第33話、ついに「彼」の正体が明かされる

「───くん……!! 緊急事態よ!!」

「貞男!! なんか来た!! 敵かも!!」

「……はっ!?」

 貞男は瞑想という名のただの妄想から気を取り戻し、コントローラーの上にあるミニモニターをチェックする。

「未確認飛行物体……せ、戦闘準備!!」

 レイコとアカネはそれぞれの位置に着いた。


ザザーッ!!


「鬼童くん、向こうから通信が来たわ」

「カチコミか!? カチコミか!?」

「あーあー、聞こえるか?」

「その声は……!?」

 貞男は聞き覚えのある声を聞いた。若干苦手な陽気な雰囲気、しかしながらもいつもその声に励まされてきた、そう、あの男だ。

「よう、サダ!! エスコートしに来てやったぜ!!」

「忠成くん!? ど、どうして!?」

「言ってなかったが実は……俺は宇宙の平和を守る統治機構……その名も宇宙警察の一員だったんだぜ!!」

「う、宇宙警察!? 高嶺さん知ってる?」

「全く知らないわ……。一体なんなの、それは?」

「宇宙の平和を守る統治機構っす!!」

「それはさっき聞いたわ……。知りたいのは活動内容とあなたの素性よ」

「あっ、じゃあ話せる範囲からでイイすか?」

「え、ええ……」

 レイコは急にテンションが変わった槍山に困惑したが、彼はそんなこと気には止めずに事情を説明する。


───槍山忠成は、地球に住む普通の少年だった。ある日のことだ。彼が公園で遊んでいるときに、空中から「存在」が超高速で落ちてきた。その「存在」は、宇宙警察の開発した「意識転送装置」によって生成された肉体を持たない、いわば「魂」であった。不幸な事故で地球人と融合してしまった「存在」は、そのまま槍山忠成という地球人として生活することになった。


「───と、いう感じっすね!! 普通の地球人として馴染んで生活するのは大変だったけど、サダみたいな友達に恵まれたお陰で楽しかったっス!!」

「いえ、あなたの地球人生活は色々ツッコミどころはあったけど……とりあえず槍山くんはエイリアンってことでいいのよね?」

「えっ!? そ、そうなの!?」

「鬼童くん話聞いてた?」

「うーん……俺は自分が地球人だと思って生きてるし、別にこれからもサダと友達やめる気無いんで、エイリアンじゃないということにしてもらえるっすか?」

「元の人格はどうしたの?」

「融合しただけで消えては無いっすよ! 二つの魂が合わさって槍山忠成っす!」

「あと、変な喋り方するのをやめなさい。私だってあなたと同級生のはずだけれど」

「は、はい……」

 槍山は珍しくしょぼくれた。

「レイコ! 今のはさすがにないだろ!」

「ごめんなさい。少し言い方が厳しかったわ」

槍山は満面の笑みを浮かべた。

「ところで忠成くんはエスコートって言ってたけど、具体的に何するの?」

「72時間ずっと休めないのは辛そうだったからな。こっからは俺が、いや……俺たちが索敵を担当するぜ」

 通信が映像付きに切り替わった。そこには見覚えのある……ような無いような顔が4つ並んでいた。

「やぁ、久しぶりだな!! バレー楽しかったぜ!!」

「アタイも一緒に月に行くネ!!」

「HAHAHA……!! ジャパニーズボーイ、両手にフラワーってやつかい? イイネ!!」

「オイシーカレー、イパイツクテルヨ!!」

「あの人たちは……!? ……誰だっけ」

「鬼童くん、多国籍連合軍とか名乗ってた人達よ。夏休みの時に戦った」

「レイコが瞬殺したせいで覚えてないぞ!!」

「HAHAHA……まぁいいさ、君はすごいストロングだったカラね」

「オイシイカレー!!」

「槍山くん、この人はカレー星人なの?」

「パフェ星人だ」

「???????????」

 一同は固まったが、何を聞いてもどうせ理解できないのですべてを諦めた。

「あっ、そうだ。サダ、どうせお前マニュアル読んでねえだろうから、コントローラーアーケード仕様に変えといたわ、操縦しやすかったろ?」

「ど、どうやって!? お母さまの目を盗んでそんなことできるはずが……」

「簡単さ、高嶺さん。俺たち宇宙警察に地球規模のセキュリティなんて関係ねえ……そして俺はサダのためなら何でもする。それだけさ」

「ワタシ、コイツが怖くなってきたぞ……」

「諦めて。忠成くんはこんなヤツだから」

「あっ、そうだ!!」

 槍山は突然何かを思いついた。

「サダ、チュートリアル受けてくか? 俺の宇宙船には訓練用のダミーもあるんだぜ」

「やるやる!!」

「チュートリアルって……ゲームじゃないんだから、全く……」

 槍山の宇宙船から何かが射出される。すると、ミニモニターのレーダーに赤い印が浮かび上がった。

「まずは操作確認からだな……。左スティックを左に倒してくれ」

「うん」

「そうだ。それで左に旋回できる。次は右に倒せ」

「うん」

「上手いぞ!! 次は上で上昇だ」

「うん」

「……私は一体何を見せられているの?」

「面白そう! ワタシもやりたい!!」

「どこをどう見てそう思ったの……?」

「さぁ、次はお待ちかね。武器を使うぞ!!」

「やったー!!」

「L1ボタンで目標を補足、センターに入れてAボタンでスイッチ!」

「凄い!! 面白いよこのゲーム!!」

「だろ?」

「ゲームではないのだけど……まぁ、気負うよりはいいのかもね……。私は仮眠でも取っているから、用があったら警報でも鳴らしてね」

「警報を鳴らすコマンドは上上下下左右左右ABABだ!」

「凄い複雑だけど何故か覚えやすい!!」

「貞男!! 終わったらワタシにもやらせてくれ!!」

 貞男たちは時々通信を取って遊びつつも、しっかりと休んで月へと進んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る