第32話、種の保存

───ここは、僕のために用意された宇宙船だ。滅亡した人類に残された唯一の男として【サキュベーター】に捕獲された僕は、彼女らに「種の保存」を命じられた。

 僕が居るこの部屋には何もない。装飾品は無いし、床すらも存在しない。ここにあるのは繁殖用のベッドただ一つだ。巨大なベッドは床を覆い隠し、その上には彼女たちによって「保護」された妊娠に適した女たちと、「用済み」と判断された【サキュベーター】たちが横たわっていた。服を着ることは許されず、この部屋から出ることは許されない。まさに、性の監獄だった。そしてその中央に僕たちは居た。

「鬼童くん……鬼童くん……」

 高嶺さんが長い脚を僕の脚に絡みつかせて、うわ言のように名前を呼んでいる。彼女は汗ばんだ身体を僕の身体にはしたなく擦りつけ、僅かな快楽を享受しようとしていた。この部屋に撒かれた「ミスト」の影響で正常な判断力を失った彼女は、発情してこの場に居る唯一の男を求めた。

「ミスト」によって理性を失ったのは当然高嶺さんだけではない。

「貞男ぉ……ン……ちゅっ……貞男ぉぉ……ちゅぱ……れろ……」

 アカネが切ない声を上げながら、僕の指を咥えた。わざとらしく音を立てながら僕の指を一本ずつしゃぶってくる。上目遣いでこちらの様子を伺いながら、舌で僕のモノを舐る。時たまに咥内を見せつけるように大きく口を開き、また咥える。粘度の高い唾液がゆっくりと橋を架けて、消えていく。

「ククク……ミストの効果は大きく分けて二つ。食事なしで栄養を補給させること、立てないほどの強い発情をもたらすこと……少年は無限に沸き続ける性欲をここに居る女たちにぶつけなければならないのさ、それがどれだけキミの大事な人であったとしても、ね」

「あら、余裕ぶってるけど……ラティも、こんなんじゃない?」

「あっ、カリン……!? 駄目だ、そこはぁ……!!」

「ンッ……アァン……!?」

 カリンはラティアーノの弱くなってしまった細い身体に指を這わせる。「ミスト」の影響で二人の脚は立ち上がれないほど震えていて、カリンは彼女に覆いかぶさるように倒れかかり、お互いの股の間に脚が挟まるような態勢を取った。微かな振動は熱い身体を慰めるには十分で、彼女らはそのまま気を失うまで抱き合った。

 この部屋では女同士で慰め合うことは決して珍しいことではない。常に発情した身体に与えられた男はたった一人、気が狂いそうになり、女は性を渇望する。疼く身体は気を失うまで収まらず、目を覚ませばまた地獄のような疼きが襲ってくる。嬌声が鳴りやんだことは一度も無かった。

 この場で絶対的な王として選ばれた僕は、いつでも誰でも抱ける権利と選ぶ自由が与えられていた。「ミスト」の影響で眠ることなく常にいきり立った状態の僕は、気が狂いそうな女たちを救うために、満遍なく抱いていく。

 僕は久しぶりに目の前に居る緑色の女の子に目を付けた。

「へ……? わ、私は見るだけで、じゅ、十分だから、えへへへ……うひゃぁっ!?」

 シズクは逃げるように後ずさりしたが、やはり思う用に身体が動かなかったようで、僕は簡単に彼女を捕まえることができた。

「ダメだよ……こんなところで一人で慰めてるだけじゃ、頭がおかしくなっちゃう」

「だっ、大丈夫……わたしなんかより他の子を抱いてあげて、ね?」

「ここは本音で語ってるのに?」

「ひゃうんっ!?」

 僕はシズクの正直になっているところに指をさした。彼女は素っ頓狂な声を上げ、顔を真っ赤に染めた。

「無理しないで。シズクさんも気持ちよくなろ?」

「ひゃ、ひゃい……」

 観念したシズクはゆっくりとそれを受け入れる体勢を取った。僕は貪るようにして彼女に覆いかぶさる。

「ああっ……来たっ……!! きちゃっ……!! すごい、しゅごい……!! ンンン!!」

「シズクさん……!! やっぱり、無茶してた……!!」

「だ、らめ……っ!! おかしくなりゅっ……!! ひさしぶりだとぜんぜんちがう!! あんっ!! んんんん……!!」

 シズクが体を震わせる。しかし、それでも僕は腰を打ちつける。目の前の女に必死になっていたら、後ろから誰かが僕の身体をいやらしく撫でまわしてきた。振り返るとそこにはアカネと高嶺さんが居て、とろけ切った顔で僕を見つめていた。

「貞男ぉ……ワタシ、ワタシにも欲しい……」

「鬼童くん……鬼童くぅん……」

「二人とも、しょうがないな……ほら!!」

「ォオオオオオオオオオオ!!」

「鬼童くううううううううん!!」

 僕は空いた両手でそれぞれを激しく責め立てた。すると、二人は獣のような雄たけびを上げながら腰を突きあげて、身を震わせた。

三人の、いや……「三匹」の雌の雄たけびに反応した獣たちが、膝をつき、前足をそろりと動かしながら、僕の……群れの「王」の中心に集まって来る。絶世の美女たちの手が、脚が、僕の身体に絡みついてくる。それらの一つ一つが悦楽となり、気が遠くなっていく。

淫臭が漂う宇宙船の中で、僕はついに理性を失った。

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