第6話、ドキドキ……男の子の好きなモノがたくさんあるよ!

 貞男はレイコに導かれるまま、だだっぴ広い屋敷の中を歩いていく。庭はそのまま日本庭園で、鹿威しの音まで聞こえるような屋敷で、女の子の家というより旅館のようだな、という気持ちが彼の緊張感を和らげた。一行がひと際大きい建物に入ると、和風な外見とは裏腹に、生体認証用のセンサーが、金属製の扉の前に設置されている部屋にたどり着いた。

「ここよ」

レイコはセンサーに手をかざす。

『タカミネレイコ、ニンショウ……ロック、カイジョシマス』


ウイイイイイイイイン!!


ガシャン!!


「ほら、行くわよ」

 貞男はあっけに取られていたが、気を取り直してレイコについていった。


「こ、ここは……!!」

 そこに広がっていたのは、巨大な地下室……いや、地下要塞と形容した方が良いだろう。とてつもない規模の施設が広がっていた。

「ここが私たち、高嶺家よ」

「た、高嶺さんの家って一体……」

「正確に言うと、私の家ではないわ。とりあえず、高嶺家の歴史を説明していくわね」


───高嶺家は由緒正しい家……ただし、それだけではなかった。

いつの時代からかは分からないが、かなり昔……記録が残っているだけでも江戸時代の始まりから、高嶺家は様々な外敵から地球を守っていた。外敵というのは無論、宇宙からやって来る者たちのことだ。高嶺家の人間は、世界各地に散らばり、地球を守り続けた。

いつしか、「高嶺家」という言葉は、宇宙の外敵から地球を守る組織を指す言葉になった。【貞器】を使えるのは高嶺家の血を引く者だけだったが、それをバックアップするスタッフ等も高嶺家の人間として、世界各地の地下に防衛施設を築いているのだ。


「───その内の一つが、この施設よ」

「ちょっと待って。さっき気になること言ってたんだけど……ボクって高嶺さんの親戚だったり……する?」

「多分、そうだと思うわ。あなたからは【貞力】の流れを感じる。普通の人間には【貞力】と【貞器】を使役することはまず不可能なの」

(高嶺さんとボクは親戚……なんか変だなぁ。こんなに違うのに)

「まぁ、【貞力】や【貞器】を私たちが使える理由も分かっていないから、それ以外の重要なファクターがあるのかもしれないけどね」

「ふぁ、ふぁくたー……? う、うん」

 貞男はよく分からなかったが、とりあえず頷いた。

「まず、研究所から見ていくわね」

「研究所……?」

「私たちの敵は【サキュベーター】に限らないわ。今までに地球に来た様々なエイリアン共の研究をここでしているの」

「エイリアン……って」

「安心して、ほとんどのエイリアンは【貞器】の敵ではないし、私たちと同じく【貞器】を使える【サキュベーター】だけが今の脅威よ」

「【サキュベーター】はなんで【貞器】を使えるの?」

「それは分からないわ。解剖してみたら分かるかもしれないけど」

「ア、アカネには手を出さないで!」

「出さないわよ。さすがに人間と見た目が同じ生き物にそんなことできないわ」

 二人が話していると、目の前に眼鏡をかけた白衣の女性が現れる。

「お待ちしておりました。レイコ様と鬼童様」

「なんでボクが来ること知ってるの?」

「さすがに監視カメラくらい付いてるわ、当然じゃない」

「こちらから仲睦まじい姿を見せてもらいましたよ」

「えへへ……それほどでも」

 レイコは貞男の横っ腹に強烈な肘打ちをした。


「それでは、研究室の方を案内させていただきます」

 研究員らしき女性は歩きながら色んなものを見せた。展示されていたのは剥製やホルマリン漬け、そのほとんどが地球ではほとんど見たことのない生物だった。貞男はその中で気になったものを見つける。今までになかった人型の生物が巨大な試験管の中に浮かんでいたのだ。

「ゾンビ……?」

「確かに、そのような見た目をしていますね。しかし、これはゾンビなんかではありません。あなたも先日戦われた【サキュベーター】の【貞器】なのではないかと推測しています」

「どう見ても人にしか見えないこれが……?」

「えぇ、この【貞器】……我々は【淫フルエンサー】と呼称しているのですが、知性が高い【サキュベーター】と比べると、【淫フルエンサー】達は単純な行動しかとることができません」

「知性が高い……?」

「紅葉さんのことを言ってるならあなたの知性も低いわ」

「……話を戻しますよ。【淫フルエンサー】は言葉を喋りません。理解もできません。しかし、生殖行為だけはできます」

「生殖行為……子供を産めるようには見えないのだけど」

(なんかエッチな話題の気がしてきたぞ……!!)

「生殖行為と言っても、【淫フルエンサー】自身がするわけではありません。これはあくまで【貞器】ですから。しかし、ここからがこの【貞器】の恐ろしいところで、【淫フルエンサー】の身体では人を淫乱にするウイルスのようなもの……【淫フルエンザ】が生成されていて、一度噛まれるようなことがあれば、どんな清純な女性でさえ、男を求めてしまうことでしょう。そして、他の女性に対しては【淫フルエンサー】と同じように噛みつくような行為で、【淫フルエンザ】を感染させる。この点で言えばある意味、鬼童様の想像するゾンビに近いものかもしれませんね」

(やっぱりエロい話か……!?)

「そのフェロモンは女性にしか効かないものなの?」

「いえ……しかし、女性にしかこの【貞器】は攻撃しません。おそらく、女性に自らの子孫を孕ませることを目的としているのでしょう。このウイルスに感染した状態で受胎した子は人間ではなくなってしまう可能性があります」

(いや、怖い話だったかもしれない……)

「そして詳細は分析中なのですが、そうしてパンデミックを起こすことによって地球上の現生人類を全て【淫フルエンサー】に置き換えるという方法での侵略を企てていたのではというのが、所長の見解です」

「この施設は女性しか居なかったはずだけど、安全面は大丈夫なの?」

「大丈夫です。すでに【淫フルエンサー】を捕獲してから3か月ほど経っていますが、捕獲時から状態は変わらず、活動する様子もありません。安心して分析できます」

「そう、それならいいわ」

 液体に漬けられプカプカと浮かぶ【淫フルエンサー】は動かない。しかし、そのうっすらと開いた瞼は、何かを探しているように見えた。貞男は背筋に寒気を感じ、その場を後にした。

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