第11話、鬼童貞男死す!

「さぁ、次は四十発目、ここで降参して【童貞】を差し出してくれればやめるけど、どう?」

「ボクは……」

 貞男は狼狽えた。完全な絶望の淵から落ちるその瀬戸際で、なんとか踏みとどまり、もう一度自分を奮い立たせる。

(駄目だ、嫌だ。ボクはやり遂げるって決めたんだ……!!)

「や、やってみせろよドエス女!! ボクはそんなムチなんかには負けないぞ!!」

 貞男が勢いよく啖呵を切ると、ムチに舌なめずりをしたカリンは大きく振りかぶったが、ムチを打とうとしたその瞬間、部屋が大きく揺れた。


ドン!! ドン!! ドン!!


「……? 地震かしら」


ドン!! ドン!! ドン!! ドン!!


「な、何の音なの……!?」


ドン!! ドン!! ドン!! ドン!! ドン!! ドン!! ドン!! ドン!!


ガッシャーーーーーーーーーーン!!


 大きな破壊音を轟かせ、天井が崩れ落ちる。瓦礫の山の上には、【破壊の鎚】を持った赤い髪の少女と、【勝利の槍】を持った黒髪の少女の姿があった。

「貞男!! 助けに来たぞ!!」

「全く、世話が焼けるわね」

「アカネ……!? それに高嶺さんまで、どうしてここが……!!」

「チャラ男がオマエのカバンに発信機仕込んでて、貞男が学校に来なくて心配になったからワタシに言ってきたんだ!!」

「えっ、忠成くんそんなことしてたの……」

「あなたの友達って変な奴しか居ないのね。仕方がないけれど」

「くっ……もうすぐで若々しい肉を削げたのに……!!」

「あら訂正。敵も変なのばっかね」

「貞男、ボロボロじゃないか!! カリン、なんてことをしてくれたんだ!! ワタシの友達だぞ!!」

「なんてことをしてくれた、っていうのはあなたの方よ、この裏切り者! 【性王】様はあなたが離反されたことを大変嘆いておられましたよ……。この男の【童貞】を奪うために地球に降りたのに、何故私の邪魔をする、紅葉カエデッ……!!」

 怒りで豹変したカリンは今までの冷静な姿を捨てた。ムチを持つ腕は血管が浮き上がり、顔も真っ赤に染まっていた。

「カリン、オマエの邪魔をした訳じゃないぞ。ワタシは友達が好きだ。友達を傷つける奴が嫌いだ。だから止めに来た。それだけだ!!」

「貴様あああああああああ!!」


ビュウウウウウウウウン!!


カキン!!


「なにぃっ……!!」

 カリンはムチでカエデを攻撃する。しかし、その攻撃は届かなかった。レイコの投擲した【勝利の槍】がムチを弾いたのである。

「貴様は……地球の【貞器】使いの一人、高嶺レイコ……!!」

「あら、知っていたの。光栄ね」

「ふざけるな……私は今裏切り者を罰さなければならない……どけっ!!」

「はぁ……分かってないのね。あなたは私の、私たちの仲間を一方的に傷つけた。それなのに、一対一で正々堂々戦うなんてこと、すると思う?」

「カリン!! 全力で叩きつぶしてやるぞ!! 覚悟しろ!!」

「くっ……くそおおおおおおおおおおおおお!!」

 カリンはカエデに向かって、やけくそになって鞭を振るう。しかし、そのすべての攻撃が自由に飛び回る【勝利の槍】によって弾かれていく。そして、【破壊の鎚】を持ったカエデが彼女の方に向かって行く。

(すごい……あの槍って飛べたんだ)

「宇宙の果てまで、とんでけええええええええええ!!」


ドゴオオオオオオオオオオオオオオオン!!


「くそったれええええええええええええええ!!」


 カエデは【破壊の鎚】のフルスイングでカリンを吹き飛ばした。先ほど空いた天井の穴から、すさまじい勢いで飛んでいく。そして、その姿はすぐに見えなくなった。

(というか、あの人最後キャラ崩壊凄かったな……)

「って、いててて……安心したら急に痛みが」

「大丈夫か!? すぐ手当してやるからな……!!」

「紅葉さん、そんなに慌てるほどではないでしょう。落ち着きなさい」

「だって、凄く痛そうだぞ!!」

「……そうね。【サキュベーター】の動きを察知できなかった我々高嶺家にも責任があるわけだし、ウチで面倒見るわ」

「救急車!! 地球には救急車っていうのがあるんだろ!!」

「必要ないわ、もうお迎えは呼んでるもの」


パタパタパタパタパタパタパタ……!!


 頭上からヘリコプターのローター音が響いている。穴の開いた天井から、すーっとロープが降りてきて、僕はそこに固定される。そして、まさに引き上げられようとしたその瞬間、貞男の気はどんどんと遠くなっていった。

 ヘリに引き上げられた頃、貞男の意識はすでになかった。

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