第21話、槍山ハンパないって、そんなんできるか普通

 一週間後、待ち合わせ場所に三人は集まった。すると、槍山の手配したリムジンが目の前に現れた。

「す、すごいね……これ忠成くんが用意したの?」

「結構大変だったんだぞー。ま、サダのためなら俺はなんでもやるさ」

(この前から思ってたけど、この人は鬼童くんのストーカーなの……?)

 レイコは感心することなく、ただただ引いていた。


 一行が大きなリムジンに乗り込むと、まず目にしたのは大きなソファー、そして何故か空中にぶら下がっているミラーボールだった。窓のカーテンは自動で閉められ、車内は急に夜のようになった。真っ暗な空間が七色に光り出すと、槍山は急に大声で叫び出した。

「イエエエエエエエエエエエエエエエイ!! 盛り上がってこおおおおおおおうぜ!!」

 槍山は最早作られたキャラだろと言いたくなるほど、いかにも「パリピ」という装いでマイクを取り出し、カラオケマシーンを起動させた。

「た、忠成くん……そんな陽キャのテンション誰もついてけないよ……!」

「イエエエエエエエエエエエい! 貞男も一緒に歌えー!!」

「えっ、ちょっ……アカネ、ってこの曲この前アカネにオススメしたアニメのオープニング!?」

(安心しろサダ……お前とその友達の共通の音楽の趣味はちゃんと把握済みだぜ……)

(なんか忠成くんまた怖いことやってる気がする……)

「鬼童くんも大変ね……じゃあ私は目的に着くまで本でも読んでおくから……って、紅葉さん!?」

 レイコがイヤホンを付けてカバンから本を取り出そうとすると、アカネはその腕を掴んで阻止した。そしてイヤホンを勝手に外し、タンバリンを彼女の手に押し付けた。

「レイコも一緒に歌おう!! 歌詞わかんなくていいから!! な??」

 結局レイコも三人のカラオケに付き合わされたが、目的地が意外と近かったため、それほど多くの曲は演奏はされなかった。

「着いたみたいだぜ」

「はぁ……疲れたわね。30分くらいしか乗ってないはずなんだけど……たったこれだけのためにこんなものをレンタルしてきたの?」

「あぁ、リムジンはレンタルじゃなくて俺がオーダーして買って来たんすよ、運転手はさすがにレンタルっすけど」

「???????????」

 普段冷静なレイコでも、さすがに理解ができなかった。

「あはは……忠成くんはそういうとこあるからね」

「この人は何者なの……」

「チャラ男! やるな!!」

「サダのためなら何でもするぜ~!!」

「ワタシも負けてられないな!!」

「その勝負、分が悪そうだからやめた方が良いと思うわ……」

 レイコは槍山を、この世の物とは思えないというような表情で見た。槍山は変顔をして返したが面白くなかったので無視された。

「そんなことより、あれ見てよあれ!!」

 貞男がはしゃぐ。目線の先には海があった。

「おー!! 俺が地球の海か!! こうやって地面から見るのは初めてだ!!」

「そこの変態が書いた旅のしおりにも書いてたでしょ。今更そんなはしゃぐなんて、海も見たことないの?」

「ない!」

「ワタシもだ!」

「……まぁ、そうね。楽しめるだけ楽しめばいいわ……」

 割と近場に海があるはずなのに海を経験したことが無い貞男と、地球に来て間もないアカネは海を見てはしゃいでいた。その一方でレイコは冷ややかな態度を取っていたように見えたが、二人を見守るその目は優しくも見えた。

「早速海……と行きたいところだが、とりあえず荷物を別荘に置いて、水着に着替えて浜辺に集合、ってことで」

「槍山くん、もしかしてだけどその別荘って……」

「この日のために買っ……」

「……いえ、もういい。もういいわ……」

 もう何も聞くまい、とレイコは思った。


 四人とリムジンの運転手は別荘に移動した。海がよく見える場所にある別荘だ。三階建ての立派な木造建築で、最早別荘というより「豪邸」だった。

「わぁ……凄い別荘だね、結構新しそうに見えるけど、まさか新築じゃないよね?」

「さすがの俺でも新築は無理だな。でもここに家を建てた漫画家が手放したのが数カ月前、ってことらしいからほぼほぼ新築みたいな状態みたいだぜ」

「この前見たアニメでやってたヤツ!! 海の傍で漫画描こうとしたけどアシスタントが集まらなかったんだな!!」 

(数千万……いや、億クラスの価値があるように見えるのだけど……)

「それにしても、紅葉さん……地球に来て一カ月くらいなのに、随分馴染んでるみたいね」

「ワタシたちは寝る必要が無いからな! 貞男が教えてくれたアニメとか映画は大体見た! 今は夏休みだし、色んなのを探して見てるんだー! レイコもオススメがあったら教えてくれよな!」

「いえ、私はテレビの類は分からないのだけど……」

「そうか!! じゃあワタシが教えるな!」

「はいはい……楽しみにしておくわ……」

 レイコの応えは生返事だったが、アカネはそれはもうウキウキとした表情で何を勧めるかを考えるのであった。

「さぁさぁ、おしゃべりはここまでにして!! 部屋の割り当てはもうしてるから、そこに荷物置いてさぁ海に出発だ!!」

 貞男は手早く着替えて浜辺に行くのだった。


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