第45話、エピローグ(1)
貞男たちは無事に街に帰還した。全てが終わって、ここから新しい物語が始まっていく。地球を救った彼らは、どう過ごしているのだろうか。
鬼童貞男は相変わらず童貞だった。セイナの【貞力】を相殺するために多くの【貞力】を使ってしまったため元々持っていた力のほとんどを失ってしまった。その代わりに新たな力を得ることになり、童貞を守る必要は無くなったにもかかわらず、童貞のまま地球を守ることになった。
高嶺レイコは【貞力】を未だに保持しているが、その力は【サキュベーター】等には及ばない。しかしながら、その巧みな体術を駆使して地球にやって来る侵略者たちを撃退している。力を失ったはずの貞男に別の力を与える手段を探し出し、無理やりに地球防衛の仕事を助けさせている。
紅葉アカネは良くも悪くもいつも通りといった感じで、貞男の家の合鍵を作ってもらってからは貞男の不在時でも家に入り浸っている。最近料理の作り方を勉強し始めたようで、貞男が美味しそうにご飯を食べる姿を想像してニマニマしながら料理の試作をしている。
碧山カリンはなんだかんだで教師の真似事をするのが楽しかったようで、地球でちゃんとした教員免許を所得するために勉強を始めた。高嶺家の力によって義務教育は修了したものとされたが、これから大学受験を控えているため必死で勉強している。
翠山シズクは相変わらず漫画を描いて暮らしていた。相棒のクラーケンは小さい状態で彼女が漫画を描くところをいつも見守っているらしい。
ラテ・フラペチーノは前々から興味のあったバーの経営に乗り出した。しかし、彼女は他の誰にも行方を知らせず、出来るだけ目立たない立地に店を設けたため、未だに何をしているかが謎に包まれている。
そして……。
「聞いたか!? また転校生だってよ!!」
「紅葉さんに続いてこのクラスに二人目……しかも、こんな学期終わりにだなんて! これはきっと宇宙を支配する闇の組織の陰謀に違いない……!」
「噂によるとめっちゃ可愛い女の子らしいぜ」
「キャー!! 楽しみー!! 紅葉さんみたいにスタイルいいのかな?」
「男子たちに言い寄られないように私たちが守ってあげなきゃね……」
(すごい……教室中大賑わいだ。緊張しなければ良いけど……)
「えー、皆さんお静かに。うるさいと転校生の方も入ってこれません」
「そ、それはこまるな……」
喧噪が静まり返る。すると、教室に一人の少女が入ってきた。高嶺レイコにも匹敵する美少女だ。仕草の一つ一つから大人の妖艶さを感じさせながらも、どことなく幼いその顔立ちからは清廉さも感じさせる。
身体の全てのパーツがこの地球上の生物とは思えないほどに整っていて、見るものすべての視線を奪うこの惑星の侵略者にして、この銀河の神様でいて、たった一人の普通の女の子が、そこに立っていた。
「初めまして、武甕セイナです。今日からお世話になります」
この場に居る全ての人間はあまりの美しさに声を失い、呆然とした。
「あの……どこか変でしたか? さっちゃん、もしかして制服似合ってない?」
「ううん、似合ってるよ、凄く可愛い」
貞男がそう言うと、教室が騒めく。
「さっちゃん!?」
「き、鬼童くんと彼女は一体どんな関係なんだ……!!」
「も、もしかして……か、彼氏!? あんな冴えない男が!?」
「ええーい!! 皆の者、静まれーい!!」
異様な雰囲気の教室を槍山が鎮める。
「ごっほん……。では俺から説明しよう。セイナちゃんはちいさい頃からサダの大の親友だったけど、彼女は小さい頃に引っ越しでこの街を出て行ってしまったのじゃ……。そんなセイナちゃんがようやくこの街に戻ってきて、サダと会ったのじゃ……幼馴染の感動の再会を邪魔するでないぞ」
「や、槍山くんが言うなら……」
「ヤリ爺ありがとう!」
「よっ! 槍山屋!」
教室中が笑いに包まれる。それにつられてセイナもくすくすと笑った。
「凄いね、あの子あんなに人気なんだ」
「そうだよ。ボクも忠成くんには良く助けられた。間接的にせなちゃんのお陰かもしれないけどね」
「あー、お話しているところ悪いんだが、武甕の席はあっちだ。鬼童から遠くなってすまん」
「いえ、いいんです。それよりもずっと遠い所から待ち続けたから、そのくらいは」
「? まぁ、武甕が良いなら良いんだが……」
セイナが席に着くと、その周りを女子が囲んで質問攻めをした。どこから引っ越してきたか、貞男とはどんな関係なのか、好きな食べ物は、好きなテレビは、やっているSNSサービスは、矢継ぎ早に質問される。一人の女子が制止してからようやく彼女は質問の一つに答えた。
「私とさっちゃんの関係……ですか。片思いってところですね」
「片思い!? どっちの!?」
「私のです」
「絶対そんなことないって! セイナちゃん可愛いよ」
「いえ……私は一度振られた身ですから」
「えっ!?」
「嘘!?」
「こんな可愛い子を、あの鬼童くんが振ったの!?」
「えぇ、そうです。でも私も諦めたわけではありません。私に足りなかったのは魅力だけではなく共に過ごした時間……失われた時を取り戻すために、私はここに来ました」
「えっ……それって!?」
「ヤバ、愛じゃん!」
「応援するよ! なんでも言って!」
「ふふ……ありがとうございます」
(アカネ、レイコ……ごめんなさい。この気持ちに気づいているのは多分、私だけだから……。狡いかもしれないけど、あなたたちを待っている気は全くないからね)
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