】に搭載されたミサイルが発射される。敵は回避行動を取ったが、驚異的な軌道で追尾してくるミサイルを躱しきれずに墜落した。
「敵機撃墜を確認、サダ、まだくるぞ!」
「鬼童くん、溜まった【貞力】を使ってレーザーを撃てるはずよ。薙ぎ払いなさい」
「蹴散らせー!!」
正面から敵が迫る。4機編隊の円盤をレーザーで一気に撃破すると、爆炎が暗黒の宇宙を照らした。後ろから来ていた別の編隊は攻撃を避けるために散開し、不規則な動きでさらに接近する。
「花火だ!!」
アカネが指をさしてはしゃぐ。
「見とれてる場合じゃないよ。ここは戦場だ!」
「鬼童くんにしては珍しくまともなこと言うのね」
「これに乗ってるのはボクだけじゃないから」
そう、【シッポリドッキリメカ】に乗っているのは貞男だけではない。アカネは【サキュベーター】のため船外に放り出されても生き延びることができるが、この宇宙空間で一人漂うのは可哀そうだ。そしてなにより、レイコは彼と同じ普通の人間で、撃墜されれば命は無い。貞男の握るコントローラーには三人の命運が託されていた。
「サダ、敵が二手に分かれてこっちに向かって来た! 右の編隊は俺がやるから左を頼む!」
「了解! 忠成くんも生き延びてね」
貞男は接近してくる敵に狙いを定めようとした。しかし、不規則な動きを繰り返す敵にレーザーを当てるのは困難だ。武装を再びミサイルに切り替え発射するも、その攻撃はいとも容易く回避された。
「敵のスピードが速い……真後ろから攻撃するか頑張ってレーザーを当てるかしないと……」
「貞男、いい方法知ってるぞ!」
アカネが貞男に耳打ちする。
「えっ、そんな方法で……?」
───円盤を繰る【サキュベーター】たちは迫りくるミサイルを回避し、次の攻撃に備えていた。
「敵機から何かが射出されました、どうやら兵器ではない模様」
「確認しろ」
「補足、拡大します」
「なに、あれ……?」
「あれ、は……」
彼女たちは目の前の光景に愕然とした。
「か……」
「可愛い────!!」
そこに居たのは、こちらに向かってきていたのは、大きな大きな……地球の「猫」だった。
「ワタシは地球で猫を見た時、あまりの可愛さに動けなくなってしまった!」
アカネは思い出した。地球に来て間もない頃、初めて猫を見た時のことだ。その身を柔らかな毛に包んだ四足歩行の生物に邂逅した時、彼女は歩みを止め、立ちすくんだ。
「【サキュベーター】は可愛い物に弱い。特に初めて見た可愛い物にだ」
「そうか、なら猫があれば……!!」
「そんなふざけた方法で……しかも、猫なんてある訳……」
「当然持ってきてるぞ!!」
アカネが手にもっていたのは大きな猫のぬいぐるみだった。
「アカネ、そんなのいつの間に持ってきてたの!?」
「出発まで時間あったから、家から持ってこれた!」
「ちょっと見ない時間あったと思ったら……」
(ボクもちょっとだけ家に帰ってたのはバレてないよね……?)
「鬼童くんだけじゃなかったなんて……」
「しっかりバレてる……!?」
「あなたたち、本当にマニュアル読み込んでなかったのね……」
「イロハが教えてくれたことだけで充分だと思ったけど、駄目だったか?」
「はぁ……まぁいいわ。その猫のぬいぐるみを宇宙に打ち出して敵を足止めしてその間に攻撃するのよね?」
「そ、そんなぁ……!!」
アカネは悲しそうな顔をしてレイコに訴える。
「あなたが言い出したんでしょ……」
レイコは有無を言わさずぬいぐるみを発射した。巨大な猫が敵の方に向かって行く。
「敵の動きが止まった……!」
「ほ、本当に効いてしまったわ……」
「うわあああああああん!!! あんまりだああああああああ!!」
「地球に帰ったら買ってあげるから……」
貞男はアカネをなだめた。そして攻撃ボタンを押して敵機を撃破した。
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